9月15日からはじまった韓国取材を終え、日本に帰国しました。支えて下さったみなさま、滞在中お世話になったみなさま、改めてありがとうございました。
これまで記してきたように、私が中学2年生の時に亡くなった父は、家族の歩みの一切を語らなかった人でした。父が在日コリアン2世だと知ったのは、死後に戸籍を見てからです。
もうひとつの「遺書」、外国人登録原票
https://d4p.world/news/8032/
詳細はまた追って書きたいと思いますが、多くの方の協力の元、今回の滞在で、父のいとこにあたる人たち、私のはとこたちに出会うことができました。ずっと謎につつまれた父のルーツを少しずつでもたどることで、自分の命の原点が見えてきたように思います。
その一方で、祖母の足取りはつかめないままです。
祖母、金玉子(キム・オッチャ)は11歳の時、釜山から山口県下関市に渡り、32才でこの世を去ったと記録されています。釜山の住所地の役所を回っても、それらしき人の痕跡は見つけられませんでした。
少しでも手がかりをつかもうと、周辺で年配の方に聞き込みも重ねました。その時に出会った、ひとりの男性の言葉が忘れられずにいます。
「金玉子? 名前で呼ばれても分からないな。女性を名前では呼ばないから」
祖母の記録がなぜたどれないのかは分かりません。ただ、族譜から墓石に刻まれる名に至るまで、女性たちの歴史が覆われてきたのはなぜだろうか――私の中に、もやもやとした感情が渦巻いています。
だからこそ、殆ど痕跡が残されていない祖母が、確かにひとりの人として生きていた証を、少しでもつかみたいと思っていました。彼女は何に喜びを感じ、何に悲しみ、どんな思いを抱きながら短い生涯を閉じたのでしょうか。
家父長制はじめ、女性たちの声が抑えつけられたり、かき消されたりしてきた社会構造は、遠い昔の話ではありません。それは現代の女性差別や、日常の中で受けるマンスプレイング、それが傍観され、見過ごされる痛みと一本の線でつながっているのだと思います。
それを受け流してしまえば、ヘイトスピーチや他の差別の問題に対し、何ら説得力ある言葉を紡げないでしょう。
今回の滞在で見聞きしたこと、感じたことについては、改めて言葉にしたいと思います。
引き続き、祖母の情報を求めています。過去の祖母についての記事はこちらです。
探しています、祖母の生きた証を
https://d4p.world/news/8397/
(2022年10月3日 / 写真・文 安田菜津紀)
あわせて読みたい -安田菜津紀の「ルーツを巡る旅」はこうして始まりました-
「ルーツを巡る旅」のきっかけについては
■ もうひとつの「遺書」、外国人登録原票[2020.12.13/安田菜津紀]
ウトロ地区の取材と韓国渡航前の思いについては
■ 「ルーツを巡る旅」、ウトロから海をこえて[2022.9.7/安田菜津紀]
現地、韓国・済州島で取材した「4・3事件」については
■ 虐殺とタブー視、それは「遠い過去」なのか ――韓国・済州島の記憶 [2022.9.26/安田菜津紀]
▼祖父母に関する情報を集めています。詳細はこちらの記事にも書いています。
D4Pの活動は皆様からのご寄付に支えられています
認定NPO法人Dialogue for Peopleの取材・発信活動は、みなさまからのご寄付に支えられています。コロナ禍で海外渡航のできない状況が続きましたが、この度ようやく長期の取材を再開いたしました。各地で出会う人々の息吹、大きな問題の渦中でかき消されてしまいそうな声…現地での繋がりを大切にしながら、取材先の様子をみなさんとも共有していければと考えています。ご支援・ご協力、どうぞよろしくお願いいたします。
Dialogue for Peopleは「認定NPO法人」です。ご寄付は税控除の対象となります。例えば個人の方なら確定申告で、最大で寄付額の約50%が戻ってきます。
認定NPO法人Dialogue for Peopleのメールマガジンに登録しませんか?
新着コンテンツやイベント情報、メルマガ限定の取材ルポなどをお届けしています。