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第3回:それぞれのパレード―『私たちはつながっている』三浦美和子

秋田市在住でフリーの記者としてジェンダーやセクシュアリティ、人権について発信している三浦美和子さんの新連載『私たちはつながっている』。第3回をお届けします。(他の回はこちら

2026年5月23日に開催された、秋田プライドマーチの参加者に手を振る人(三浦美和子撮影/2026年)

今から20年ほど前、一人のトランスジェンダーの男性にインタビューしました。秋田県で暮らす真木柾鷹(まさきまさたか)さんという人です。

トランスジェンダー
生まれた時に割り当てられた性別とは、異なる性を生きる人のこと。

真木さんは1998年、地方で暮らす性的マイノリティの交流をはかろうと「ES-T東北」(現在の「性と人権ネットワークESTO(エスト)」)という団体をつくりました。それから28年、秋田を拠点に当事者運動を続けてきました。

性的マイノリティ(セクシュアルマイノリティ)
性のあり方が、大多数の人(性的マジョリティ)とは異なる人のこと。
どの性別の人に性的魅力を感じるか(性的指向)や、ジェンダーアイデンティティ(性自認)などの性のあり方は、人それぞれ異なっています。しかし大多数の人は「異性愛者」であり「生まれたときに割り当てられた性別」に違和なく生活しているため、社会制度や考え方は性的マジョリティを中心としたものになっています。

当時、私は真木さんに家族との関係を中心に話を聞きました。カミングアウトした時のこと、初めて実家にパートナーを連れて行った時のこと、そのような場面で家族が発した言葉――その言葉は決して「理解がある」とは言えないものでした。

私は取材の中で、真木さんにこんな質問をしました。
「同性愛者の人は、なぜ同性を好きになるのでしょうか?」

真木さんは少し考え、私の目を見てこう問い返しました。
「では三浦さんは、なぜ異性を好きになるんですか? 理由を説明できますか」。
私は答えることができませんでした。

一人の怒りの中にある無数の怒り

真木さんの言葉には怒りがありました。
当時のことをあらためて尋ねたところ、真木さんは「三浦さんに怒ったわけではありませんよ」といい、次のように振り返りました。

「『どうして同性を好きになるのか?』と(異性愛者から)聞かれたとき、逆に『なぜ異性を好きになるのか?』と尋ねるのは、相手に性的指向を考えてもらうための切り返し方として学習していたので、言えた言葉だと思います。三浦さんに怒っていたわけではなく、同性愛を『異質』と捉えるマジョリティ特権に反発を持っていることが、表出してしまったのだと思います」

性的マジョリティが不意にぶつけてくる「素朴で差別的な質問」への切り返しを、真木さんは私に使ったのだといいます。

家や学校、職場、それ以外のあらゆる場所で、いつ自分の胸を貫くような「言葉」が向かってくるかわからない。そのような緊張を生きる中で、真木さんは身を守る切り返し方を学んでいったのかもしれません。

このときの真木さんの怒りは、真木さん一人のものではなかったようにも思います。

マジョリティから一方的に「存在の理由」を問われ、差別されてきた多くのマイノリティの怒りが、真木さんの言葉の後ろに見えた気がしました。

秋田プライドマーチで掲げられたプラカード(三浦美和子撮影/2026年)

真木さんとの交流はそれ以降も続いています。そしてふとした時に、私たちの間には「特権」の有無があるのだと思い知ることがあります。

社会のさまざまな制度は、性的マジョリティを中心に設計されています。
たとえば戸籍の性別が同性のカップルは、いまだに結婚することができません。結婚したいと願いながら年を重ね、その願いがかなわないままパートナーを看取った人が私の身近にもいます。
そして社会には、トランスジェンダーへの差別や偏見が存在しています。

私たちが個人的に打ち解けても、私たちの間には不合理な差がずっと横たわっています。私の言葉がまた誰かを傷つける可能性も、私がマジョリティである限り、消えません。

自分の性を、どう伝えればいいのか

私が暮らす秋田市では2022年から、性的マイノリティの権利回復を訴えるデモ行進「秋田プライドマーチ」が年に一度、5月に行われています。私も実行委員の一人になっています。

ここには毎年さまざまな人が参加します。

県内で暮らすトランスジェンダーの女性、Aさん(40代)は昨年、今年と参加して秋田市内を行進しました。

Aさんが、生まれた時に割り当てられた「男」という性別に違和を感じたのは、小学校に入学する前でした。
小学校で記憶に残っているのは、体育の時間。当時は男子が廊下、女子が教室で着替えをしていたといいます。Aさんはクラスメートから「女っぽい」と言われ、女子が着替えている教室に無理やり入れられたことがありました。

「学校というところには、自分の居場所はない」とAさんは感じてきました。

「なぜ自分は周りの女の子と同じようにできないのだろうと思いました。けれどそのことを、先生や親にどう話したらいいのか分かりませんでした。体は男だけれども、自分は女の子なんだということをどう伝えればいいのか、子どもに分かるわけがありませんでした」。
次第に学校へ行くことが難しくなり、小中学校はほとんど登校できませんでした。

性別違和は「いつ」ではなく「ずっと」

Aさんは、特にどのような場面で性別への違和を強く感じたのでしょうか。

「一つは、幼稚園から小学校に入って(男の子だからと)黒のランドセルを強制された時。それまで当たり前に着ていた女の子の洋服から、男の子の洋服に着替えさせられた時。体操服に着替える時に『お前、女かよ』みたいな感じで言われた時。(就職)面接のたびに髪の毛を切らなければいけなくて、スーツを強制されていた時。服装を強制される状態、男女分けの状態、あれが一番、強烈にしんどかった」(Aさん)。就活は思うように進まず、非正規雇用で配達関係の仕事に10年ほど携わりました。

性別違和を感じた場面を一つひとつ、挙げた後で、Aさんは「正直言ったら、『ずっと』っていうか。生まれた時から」と言いました。

Aさんにとっては「どんな時に」ではなく、「ずっと」だったのです。

パレードの列から見た秋田市の空(三浦美和子撮影/2026年)

「なんで周りの人は、自分の性別に対して違和感がないんだろう」。Aさんは漠然とそう思い続けてきました。「自分が何なのかっていうのが、わからなかった」(Aさん)

「これかもしれない」という言葉に出会ったのは、40代になってからでした。
インターネットで「性別の違和感」「死にたい」と初めて検索したとき、表示されたのが「性同一性障害 * 」という言葉でした。(*現在は「性の健康に関する状態」に分類されており、「性別不合」「性別違和」といいます)

その後、Aさんは性別違和を軽減するために、県内の医療機関を受診するようになりました。家庭裁判所に名前を変更するための申し立ても行い、認められました。一つひとつ手続きを踏んで、いまは女性として生活しています。

「迷惑をかける」ことが不安

子どものころからの積み重ねによってAさんは精神的に不安定になり、うつ病や不安障害、適応障害などの診断を受けました。この数年の間に視力や聴力にも障害が生じ、歩行には白杖を用いています。

このため、パレードへの参加にはいつも、不安があります。
「精神の障害、目や耳にも障害があって、身体補助器具を使っているから、一般の参加者と同じペースでは歩けない。誰かの支援が必要だから、自分の中で『参加しないほうがいいんじゃないか』という葛藤があった」

背中を押したのは、通っている障害者支援施設のスタッフの言葉でした。

「性的マイノリティで、身体や精神に障害があるあなたが参加する意義はあるんじゃないのかなと言われて」「まず参加してみたらって言われて、じゃあ参加しようっていうふうに思った」(Aさん)

意義、という言葉に背中を押されながらも、Aさん自身の気持ちは、ずっと揺れていました。「負担をかけるくらいなら参加しないほうが―」という考えは、当日の電車の時刻になるまで、消えなかったといいます。

あらためて、パレードへ行こうと思う理由をAさんに尋ねました。

「前までは都会の方が理解があるかなと思っていたんですけど、別に都会じゃなくても地方から発信すれば――見えていない当事者が地方にもいることを発信した方が、地方の生きづらさが解消するかなというのと、LGBTQに限らず、身体でも精神でも障害を併発している人がいて、そういう人がいるっていうことを知ってもらうというか、その存在を知ってもらわなきゃいけない、というのもあるから、それが理由かな」(Aさん)

直前まで参加を迷っていたAさんは5月23日、パレードに参加しました。

パレードにのぞむAさん(三浦美和子撮影/2026年)

途中、坂道や段差が現れるたびに車いすの押し方を工夫し、自分を気づかうボランティアに「申し訳ない」とAさんは思いました。同時に「助かる」と思い「救われた気持ち」にもなりました。そのような入り混じった感情を心の中に抱きながら、Aさんは行進を終えました。

パレードするのは「そうせざるを得ないから」

プライドパレードは1969年6月28日、アメリカ・ニューヨークで起こった性的マイノリティの抵抗運動「ストーンウォールの反乱」がきっかけとなり、その後、世界に広がっていったそうです。近年は日本の各地でパレードが行われています。

なぜ地元の秋田でパレードをするのか。秋田プライドマーチ実行委員長の佐藤二葉さんは、その理由を「そうせざるを得ないから」と表現しました。

秋田プライドマーチのパンフレット(三浦美和子撮影/2026年)

二葉さんはトランスジェンダーの女性です。
「トランスジェンダーの女性が(メディアに)報じられるときは、華美な感じに彩られたり、女性的な記号をまとわされたりする。でも、私の場合は(性別適合の)手術をしていないし、身長も高い。いろんな当事者がいて、手術できない人もいるし、お化粧したくてもできない人もいるし、そういう人がたくさん生きているはずなんです。いるはずなのに、いないことにされている人がいっぱいいる。その中に、私もいるんです」

年に一度のパレードも、日々職場に通う道のりも「可視化運動」だと二葉さんは言います。

その過程で傷つくこともありました。
「ミスジェンダリング(本人の性別とは異なる性別で扱うこと)をされたり、いきなり胸を触られたり。イベント会場で応対していたら、年上の女性に性別を聞かれたので『女だよ』って言ったら(性別を確かめるかのように胸を触られた)」。二葉さんは驚き、何も言えなかったといいます。

 「(胸に触ってきた人は)どちらにしても加害にならないと思ったから触ったのだと思う。私が女性であったとしたら『同性同士だから大丈夫』、男性であったとしたら『男性の胸に価値はないから大丈夫』。そういう考えが(根強く)あるから」

秋田で「可視化運動」を続けるのはどのような思いからでしょうか。

「(男性としてふるまうことを)自分は45年続けてきた。本当はそうしたくないけど、そうしてきた。自分の安全のために生きるぐらいだったら死んだ方がましだし、自分だけ安全圏にいるみたいなことは、もうできない。だからそう(可視化運動を)せざるを得ない」

<職場に歩いて通勤することが可視化運動であり、毎日がマーチです。
「ここにいるよ(いないなんて言わせないよ)」と> 
(秋田プライドマーチのパンフレットより抜粋)

フラッグをもつ佐藤二葉さん(三浦美和子撮影/2026年)

一緒に歩くことができなくても

Bさんというトランスジェンダーの男性のことを、最後に書きたいと思います。

Bさんとは十数年前、真木さんを介して知り合いました。
当時地方紙の記者だった私に、Bさんは生きていることの苦しさを語り、男性として生きたいと語りました。自分の思いをいつか書いてほしいとBさんは言い、私は会うたびにBさんの言葉をノートに記しました。しかしBさんの言葉を記事にすることは、かないませんでした。

Bさんは「自分の性」を生きたい、と願っていました。ただそれだけでした。

あれからいろいろなことが変わった今、もし彼が生きていたら、どんなことを語っただろうか。地元でのパレードをどう思っただろうか、参加はしただろうか。この季節は、Bさんのことを考えます。

パレードの翌日の秋田市街(三浦美和子撮影/2026年)

LGBTQ+
Lesbian(レズビアン=女性として女性に性的魅力を感じる人)、Gay(ゲイ=男性として男性に性的魅力を感じる人)、Bisexual(バイセクシュアル=異性に性的魅力を感じることもあれば、同性に感じることもある人)、Transgender(トランスジェンダー=出生時に割り当てられた性別とは異なる性を生きる人)、Questioning(クエスチョニング=ジェンダーアイデンティティやどの性別の人に性的魅力を感じるかが不確かな状態の人)/Queer(クイア=セクシュアルマイノリティの総称)。LGBTQはこれらの英語の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティの総称の一つです。「+(プラス)」はLGBTQだけではない多様な性のあり方を意味しています

(2026.6.5 / 執筆・写真 三浦美和子)

秋田プライドマーチについて、許可を取る前に撮影した参加者の写真をSNSに投稿してしまったとして、6月3日、実行委員会から謝罪文が公開されました。
投稿は削除の上、写真に写っていた方への説明、謝罪がなされ、今回の写り込みには問題がなかったという確認がとれたとのことです。
くわしい経緯につきましては、実行委員会からの投稿をご覧ください。

Writerこの記事を書いたのは
Writer
三浦美和子Miura Miwako

1976年生まれ、秋田市在住。地方紙記者を経て2023年からフリーの記者。「voice 声」というサイトをつくり、ジェンダー、セクシュアリティ、人権について地方から発信している。

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