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ウィシュマ・サンダマリさんの死から間もなく4年―国側が法廷で見せた“気にしない”態度

支援者に見守られながら法廷に入っていくワヨミさん(遺影を持っている女性)、ポールニマさん(ワヨミさんの左)。(安田菜津紀撮影)

2021年3月6日に名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの遺族による国賠訴訟が続いている。

2017年6月、ウィシュマさんは「日本の子どもたちに英語を教えたい」と、英語教師を夢見てスリランカから来日したものの、その後、学校に通えなくなり在留資格を失ってしまった。2020年8月に名古屋入管の施設に収容されたが、同居していたパートナーからのDVと、その男性から収容施設に届いた手紙に、《帰国したら罰を与える》など身の危険を感じるような脅しがあったことで、帰国ができないと訴えていた。

真相解明にとって欠かせない「証拠」のひとつが、ウィシュマさんが最後に過ごしていた居室を映した監視カメラ映像295時間分だ。2022年3月の提訴からすでに3年近く、弁論も第16回を迎えているが、国側から裁判所に提出されている映像は今も、わずか5時間ほどにすぎない。遺族側は全ての開示を強く求めている。

2025年2月5日の期日では、遺族側代理人から、ウィシュマさんの体調悪化の経緯や、入管の対応の問題点などが改めて整理された。原告側はウィシュマさんが何をどれほど摂取していたのか、看守日誌などの一次資料をもとに摂食状況を一覧表にした上で、摂取カロリー不足を指摘している。一方、国側は入管の「最終報告書」の記載等をもとに、原告側の「計上漏れ」などを主張してきたが、その算出根拠の「一次資料」とはどのような資料なのか、原告に開示していない「一次資料」があるのか、また果たしてそれを計上すればカロリーは足りていたのか、といった点については明言されていない。

ウィシュマさんの妹で次女のワヨミさん、三女のポールニマさんが、母のスリヤラタさんのメッセージを代読した。

「ウィシュマは、私にとって、愛する夫との間に最初に授かった、かけがえのない娘でした。光り輝くような娘でした。毎日、ウィシュマを授けられた喜びに満たされながら、夫婦で大切に育ててきました」

「まさか、ウィシュマが、日本でここまで酷い拷問を受けることになるとは、想像もしませんでした」(ワヨミさん代読部分)

「今日も明日も、我が子の死を悲しみ続けなければならない母親が、私で最後になりますように、私がいま感じている、こんな思いを、もう絶対に、誰にもしてほしくないのです」(ポールニマさん代読部分)

弁論後の記者会見に臨むポールニマさん(前列右)、ワヨミさん(前列右から2人目)。(安田菜津紀撮影)

ウィシュマさんがどのように衰弱していったかを遺族側代理人が説明する間、そして遺族が声を震わせながら陳述を続けている間、被告席(国側)の一人は、頭を揺らしながら居眠りを続けていた。

「法廷の中で、私たちも裁判官もいるのに、“国の代表”として出席している方が居眠りをするのは、この事件について気にしていない、責任逃れをしようとしていることだと思います」とワヨミさんは憤る。

国側はこれまでも一貫して、収容とウィシュマさんの死の因果関係や、それに対する責任を認めていない。そして収容/解放などの決定プロセスが非常に不透明な状況は今も続き、入管の「ブラックボックス」状態は変わっていない。国、公権力に求められているのは「なかったこと」にすることではなく、責任と向き合った上で、制度そのものを「人権」「人命」を基礎としたものに大きく変えることではないだろうか。



Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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