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インタビュー

2021.3.22

入管法は今、どう変えられようとしているのか?大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2021.3.22

インタビュー #難民 #収容問題 #法律(改正) #安田菜津紀

今年3月6日、名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ人の女性(33)が亡くなったことが報じられた。支援団体は、女性が歩けないほど衰弱し、嘔吐してしまうため面会中もバケツを持っていたと指摘している。以前から、無期限の収容などが「拷問」にあたると、国連などから度々指摘を受けてきているが、入管施設ではこうした死亡事件も相次いでいる。

2021年2月19日、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」を政府が閣議決定した。この法案には「送還忌避罪」(退去命令拒否罪)「仮放免逃亡罪」など、罰則の新設が盛り込まれている。

法律の「改正」は、人権がより守られる方向に、あるいは人々の生活がより適切な形で保てる方向に行われるべきもののはずだ。けれども閣議決定された法案は、それとは真逆の内容となっていると、人権団体や各地の弁護士会から批判の声があがっている。

そもそも、退去強制令書が出された9割以上の人々は、送還に応じている。それでも帰国をできない人々は、「命の危険がある」「家族が日本にいる」「生活の基盤の全てが日本にある」など、帰れない事情を抱えた人たちなのだ。

こうした動きは、東京五輪も深くかかわっている。2016年には局長名で「東京五輪の年までに、不法滞在者ら社会に不安を与える外国人を大幅に縮減することが喫緊の課題」という内部通達がなされている。そもそも“不法滞在者”、あるいは何かしらの形で在留資格を失った方々=社会に不安を与える外国人である、という安易な結び付け自体、不適切ではないだろうか。

閣議決定された法案は、これから国会での審議が始まるとされているが、その問題点を、3月1日のChoose Life Projectの番組《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》を通して、クルド難民弁護団事務局長で、弁護士の大橋毅さんに伺った。

(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)


 

2018年から「仮放免」による解放がほぼなくなっていますが、そもそも外国人に対する「収容」「仮放免」とは何でしょうか?

「収容」とは簡単にいうと、入管施設に拘束して、出られない状態にすることです。それは刑法に抵触するような犯罪が理由ではなく、本来は強制送還をする場合の準備のための一時的な措置のはずなんです。ただ現状は、そうではない目的で収容されてしまっている人たちもたくさんいて、制度としても、運用としても問題があります。

それに対して、「仮放免」は、正式な在留資格は持ってないけれども、収容施設の外に出て生活をするという制度です。以前は、収容されても半年から1年ほどで「仮放免」となるのが一般的だったのですが、ここ数年は許可が減り、収容施設に拘束されたままの人たちが多くなってきています。

現時点で在留資格が無い人たちには、様々なパターンがあります。一旦は在留資格があったのに期限が切れてしまった「オーバーステイ」の人、あるいは最初から在留資格を与えられていない人もいます。

例えば空港に到着した人に難民申請の意思があることが判った場合、空港の入管は通常の上陸手続で上陸を拒否し、「自分の国に帰りなさい」という対応を当たり前のように行っています。それでも難民申請をして帰らない場合、そのことだけで収容施設に入れられてしまうことがあります。
 

(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

上限のない長期収容も、長らく問題視されてきました。

収容が長期化し、「仮放免」による解放がほぼなくなるのは、「終身刑」のような状態ですよね。例えば刑罰だったら「懲役1年」など、期限が決まっていますが、入管の拘束は無期限で運用されてしまっています。長い人では7年近く収容されていた人もいたと思います。この収容の長期化というのは、入管自身が始めたことで、自然現象ではありません。

在留資格のない人たちの人数自体は、大きな流れで見れば入管の統計でも減少してきているんです。そうした人たちの犯罪が急増していたという事実もありません。
 

(高橋済弁護士作成)
入管の統計: http://www.moj.go.jp/isa/content/001335866.pdf

2019年、長崎の大村入管で、絶食していたナイジェリア出身の男性が餓死する事件が起こりました。

彼は暴れたりしたことで強制送還できなかったわけではなく、国と国との関係で強制送還が実施できない事情があったんです。本来、収容は強制送還のための「準備」として行うものなので、送還の目途が立たないのであれば、拘束する理由がないはずなんです。つまり現在入管が求めているものは、入管の判断に従わないで帰国しない人たちの「排除」だと思います。

過去に入管は、国連が難民と認めた人まで強制送還したことがあったのですが、2005年の法改正で、難民申請中は強制送還されないという法律になりました。その法改正は、入管としては不都合なものだったのでしょう。そこで「収容して苦しめたら嫌になって帰るだろう」と、長期の収容を行ってきたのだと僕は思います。それでもなお帰らない人たちがいるので、これは法を変えるしかない、と今回の法案につながったのではないかと思います。
 

ここからは大橋さんに、法案のポイントを伺っていきたいと思います。

Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

    【法案のポイント①】難民申請中の強制送還が可能に

今度の法案では、法務省が難民と認めない決定を2回下したら、それ以降は強制送還ができるということになります。日本は難民申請者の99%以上が不認定になるという異常な状況です。申請者の99%以上を強制送還の対象にする国は、他にないと思います。
 


(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

【法案のポイント②】国外退去命令に従わないと処罰

国外退去命令に従わなければ、1年間の懲役または20万円以下の罰金となる可能性があります。これも難民申請者など、帰れない事情がある人を追い詰めるための法案になってしまっていると思います。

しかも、例えば難民申請者が難民と認められるための裁判を起こしている最中であったとしても、その間「国外退去命令に従わない」ことが犯罪ではなくならないようです。そのうえ驚くことに、後に難民として認められても、その前に命令に従わなかったことが犯罪として扱われなくなるという条文さえありません。

裁判を起こしている間、代理人となる弁護士すら処罰の対象となりえるのか、曖昧で不安を生じさせることが多くあります。
 

【法案のポイント③】「仮放免」制度⇒「監理措置」制度へ。働くと処罰

監理措置制度のイメージですが、まず民間人の「監理人」を入管が選定して、その「監理人」が、収容から解放された「被監理者」を監督し、住居などの支援をするとされています。そして「監理人」は「被監理者」の状況を届け出ることが定められていて、これを怠ると「監理人」に罰金が課されます。
 


(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

ではこの「監理措置制度」で、解放される人が増えるのか?

現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、7割方の被収容者が、「仮放免」制度で解放されています。つまり現行の「仮放免」制度でも、運用によっては被収容者を外に出すことができるんです。現在これだけの人が外に出ていても問題ないということは、感染拡大前までの収容は不必要なものだったということが証明されているわけです。

ところがこの「監理措置制度」が導入されるとどうなるかというと、「監理人」がいない限りは収容から解放されないということになります。仮に「監理人」が見つかったところで、解放するかどうかは入管の裁量に任されています。もし外に出られたとしても、「監理人」がいなくなってしまったら、「被監理者」は再び収容されてしまいます。

そして「監理措置制度」により解放された人も、一部の人を除き基本的に就労は許可されておらず、国民健康保険にも入れません。労働が発覚した場合、3年以下の懲役の対象になります。
 

【法案のポイント④】補完的保護


(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

これまでは、難民申請者が難民認定を受けられなかった場合でも、在留を認める「在留特別許可(人道配慮による在留許可)」というものがありました。しかし法案では、現行の「在留特別許可」に代わる制度として、「補完的保護」が新たに創設されています。この「補完的保護」は、いわゆる先進諸国で使われている同じ言葉とは、まったくその範囲・定義が異なるようです。

難民申請者は、上記に挙げられた「難民」の定義以外の理由で迫害を受けている場合もあります。そうした人を保護しようというのがこの「補完的保護」という制度の目的なのですが、この新制度の運用により、保護される人の範疇が広がるのかというと、僕はほぼ期待していません。

日本の難民認定率がこれまで非常に低かった一番大きな理由に、そもそも「迫害を受ける恐れを認めてこなかった」ということがあります。同じハードルがかけられるのであれば、「補完的保護」を加えたところで、在留を認められるのは1%にも満たないだろうと思います。

実は法案で規定されている「補完的保護」よりも、現行の「在留特別許可」の方が運用範囲が広く、戦争や差別から逃げてきたこと、審査を受けている間に子どもが成長して日本に定着してきたことなどが、まっとうに考慮される場合もありました。それを撤廃して「補完的保護」に取り替えてしまうことで、逆に救済される人数は減るだろうとみられています。
 

【法案のポイント⑤】被収容者の処遇の法律化

入管に収容されている被収容者をどう処遇するか、実は今までそれに関する法律がありませんでした。法律としてきちんと定めるということ自体は悪くないのですが、懸念されるのは医療の問題です。収容施設の中では適切な医療が施されず、ハンスト(ハンガーストライキ)を行った人が餓死することもありました。

法案の中には、ハンストした人に対して、医療者ではない所長が医師に指示し、本人が拒否しても強制治療させるというような条文があります。収容施設が医療を支配するようなこと自体、施設と医療との関係がおかしくなっていると思います。
 


(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

今回の配信では、難民申請中で、トルコ出身のクルド人、アリさんも、法案に対する懸念の声を届けてくれました。

彼はトルコでの徴兵忌避だったり、日本で同じ活動をしていた人がトルコへ帰って拷問受けたりと、様々なことが重なっていて、他の先進国では必ず難民認定されると僕は思っています。前回の難民認定手続きは、なんと8年半も続きました。その間に日本人と結婚して、6年以上結婚生活を続けていますが、在留特別許可すら認められていません。

こうした帰れない事情がある人たちを強制送還するのが、今回の法案の一番の目的だと僕は思っています。
 


(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より。複数回申請をしている人々で最も多いのがトルコ出身者、その次がミャンマーだ。世界の中での認定率と、日本の0%では大きな隔たりがある。)


 

では、どのようにこの法律を変えていくべきなのか?そのポイントも伺いました。


(Choose Life Project《「この入管法改正で何が変わるか?」#難民鎖国ニッポン》より)

【あるべき法律ポイント① 保護について】

まず保護については、拷問や虐待の恐れを考慮したり、家族を分断しないようにしたりと、判断を国際的な基準にのっとって行うべきです。そしてその審査、手続き自体も、国際的ルールや日本の行政手続法(公正な行政運営公正の確保と透明性の向上を図るため、行政上の手続について定めた一般法)を適用すべきです。

特に難民認定や保護の基準については、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が様々な意見、ガイドラインを出しているのですが、入管は従っていません。本来は入管に判断の権限を集中させるのではなく、政府から確実な独立性を保った機関が、最終的な保護の判断をすることが必要だと思います。

加えて、働くこともできず公的支援にもつながれず、生存さえ難しい状況に申請者を追いやるのではなく、審査を受けている間の生活をしっかり可能にする制度設計をしていくべきです。
 

【あるべき法律ポイント② 収容について】

まず、入管施設に拘束する期間をしっかり限定すべきです。もし拘束するとしても、逃亡する恐れがある、送還の準備が必要などの場合に限って行うべきでしょう。

そしてその判断に、裁判所が関与するよう制度を変える必要があります。これは刑事手続きであれば当たり前に行われていることですよね。

収容されている人が不当な扱いを受けた時、不服申し立てができる仕組みも必要です。その審査は入管ではなく、独立した機関で行われるべきでしょう。医療についても、外部の病院に連れて行くべきかどうかなど、所長を介さず、医師が最終的な判断をして、他の一般社会と同じ水準の医療を保障できるようにしなければならないと思います。

長年この問題に携わってきた大橋さんにとって、あるべき「共生社会」とはどのようなものでしょうか。

在留特別許可についてのガイドラインでは、子どもたちが日本で育っていることもひとつの重要な要素として書かれているのに、なかなか許可されないんですよね(※)。難民申請者の子どもたちが、どんなに日本で大きくなっても許可されないこともあります。

児童福祉法には、子どもの権利条約などを反映して、子どもたちが愛され、保護される権利があると書いてあります。つまり、日本は国として、子どもたちに対して責任を持つと書いてあるんです。それを法律で初めて読んだとき、僕はびっくりしたんです。そこには、「日本国民の子どもに関して」とは書いていません。日本は国籍関係なく、子どもたちに対して責任を負うはずなんです。

ところが入管は、子どもたちの在留許可を求める裁判になると、子どもたちについて責任を負うのは第一に親、第二に国籍国だ、というんです。だから日本政府は責任がない、と主張しています。それは排除の言葉だと僕は思いますね。こうしたことを言い続けている限り、共生社会は実現しないと思います。

幼い頃に日本に来たり、日本で生まれ育ったりした子どもたちが、在留資格がなくても何とか頑張って勉強して、自分で道を切り開いていく、その姿までも邪悪なものと見るんだろうか、と。「普通ならそうは見ないはずだ」という感覚を運用に活かしていくだけで、変わっていくものがあるのではないかと思います。

※ 入管の「在留特別許可に係るガイドライン」では、在留局別許可を出す「積極的要素」として「(4)当該外国人が,本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く。)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し,当該実子を監護及び養育していること」と記されている。

 

▶全国難民弁護団連絡会議
http://www.jlnr.jp/

▶入管法改悪反対の情報サイト「Open the Gate for All」
https://www.openthegateforall.org/p/top.html

(2021.3.22/聞き手 安田菜津紀)
(書き起こし協力 溝口彩)

 

この記事は「Choose Life Project」のオンライン配信「この入管法改正で何が変わるか? #難民鎖国ニッポン」(2021年3月1日配信)を元にしています。2021年末、同団体が特定政党からの資金提供を秘匿していたことが発覚し、2022年1月現在弊会では同団体との取引を行っていません。

※「Choose Life Project」に関する表記を一部修正しました。(2022.4.7)
 


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2021.3.22

インタビュー #難民 #収容問題 #法律(改正) #安田菜津紀