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更迭は「幕引き」ではない なぜ差別は繰り返されるのか?

※本記事では差別文言を記載している箇所がありますのでご注意ください。

2023年2月1日、岸田首相は衆院予算委員会で「(同性婚は)家族観や価値観、社会が変わってしまう課題。社会全体の雰囲気に思いを巡らせ判断」と発言しました。岸田首相に限らずこれまでも与党側からは「慎重に検討を重ねる」「理解を深めていく」という、事実上の「無回答」が繰り返されてきましたが、これではつまり、「マジョリティが“理解”するまで、マイノリティは不利益をこうむり続けろ」ということになってしまうでしょう。

この岸田首相の言葉に対し、「多くの世論調査では賛成の声が上回っている」「すでに変わってきている」という事実を示すことも大切なことではあります。ただ、人権は本来、「マジョリティの賛成を根拠にしてマイノリティに認める」ものではない、という前提も忘れずにいたいと思っています。人権自体は「多数決」で決めるものではないからです。

一方、現状の仕組みでは、法制度などは国会内で多くの「賛成」がなければ前に進めることができず、だからこそマジョリティ側は、時に「数」が持つ暴力性に、一層自覚的である必要があります。

こうした中で2月3日夜、荒井勝喜首相秘書官の底が抜けたような発言を毎日新聞が報じました。

当初引用するのも憚られましたが、事態の深刻さを伝えるため、一部ここに引用します。

「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」
「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」
「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」

どの言葉をとっても、そこから浮き彫りになるのはマイノリティをまるで社会の「異物」のように語る、傲慢な差別意識でした。「人権や価値観を尊重」という言葉は、付け加えさえすれば「免罪符」になるわけではありません。

ちなみにこの首相秘書官への取材は、「オフレコ」で行われたものだったようです。早速「オフレコで行われたものをなぜ表に出すのか」という声が一部であがっています。

もちろん、菅首相時代に「パンケーキ懇談会」が問題視されたように、「オフレコ取材」「オフレコ懇談会」のあり方そのものを問う議論も重要ではあります。

今回の件で思い出すのは2011年の琉球新報の報道です。辺野古基地建設の環境影響評価書の提出時期を明言しないことについて、当時の沖縄防衛局長がオフレコ懇談会で「犯す前に犯しますよと言いますか」と性暴力に例え、それを琉球新報が報じました。沖縄防衛局長の発言も今回の秘書官の発言も、「酷い差別だけれどオフレコだから」と受け流していれば、かえってメディア側への信頼の失墜にもつながったかもしれません。

その後、秘書官はメディアの取材に、「首相には申し訳ない」「やや誤解を与える表現」「差別的なことを思っていると捉えられたとしたら撤回する」と発言していますが、これは「謝罪」ではありません。謝る方向も違えば、発言の受け取り手の問題に矮小化している点も問題です。

昨年取材をしたポーランドでは、アンジェイ・ドゥダ大統領が「LGBTはイデオロギー」と発言するなど差別的態度をとり、100以上の自治体が“LGBTのいない地区(排除区域)”を宣言していました。ワルシャワで活動するアクティビストの一人が、私たちの取材にこう語っていました。

「政権は性的少数者のことを、スケープゴートに使っているのです。『そうした連中を野放ししておくと、“家族”が破壊される』と叫ぶのです」


既視感のある言葉でした。まさに現在進行形で、日本で起きていることだからでしょう。

秘書官更迭は「幕引き」ではありません。「LGBTは生産性がない」と発言した杉田水脈議員をなぜ総務政務官に任命したのか? 自民党議員たちが参加した「神道政治連盟国会議員懇談会」で配られた差別表現のある冊子については? 旧統一教会の支援を受けた井上義行議員はじめ、党内の差別問題は? このような問題をあやふやにしたままでは、また同じことが繰り返されるでしょう。

今回の発言は本当に「個人」の問題なのでしょうか?「差別禁止」ではなくLGBT「理解増進」法案に留まり、それさえも通らない「土壌」は何でしょうか? その根本にも切り込む必要があるはずです。

防衛費は「欧米並みに」と急ぐ一方で、人権問題への対処は国際基準からかけ離れている日本――差別禁止法制定や国内人権機関の創設など、国連や国際機関などから再三指摘されてきたことにこそ、岸田首相が掲げてきた「聞く力」を発揮するべきなのではないでしょうか。

2022年6月、ワルシャワ・キーウ合同のプライドパレードで。

(2023.2.4 / 写真・文 安田菜津紀)


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