伝えることの先にみえること、小さな連帯を大切に ―「D4Pメディア発信者集中講座2023」開催レポート
今年も、昨年に引き続き18〜25歳を対象にした、「伝える」ことについて考えるイベント「D4P メディア発信者集中講座」を開講しました。今夏で、3回目の開催となった本講座では、3日間にわたり、全国各地から集まった23名の受講生とともに学びを深めることができました。当日の様子を、D4Pインターンの飯倉芳果がお伝えします。
Contents 目次
受け手の思考を動かす「問い」
【わたしの問いを見つける】、3日間の集中講座は、ホロコースト教育資料センター代表・石岡史子さんによる講座から始まりました。一枚の写真をながめながら、参加者同士で問いを自由に出し合う「問いづくり」ワークショップを体験しました。
「問いづくり」とは何か、なぜ「問い」が大切なのか、石岡さんからご説明いただいた後、受講生数名のグループに分かれ、実際に「問いづくり」を体験しました。今回のワークショップに、戸惑いをみせる受講生もいましたが、徐々に真剣な面持ちへと変わっていき、参加者同士の距離も近づいていく様子がうかがえました。
ーー誰もがメディアになり得るこの時代に、いかにして受け手の思考が動き出す問いを投げかけることができるのか。
問いから「伝える」ことに向き合うという、新鮮な学びを得たとともに、ワークショップを通じて、会場に漂っていた緊張感もほぐれました。
メディアとはなにか
続いては、評論家の荻上チキさんにより【発信前に、メディアの役割を知ろう】という題目で講座を行っていただきました。
そもそもメディアとは何か、その役割とは。はじめに、メディアに関する基盤を身につけたあと、議題設定効果や沈黙の螺旋などメディア論で扱われる専門用語の解説によって、理解を深めていきました。
膨大な観点や、情報量の多さに、その場だけで全てを咀嚼することは難しかったですが、「メディア」という言葉の意味をきちんと確認する時間を設けたことで、次講座以降へのよい橋渡しとなりました。
“傾聴”という態度を築く
たくさんの知識を吸収した後、一日目の最後を締めくくったのは、弊会代表・フォトジャーナリストの佐藤慧による講座【ファインダー越しに見つめる世界ー世界の紛争地、被災地からー】でした。
世界各地を取材する中で、出会ったひとびと。そして、自身の家族のはなし。佐藤がファインダー越しに見つめてきた世界の断片に触れながら、自分が「感じていること」にどう向き合ってきたのか。自分の中に“傾聴”という態度を築くことについてお伝えしました。
質疑応答の時間には、取材先でどのように相手と関係性を紡ぐのか、レンズを向けるときに気を付けていることは何かなど、フォトジャーナリストとして技術面や心構えに関する質問に回答し、一日目の講座が無事に終了しました。
社会問題から考える、報道のありかた
【ヘイトスピーチと報道】。弁護士の師岡康子さんによる講義にて、「D4Pメディア発信者集中講座2023」の2日目がスタートしました。
まず冒頭にて、日本で起こったヘイトスピーチの様子を動画で視聴。そして、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムとは何か、その害悪性はどこにあるのか、本質への理解を深めていきました。ヘイトスピーチ解消法成立以降、ヘイトスピーチ街宣の数は減少傾向にあるものの、いまだに年間20回は繰り返され、それが法律で罰されない日本社会の現状を聞き、改めて問題の深刻さに気づいた受講者たち。
しかし、そうした中でも、報道が大きな役割を果たし、社会が少しずつ変わりつつあることについても師岡さんは触れていました。「差別をなくすために、報道が持つ力は大きい」。「伝える」ことに真剣に向き合い、時に悩んできた受講者の心に、その言葉は力強いメッセージとして届きました。
長年、性暴力の取材をされてきた、ライターの小川たまかさんからは、【性暴力に関する報道ー報道による二次被害と報道されない被害】と題して、ご講義いただきました。
性暴力やそれらに関する報道の実情を学び、こうした問題をどのように伝えていくべきか、具体的なプロセスや留意点を教えていただきました。
現在進行形で変わりつつある報道の在り方ですが、性被害を打ち明けた際のバッシングや二次被害は繰り返され、そこには、いまだ引き継がれるメディアの構造があります。メディアの中立性について、小川さんは「性暴力はほとんど、権力勾配のあるところに起こる。権力の差が不均衡な場所で起こった被害について両者(加害者、被害者)の話を同じように聞くと、それはどうしても加害者寄りになってしまう」と指摘しました。小川さんから最後にいただいたこの言葉により、現状を今一度省み、どう伝えていけるのか、ひとり一人が考える時間となりました。
そして、前半2日間にわたるゲスト講師による講座も、ついに最終回。映像ジャーナリストとして活躍されている伊藤詩織さんをオンラインでつなぎ、【視覚と聴覚で伝える映像ジャーナリズムの魅力】という講座を行っていただきました。
なぜ映像ジャーナリストになったのか。そして、映像がもつ魅力と可能性とは。自身のバックグラウンドや抱いてきた思いを紐解きながら、取材先での出来事、映像になるまでのプロセスなど、多岐にわたるテーマをお話しいただきました。
ーーStay curious(自分の興味を探求し続けて)。
最後に、伊藤さんから受講者へ向けてこんな言葉もいただきました。「伝える」ことに加え、自分の将来に悩んだり、葛藤する者もいた中、この言葉の意味を噛み締める受講生たちの姿がとても印象的でした。
これまでの2日間で学んだことを活かして、次は《自分》にできることを考える。そんな最後のまとめにふさわしい伊藤さんの言葉を受けて、講師による全講座は無事に終了しました。
今、自分が感じることに向き合う、そして分かち合う
1日目・2日目の講義後には、徳田太郎さんをファシリテーターに迎え、受講者同士で講座での学びや感想を共有する、シェアリングタイムを設けました。
はじめに自分だけで学びをじっくり振り返る時間をとり、次に小グループでの振り返りを2回、そして最後には全体で学びを共有しました。徳田さんによって工夫がなされた“共有の場”設定により、ひとり一人が今感じていることに向き合い、それらを他者とも分かち合うことができました。
3日目は、前半の講義を経て、受講生が制作した作品課題の発表を行いました。制作者から作品に対する思いを聞き、ファシリテーターの徳田さん、弊会代表・佐藤よりフィードバックを行いました。そのあとは、他の受講生からの質疑応答や感想を伝える時間を設け、お互いの興味関心をより深め合う時間となりました。
受講生の提出作品の一部はこちらからご覧いただくことができます。
「D4Pメディア発信者集中講座2023」課題作品
https://d4p.world/activities/seminar/2023summer/
また、3日目には第1回、2回の受講生の方々にも数名お越しいただき、今年度の作品課題への感想やシェアリングタイムに参加していただき、双方にとって一層学びのある時間となりました。
「伝える」ことの先にみえること、小さな連帯を大切にー「D4Pメディア発信者集中講座2023」に参加して
今回、D4Pが行ってきた若手育成事業の一つである「メディア発信者集中講座」に、初めてスタッフとして参加させていただきました。
前半2日間では、講師それぞれの視点による、熱量のこもった講義に耳を傾け、3日目は、受講者の作品発表を通じて、彼らがここで得た学びやそれに対する思いに触れました。講師陣からも、受講者からも、スタッフという立場ながらたくさんの学びをいただいた本講座。
しかし何より、同世代の胸に宿るパッションに触れたこと。そして、課題発表を通じて、思いを伝える手段がここまで多様であることや、改めて「伝える」ことの意義を再確認したことで、この3日間は何にも代えがたい時間となりました。
改めて、ご参加いただいた受講生のみなさん、たくさんの学びや思いを共有してくださり、本当にありがとうございました。
また、3日目には昨年、一昨年の受講生の方々にもお越しいただきました。今年度の参加者と様々な思いを分かち合うことで、彼らにとって大いに刺激となったとともに、こうして若者同士の輪が広がっていくことを大変嬉しく感じました。
講義を終えた今でも、やはり「伝える」ことは、つねに難しさや葛藤を伴うというのが、私の考えです。ただ、そこと向き合いながら、「伝える」ことの先に希望を見出すことで見えてくる世界がたくさんあることを、この3日間で大いに学びました。そして、難しさや葛藤があるからこそ、一人で抱え込まず、ここで生まれたような“小さな連帯”を持つ大切さを心の底から実感しました。
これからも、自分なりの表現で「伝える」ことに向き合いながら、くじけそうになった時、ここでの連帯を忘れずにいたいです。そして、来年、再来年、その後も、このような輪が広がり続けていくことを願っています。
最後に、いつもDialogue for Peopleの活動を応援してくださるみなさま。日々、私たちの活動に関心を持ち、支えてくださるみなさまのおかげで、今年も無事にこの講座を迎えることができました。「D4Pメディア発信者集中講座2023」での学びやつながりを糧にして、若者世代は新たな一歩を踏み出そうとしています。今後も、こうした学びの場を広げていくために、引き続き、応援いただけましたら幸いです。
(2023.10.11 / 文 Dialogue for People インターン 飯倉芳果 、写真 Dialogue for People インターン 野口満理奈、校正・佐藤慧)
飯倉芳果(いいくら・よしか)
Dialogue for peopleインターン。早稲田大学文化構想学部。大学では、東アジアをフィールドに平和研究を行う。野口満理奈(のぐち・まりな)
Dialogue for peopleインターン。同志社大学政策学部政策学科。大学では開発学を専攻。2023年4月から大学を休学し、以前から関心のあった貧困問題の起こる現場へ自ら足を運ぶことを目的に南アジアの現地 NGO等を約2ヶ月かけて訪問した。
今回の講座を通して参加者のみなさまからも多くの学びを頂きました。特に、安心・安全な場をつくること、無意識的な態度の中に権力勾配が表れていないかなど、私たち自身も運営側として大切なフィードバックを頂きました。あらためまして、ご参加くださったみなさま、そして活動をご支援くださるサポーターの方々、本当にありがとうございました。(佐藤慧/D4P代表理事)
▼講座情報
「D4Pメディア発信者集中講座2023」
認定NPO法人Dialogue for People主催、社会課題に近い立場で発信を続ける講師や作品制作を通じて「伝える」ことについて考えるゼミナール形式の若者世代(18~25歳)を対象企画。
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