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Reports

2021.11.9

「多様性が、ひとつの音にならないように」 D4Pメディア発信者集中講座2021課題作品 新井馨

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.11.9

#media2021

「多様性は、何か珍しいもの出会ったり、何か特別なものでなく、本当は私たちの身近な日常に存在している」

* 取材対象者から頂いた言葉

 

“多様性” —— 多様性という言葉は、軽やかでとても綺麗な響きを持っている。それ故か、いつの間にか言葉だけが前のめりになっていると感じている。

 2020東京オリンピックパラリンピック大会をはじめとして、多くの組織がこのキーワードを大々的に錦の御旗に掲げている。しかし実際のところ、日本は本当に多様性のある社会に向けて、着実に進んでいるといえるだろうか。マイノリティへのヘイト、DaiGo氏の「ホームレスの命はどうでもいい」*1 麻生太郎氏の「2千年の長きにわたって一つの民族、一つの王朝が続いている国はここしかない」*2 というような発言は、今も昔も変わらず、ちらほら聞こえてくる。

 また、多様性は何のためにあるべきかといった根本的なところが抜けたまま、上記のような“多様性に反する”意見を認めてこそ“真の多様性”が成立するといった意見もある。果たして、多様性は何のためにあるべきだろうか。この質問に立ち向かうべく、今回は外国にルーツを持つ児童や若者の支援に長年携わってきたAさん(仮名)にインタビューしてみた。

 Aさんによると、多様性はすでに日本社会に存在しているけれど、ただそれが見えづらかったり、特定の場から排除されていたりするのが現状なのだ、という。さまざまな考えの違いはあるけれど、表現の自由を理由に誰かを傷つけ、否定する権利は、誰にもない。ヘイトは暴力であって多様性の一部分を担うべきものではないというのがAさんの見解である。

 多様性は実に私たち全員のために存在しているけれど、普段の生活において可視化されることは少ない。価値観の違う集団の中で感じる居心地悪さというのは、誰しもが一度は経験したことがあるだろう。大抵の場合、こうした居心地悪さは、ただの感覚として処理されてしまい、これが多様性に関係することだとあまり意識されない。このように、多様性が自分たちと地続きの場所に存在していることが忘れられてしまい、誰かが声をあげても溢れ落ちてしまう。

 さて、この溢れ落ちてしまいそうな、一つひとつの小さな声をより反映しやすくするために、何が必要だろうか。筆者は、自分なりに多様性という言葉を咀嚼しつつも、自分の声に執着しないことが鍵となるのではないかと考える。つまり、日本に生きる人すべてが多様性のある社会について考え続け、かつ自分の持論に固執することなく他者の考えにも耳を傾けることが、多様性のある社会の実現への第一歩なのだ。

多様性が言葉だけ前のめりにならないように。

「ひとつのおとに
ひとつのこえに
みみをすますことが
もうひとつのおとに
もうひとつのこえに
みみをふさぐことに
ならないように」*3

(新井馨)

 

*1 朝日新聞デジタル2021年8月14日付「ホームレスの命どうでも…」配信が批判されるべき理由」
*2 朝日新聞デジタル2020年1月13日付「麻生太郎氏『日本は2千年、一つの民族』政府方針と矛盾」
*3 谷川俊太郎(1982).「みみをすます」福音館書店

 

「多様性が、ひとつの音にならないように」

    「多様性がひとつの音にならないように」、これが私の最もお伝えしたいことです。マイノリティとして日本社会で生きてきた私は、今年の夏に参加した多文化共生勉強会を機に、多様性について考え始めました。その時に感じたことは、多様性は一つのスローガンとしてではなく、全ての人々が考え続けなければならない、かつそれぞれが自分の持論に固執することなく他者の考えにも耳を傾けなければならない、ということです。この文章が、皆様の多様性について考えるきっかけになれたら幸いです。

    ▶︎形式:文章 
    ▶︎対象:若者


    こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2021の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。
     

 
 

2021.11.9

#media2021