無関心を関心に—境界線を越えた平和な世界を目指すNPOメディア

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対話による未来の創造― Dialogue for People設立にあたって(1)

date2019.11.6

writer佐藤慧

categoryエッセイ

2019年10月からNPO法人として新たにスタートを切ったDialogue for People。2回に分けて、代表理事の佐藤より、設立の背景や活動にかける想いを綴らせていただきます。


D4Pの目指す報道

この10月、『Dialogue for People(D4P)』を、NPO法人として立ち上げました。これまでも株式会社『studioAFTERMODE』のメディア・アート事業部として活動を行ってきましたが、僕たちの目指す「報道」の意義、方法を話し合った末、NPO法人が現状もっとも望ましい形だと考え、新たにスタートを切りました。

世界には様々な情報が溢れていますが、あらゆる情報は、その「目的」によって価値が変わります。現在世界経済の根本システムとなっている株式市場というものは、利益の最大化、恒久的な経済成長を原動力として世界を動かしています。しかし、そのシステムの下では、「誰も興味がない(と思われている)情報」というものは市場(報道の場合は紙面、ニュースなど)に出回ることすらなく、情報の海に埋もれてしまいがちです。ところがそういった情報は、必ずしも「必要のない情報」であるとは限りません。

10年前、アフリカ南部で続く環境破壊、森林破壊に関する取材を行い日本に持ち帰ってきたことがあります。僕の取材力不足、表現力不足といった点も否めませんが、「日本とは関係がない問題は扱いづらい」と言われ、どこにも発表することができませんでした。この情報は、果たして「必要のない情報」だったのでしょうか?現在、世界規模で環境破壊に対するアクションを取らなければという機運の高まりや、SDGsといった目標設定のもとに、国や地域を越えた環境に関するニュースを見かける機会が多くなってきたと感じています。僕が取材してきた10年前のアフリカ南部の様子も、いくつかの媒体で発表したり、学校の授業で紹介したりする機会が増えました。

深刻な森林減少が続いているが、未来の世代に森を残す植林活動が少しずつ広がってきている。(ザンビア)

香港での民衆運動の様子は、日本でも多く報じられています。身近な国のできごとだからこそ、感情移入もしやすいのかもしれません。しかしそれと比べると、イラクやエジプト、スーダンで起きていることや、南米諸国での市民運動の高まりや民衆蜂起については報じられることが少ないと感じます。もちろん、すべてのことを報道することはできませんし、身近な問題から世界で起きていることの本質を知ろうとすることも大切なことです。世界中のニュースを追っていたら、それだけで1日が終わってしまうでしょう。それぞれの人が、それぞれの興味、関心に合わせてニュースに耳を傾け、それを日々に生かしていく…そういった、ひとりひとりの「草の根の活動」こそが、世界をより良いものにしていくために必要なことだと思います。

ところがもし、“そのニュースそのものが報道されていない”としたらどうでしょう。誰もその問題の解決のために行動できないという状態になってしまいます。世の中には、当事者だけではどうしても解決の難しい問題というものがあります。お互いの「正義」と「正義」のぶつかる戦争などは、その最もたるものです。そこにある問題を、当事者とは違った自分たちの立場からとらえることで、今まで存在しなかった視座から解決の糸口を見出せるということがきっとあるはずです。

ISから解放されたラッカ市内を取材中の安田菜津紀。目線の高さを合わせながら、レンズを向ける前にゆっくり話を聴く。

また、自分とは関係のない「誰かの問題」だと思っていたものが、実は自分自身の問題でもあるということに気づくこともあります。例えば、コンゴ民主共和国では、それこそ大航海時代から、その資源をめぐり凄惨な争いが途絶えません。中東諸国でも、その地政学的利益や油田をめぐり、混沌とした状態が続いています。それは果たして自分たちの生活とは関係のないものなのでしょうか。自分たちが日々消費する資源が、その争いの火種になっていると考えることはできないでしょうか。そう考えると、僕たちは知らない間に「加害者」になっているかもしれないのです。

武装勢力、いわゆる「イスラム国」の首都として支配されていたラッカ。その圧政下での殺戮だけでなく、有志連合軍による空爆でも数百人の市民が犠牲になった。(シリア)

そういった、日々のニュースからは零れ落ちがちな、けれど、より良い未来を考えるために見過ごしてはならないと思えるニュースを、より身近な個々人の具体的な体験を通じて発信することが、D4Pの目指す報道です。具体的な体験に迫れば迫るほど、その出来事が単なる数値や文字ではなく、一人の人間の身に実際に起こっていることであることに気づくことができます。その人の痛みや喜びを分かち合い、自分には何ができるか、考えることもできるかもしれません。

誰もが、よりよい世界を求めているはずです。戦争ですら、短期的には「誰かの平和」のために起こることもあり得ます。しかし、それが長期的には「終わらない戦争」を引き起こしているとしたら、もっと大きな視点から、「どんな世界を目指すか」を考える必要があるのではないでしょうか。自社利益のみを求める「市場価値」ではなく、より良い世界を創造するためのきっかけとして、NPO法人ならではの報道を行っていきたいと思っています。

「国を持たない最大の民族」と呼ばれることもあるクルドの人々は、常に領土や資源をめぐる争いの中で抑圧されてきた。(イラク)

D4Pの活動

これまで報道という観点から、D4Pの活動について述べてきましたが、あくまでも目指しているものは、誰もが尊厳を認められる自由な世界であり、報道はその手段のひとつに過ぎません。

現在僕たちは、中東地域やアフリカ諸国、カンボジアや東ティモールといった国々、日本国内の自然災害、難民の問題などを中心に取材、発表していますが、それらの情報も単に一方的に発表するのではなく、「対話」のためのきっかけとなればと願っています。先日行った音楽交流事業や、シンポジウムなどの自主イベントは、具体的な行動の可能性を考えるための場として、そして東北などで行っているスタディツアーや、これから予定している若手ジャーナリスト育成事業は、「対話」という糸口から未来を考えることのできる世代を育み、また、僕ら自身も新たな世代から学び、共に成長するためのものになればと思っています。

ひとりにできることは小さなことかもしれません。しかし、それぞれの存在にしかできないことが、必ずこの世界には存在します。そんな可能性を信じ、それぞれの役割を持ち寄ることで、まだ見ぬ未来をみなで創造していきたいと思います。

(2019.11.6/写真・文 佐藤慧)

後編に続きます


Dialogue for Peopleの取材や情報発信などの活動は、皆さまからのご寄付によって成り立っています。取材先の方々の「声」を伝えることを通じ、よりよい未来に向けて、共に歩むメディアを目指して。ご支援・ご協力をよろしくお願いします。

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