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入管法審議が成り立たない「これだけの理由」―立法事実の崩壊、隠蔽や虚偽も

参議院で審議が続いていた入管法政府案について、与党側はいよいよ採決に踏み切ろうとしています。入管法政府案そのものの問題点はここに記した通りです。

法案の内容そのものはもちろん、審議の過程では、連日、立法事実を根底から揺るがす事態が明るみになってきました。この間の審議で何が明らかになり、何が明らかにされていないのか――まともな審議が成り立たない理由を整理しました。

■1:難民審査参与員の不可解な偏りと杜撰な審査の実態

5月25日、参院法務委員会で、難民審査参与員の柳瀬房子氏の、2年分の審査件数が明らかになりました。

2021年:全件6741件のうち1378件(勤務日数34日)
2022年:全件4740件のうち1231件(勤務日数32日)
※勤務日数のうち一日は、審査をしない協議会

難民審査参与員は、法務大臣に指名され、入管の難民認定審査(一次審査)で不認定とされ、不服を申し立てた外国人の審査(二次審査)を担っています。

参与員が111名いるにも関わらず、柳瀬氏(の班)は2022年、全件の4分の1以上を担当していたことになります。計算上、平均すれば一件にかける時間はわずか「6分」しかありません。

ところが入管庁は「偏っているという指摘はあたらない」という説明を繰り返してきましたが、それは明らかに、黒いものを見て「黒いという指摘はあたらない」と強弁することに等しいでしょう。

また、2023年5月25日、参考人として発言した現役難民審査参与員の浅川晃広氏は、自身も柳瀬氏と同様、「書面審査だけで年1000件を超える審査を担当したことがある」としました。ただし、勤務日数(期日数)については明言を避けたため、平均して1日あたり何件の審査にあたったのかは定かではありません。また、「一期日に“借金案件”をまとめて50件審査したことがある」と語っており、入管側から傾向が似通ったと見なされた案件がまとめて提示されることもうかがえます。

その上で浅川氏はこう述べています。

たまに案件を見ていて、“実際にこれはどうなのか”と本国情勢に当てはめなければならないことがある」

「出身国情報を詳細に検討しなければ判断できない案件はあまりなかった

浅川氏と同日に参考人を務めた渡邉彰悟弁護士は、この日の会見で「申請者の個人の事実関係だけ聞いて、出身国情報を参照しないのはありえない」と強調しました。こうした参与員の言動や、殆どを不認定としてきた参与員に審査件数が偏っている実態から、参与員審査の「第三者性」「独立性」は保たれていないと言えるのではないでしょうか。

また、浅川氏には『「在日」論の嘘(PHP研究所)』『ザ・在日特権 (宝島社文庫) 』といった著書・共著があります。法務省はヘイトスピーチ・ヘイトクライムに対し警鐘を鳴らさなければいけない立場ですが、なぜこのような人物を難民審査参与員に指名したのか、人事上の問題も残ります。

■2:不可解な発言「訂正」、立法事実になっている参与員の主張を大臣自ら否定

また、対面審査に関して、柳瀬氏はこう発言してきました。

【2019年11月】「対面審査1500人」(収容・送還に関する専門部会)
【2021年4月】「対面審査2000人」(衆院法務委員会)
=1年半で対面審査500人増…?

「収容・送還に関する専門部会」で柳瀬氏は委員を務めましたが、この専門部会の提言が法案の基(立法事実)となっています。

また、柳瀬氏は2021年4月の衆院法務委員会で、「難民をほとんど見つけることができない」と発言しており、これも今年の入管庁の資料に引用され、「難民申請が2度不認定になった人々は以後、難民申請をしても送還の対象になる」という法案の「根拠」とされています。

ただ、そこで柳瀬氏が主張した件数を踏まえると、1年半で対面審査が500人分も増えたことになり、果たしてまっとうな審査が行われていたかどうか、疑義が生じます。

5月30日、この「1年半で500件の対面審査」について問われた齋藤健法務大臣は、下記のように記者に答えました。

「参与員としての事件処理数をそのとき、その都度お話になっているんだろうと思いますが、我々の審査の仕方は、事前に書類を送って見て頂くということをやっており、それを含めて処理数ということでありますので、一般論として申し上げれば、1年6ヵ月で500件の対面審査を行うということは「可能」だと思っています。」

上記のように、明らかに「可能」という文脈で大臣は柳瀬氏の審査件数を評価しましたが、この日の夜になり、大臣は発言を「訂正」、「“不可能”の言い間違いだった」と主張しています。

この「訂正」自体に無理がありますが、柳瀬氏が語ってきた審査件数を、大臣自ら「不可能」と否定したことになります。それは同時に「立法事実」の崩壊を意味します。

■3:「証拠はないが信じろ」状態の審議

齋藤法務大臣は柳瀬難民審査参与員の2021年4月までの2000件について、「対面審査まで実施した慎重な審査」と繰り返し強弁してきましたが、「16年間で2000人に会う」=「年間130件の対面審査」という現実離れした件数に方々から疑問の声があがっています。その後柳瀬氏も、対面審査は「90~100人」が精いっぱいであることを支援者に語っていたことが明らかになっています。

ところが、2021年より前の柳瀬氏の審査件数は公表されていません。入管庁はこの間、「各参与員の年間審査件数の集計はしていない」と繰り返してきました。柳瀬氏の参考人招致もなぜか実現していません。

齋藤法務大臣は「数字はさておき、柳瀬氏の発言には一定の信ぴょう性がある」と発言していますが、「証拠はない、裏もとっていない、だが信じろ」では審議は成り立つはずもありません。

そもそもそのような基礎的な情報すら集計していない組織に、現状を正確に把握できるはずもありません。何度その点を指摘されても頑なに開示を拒む理由は何なのでしょうか。

■4:大阪入管での飲酒診療の指摘と実態とかけ離れた資料

大阪入管の常勤医が、酒に酔った状態で診療にあたっていたことが指摘されています。当該医師は昨年(2022年)7月、施設内の「医療体制の強化」のため採用され、今年(2023年)1月20日、足取りがおぼつかない状態で出勤。呼気検査でアルコールが検出されたといいます。

この日以降、診療には携わってはいないものの、常勤医師は他におらず、現在は非常勤の医師らが対応にあたっているとのことです(大臣答弁)。6月3日、野党議員らが大阪入管を視察したところ、当該医師は医療業務から外れているものの、継続して雇用されていることが判明しました。

ところが今年「4月」に入管庁が公表した「改善策の取組状況」という資料には、大阪入管の欄に当該医師が「常勤医1名」と記されています。入管庁に問い合わせたところ、この医師は上記の飲酒診療を行った医師と同一人物であり、本資料を公開した時点ではすでに医療業務から離れていたとのことでした。

つまり入管は、診療実態のない医師を「常勤医」としてカウントし、「医療体制が改善した根拠を示す資料」に記載していたのです。これがまかり通るのであれば、他の施設の「実態」まで全部調べ上げなければ、入管の提出する資料はいっさい信用できないということになります。

右上の青丸の部分の“1名”が当該医師。

■5:飲酒診療を公表しなかった大臣の責任

仁比聡平参院議員が新聞赤旗を通して入手した文書によると、当該医師からは呼気1ℓ中0.36㎎のアルコールが検出されていたことが判明しました。「酒気帯び運転」であれば、0.25mg以上で免許取消(2年間)です。文書によると、飲酒の影響とみられる異様な言動も記されています。

齋藤法務大臣は、当該医師について報告を受けたのは今年「2月下旬」だとしています。ところが、「6月1日に」報道でこの件が明るみになるまで、法務省、入管庁ともに当該医師について公の場で触れたことは一切ありませんでした。

それどころか、衆議院で本法案が審議されていた際、大臣は下記のように答弁しています。

【4月19日:衆院法務委員会】
常勤医師の確保等の医療体制の強化や職員の意識改革の促進など、改革の効果が着実に表れてきていると思います。

【4月21日:衆院法務委員会】
名古屋局を含む四官署で新たに常勤医の確保に至ったこと、

【4月25日:衆院法務委員会】
各官署の常勤医師の確保等の医療体制の強化、職員の意識改革などが実際に進んできているところであります。

公表されてこなかった理由として、入管側は「慎重に慎重を重ね」て調査をしていると説明していますが、なぜその「慎重さ」を、難民審査やその調査には用いることができないのでしょうか。

■6:ウィシュマ・サンダマリさんの事件もまだ解明されず、入管説明も食い違い

2017年6月、ウィシュマさんは「日本の子どもたちに英語を教えたい」と、英語教師を夢見てスリランカから来日したものの、その後、学校に通えなくなり在留資格を失ってしまいました。2020年8月に名古屋入管の施設に収容されましたが、同居していたパートナーからのDVと、その男性から収容施設に届いた手紙に《帰国したら罰を与える》など身の危険を感じるような脅しがあったことで、「帰国できない」と訴えていたこともわかっています。収容中に衰弱していくも、入院・点滴などの措置も受けられないまま、2021年3月に亡くなりました。

真相解明にとって欠かせない「証拠」のひとつが、ウィシュマさんが最後に過ごしていた居室を映した監視カメラ映像295時間分です。国側から裁判所に提出されているのはわずか5時間ほどだけです。

ウィシュマさんの死亡事件の本質は、「脆弱な医療体制」という表面的な問題ではありません。

『最終報告書』には、ウィシュマさんの仮放免を不許可とした理由について、《一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり》と記されています。つまり、苦痛を伴う環境下での収容を、日本に留まることを諦めさせるための「手段」として用いていたことが、臆面もなく書かれているのです。当たり前のことですが、収容は「拷問の道具」として、入管が恣意的に使うべきものではありません。

入管による収容の実態は、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会からも、2020年に「自由権規約9条等に違反するという意見」が採択されていますが、日本政府は耳を傾けません。

入管側は、ウィシュマさんのように帰国ができない事由を抱える人々を「送還忌避者」と呼びますが、どれだけの人数を帰国させるかという目標を示す「送還忌避者の縮減目標」を設定しています。そのため、個々の事情を考慮することよりも「数字を稼ぐ」ことが優先され、送還ありきの運用がなされていることが指摘されてきました。

入管側はコロナ禍となった2020年度以降、目標は設定していないと答弁していました。ところが共産党の仁比聡平議員の入手した書類には、それ以降に入管内で作成された文書にも「目標件数」が示されており、この点も入管庁の説明と食い違います。

■7:新たな暴行動画の公開

トルコ国籍でクルド人のデニズさんが、東日本入国管理センター収容中に職員から暴行を受けたなどとして損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は4月、職員の行為の一部を違法と認め、国に22万円の支払いを命じました。

2019年1月、デニズさんは睡眠薬を求めたものの拒否されたため抗議しました。すると7人前後の入国警備官が居室に入室し、デニズさんに移動を命じたといいます。当時の映像を確認すると、デニズさんは後ろで手錠をかけられ、抵抗できない状態にさせられた上、警備官のひとりがあご下の「痛点」を押し、「痛いか?!」などと大声で迫ってきます。デニズさんの顔は苦痛に歪み、「痛い!」という声が居室に響きました。

判決はこうした暴力行為を、合理性も必要性もない「違法」と断ずるものでした。

暴力行為を行った警備官Aは、この「痛点」を押す行為などを「訓練で身に着けた」と証言しています。仮に入管内の「訓練」で行われていたのであれば、他の収容者も被害に遭った恐れがありますが、判決もその点までは踏み込んでいません。

そして先日、新たな暴行動画が公開されました。激しい内容なので、閲覧時はご注意下さい。

【映像の一部】(※)暴力シーンが映っています、閲覧にはご注意ください。

(映像は「クルド人難民Mさんを支援する会」のYouTubeより)

2019年12月23日、難民申請の不認定を告げられたアフリカ系男性が、強制送還執行のために東日本入国管理センターから成田空港支局に連行される際の動画です。入管法政府案が成立し、2度難民不認定になった人々が送還の対象となれば、こうした暴行がさらに常態化することが懸念されるほか、送還を拒むこと自体が刑事罰の対象になりえます。

■8:子どもの在留資格が取引材料に使われている

日本で生まれ育ったにもかかわらず、「在留資格」のない18歳未満の子どもが昨年2022年末時点で201人いることが分かっています。もし法案が成立すれば、こうした子どもたちも送還対象となる恐れがあります。

入管法改定案が衆院法務委員会で審議されていた際に示されていた「修正案」では、人道配慮による在留特別許可を判断する際に「児童の利益」を考慮することを条文に明記することとしていました。

つまり、日本で生まれ育った子どもであったり、日本に生活基盤のある子どもたちには、「特別に在留許可をあげますよ」と仄めかしたのです。ところがその後、立憲民主党が法案反対に回ったことを理由に、修正は削除されました。

ですが、子どもやその家族への在留資格付与は、現行法下でも今すぐにできることのはずです。


上記毎日新聞の記事内で、上智大学の稲葉奈々子教授はこう答えています。

18歳未満の未成年は全員が保護の対象なので、そもそも「非正規滞在」か「正規滞在か」という区別がありません。(中略)早期の強制送還を主張するダルマナン内相でさえ「2年もあれば、就労して、子どもも生まれて、フランスに滞在する権利が生じるだけの十分な長さなので、強制送還できなくなる」と発言しています。

人道上当然のことを放置しながら、「我々の法案を認めるなら子どもたちに在留資格をあげよう」と「取引材料」にする――。その姿勢そのものが、著しく人権意識の欠如したものではないでしょうか。

___

こうして法案の賛否以前の問題が、審議を通して次々と浮き彫りになっています。明らかな疑義を放置したまま審議は続けられません。ましてや強行採決に踏み切ろうものなら、議会制民主主義を根底から否定することになります。

たとえ法案の内容に賛同の立場であっても、「立法事実が揺らいだままの審議はおかしい」という問題意識は、上記の様々な「矛盾点」から共有できるのではないでしょうか。

(2023.6.7 /安田菜津紀 佐藤慧)


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