徹底的な殺戮が続くパレスチナ・ガザ地区。今もイスラエル軍による激しい攻撃は止まず、ガザは飢餓の瀬戸際にあると指摘されています。ガザ地区のD4P現地取材パートナー、Aysar(アイサール)さんによる寄稿記事です。
街に夜の帳が下りると、人々は長い一日を終え、思い思いの時間を過ごし始めます。家で静かに過ごす人、友人や家族と語らう人、あるいは束の間の賑わいを求めて出かける人もいるでしょう。戦火に翻弄されるガザでは、今なお続く爆撃の脅威の下、人々は生活再建に苦闘しながらも、わずかながら息をつける瞬間を探しています。

アル・リマル通りを歩く人々。(Aysarさん撮影)
平和への願いは叶わぬままに
かつて街の西側、アル・リマル通りは、衣料品から家電、宝石まであらゆるものが揃う活気あるショッピングの中心地でした。人々はここに集い、買い物を楽しみ、通りには公園やレストラン、スウィーツショップが軒を連ね、子どもたちの笑い声と笑顔が、いつか来る平和な日々への希望を映し出していました。しかし、その願いは今も叶わぬままです。
そんな一角に、古くから人々に愛されてきたアイスクリーム店「カーゼム」があります。手頃な価格で美味しいアイスクリームを提供し、いつも賑わっていました。幸いにも戦火を免れたこの店は、「停戦」中に国境が開かれたわずかな期間に、店主が確保していた材料で営業を再開しました。

アイスクリーム店「カーゼム」。(Aysarさん撮影)
ガザの人々は、懐かしいカーゼムの味を求めてこの場所に集まります。店は活気にあふれ、人々は戦争前の日常を少しでも思い出させてくれるものを渇望しているのです。
家族連れや友人同士で訪れる人も多く、再び賑わいを取り戻した店の周りには、子ども向けのおもちゃやナッツを売る小さな露店も現れ、アイスクリームを求める人々の流れに乗じて商売をしています。

カーゼムのそばに並ぶ露店。(Aysarさん撮影)

おもちゃ屋。(Aysarさん撮影)
いくつかのコーヒーショップも営業を再開しました。避難生活の中で人々が身につけたライフスキルを活かし、新たに店を開いた人もいます。多くの場合、家にはインターネットが通っていないため、人々はこれらのコーヒーショップに集まり、インターネットを利用したり、友人と再会したりします。
店内では、この悲惨な状況を招いたあらゆる要因を激しく批判する政治談議が繰り広げられています。一方、片隅では、政治の話題なんてどこ吹く風といった様子の若い女性たちが、悲しみをたたえた瞳の上から自撮りをしたり、化粧直しをしたり、楽しそうに笑い合ったりしています。

コーヒーショップに集う若者たち。(Aysarさん撮影)
飢餓の瀬戸際で生きる人々
賑やかだった頃のリマル通りを歩いても、以前の面影はありません。「停戦」が破られたことで再び避難を余儀なくされた多くの人々が、この場所にテントを張って生活しており、戦争の爪痕が生々しく残る光景は混沌としています。
ガザ出身の25歳、モハンナドさんはウクライナで医学を学んでいましたが、ロシアによる軍事侵攻が始まったため、ガザに帰国せざるを得ませんでした。その後ガザへの攻撃が激化し、医師になるという彼の夢が打ち砕かれそうになった時、彼はウクライナでの学歴を別の大学で認可してもらおうと奔走しました。しかし今はガザに留まり、研究を再開できる日を待ちながら、時間だけが過ぎていく現実に苛立ちを覚えています。「この血なまぐさい戦争の解決を待ちながら、時間を持て余しているんだ」と、モハンナドさんは言います。死の影が色濃く漂う中で、彼はときおり友人とカードゲームをし、気を紛らわそうとしています。

カードゲームをするモハンナドさん(左)。(Aysarさん撮影)
現在、イスラエルはガザへの封鎖をさらに強化しており、多くの人道支援団体はガザが飢餓の瀬戸際にあると警告しています。ガザの人々は、医療や食料へのアクセスが極めて限られており、昨年は、動物の餌を食べて命をつないだ人々もいます。「そのような悲劇がまた起こるのだろうか」「食べ物を確保することはできるだろうか」と、不安は尽きません。
そのような状況下では、子どもたちもアイスクリームを夢見ることなく、ただただ、大人たちが空腹を満たす何かを与えてくれるのを待ち続けるしかないのです。

料理の火に集まる子どもたち。(Aysarさん撮影)
編集者補足:ガザの危機的な食糧事情
ガザ地区における食料不足は日に日に過酷さを増している。長引く軍事侵攻に加え、国際社会からの人道支援物資の搬入が大幅に制限され、住民の食料事情は悪化の一途を辿っている。特にガザ北部では、複数の国際機関が飢饉の可能性を強く警告しており、壊滅的な状況が続いている。数十万に及ぶ住民が深刻な食料不足に苦しみ、飢餓による死亡例も報告され始めており、幼い子どもたちの急性栄養失調は深刻なレベルに達している。軍事侵攻による農業生産の壊滅的な打撃に加え、インフラの破壊が人道支援物資の輸送を困難にしていることも食料不足に拍車をかけている。商業物資の搬入も滞り、住民は極限状態に追い込まれている。問題の根本であるイスラエルによる軍事侵攻、占領、民族浄化を国際社会は見逃してはならない。
(文 Aysar/翻訳・編集 佐藤慧)
※Aysarさんによる原文の寄稿は2025年5月1日。
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