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【取材レポート】「わたし」の多様性を認める(台湾/2018.10)

2018年10月27日、台湾は台北の頭上にはスッキリとした秋晴れが広がっていた。その青い空を背景に、虹色の旗があちらこちらで揺れている。今年も台湾LGBTプライド(台灣同志遊行)の日がやってきたのだ。主催者の公式発表によると、今年は国内外から13万7千人もの人が参加したという。思い思いのファッションに身を包む人々は、その手に持った旗やプラカードにそれぞれの主張を掲げる。

老若男女、カップルから親子連れまで、多様な人々が練り歩く。

中でも多く見られたのが、今月24日に統一地方選に合わせて行われる同性婚合法化をめぐる住民投票への呼びかけだ。昨年2017年の5月、司法院大法官会議は同性婚を認めない台湾の現行民法は「違憲」であると判断、行政府と立法府に対し、同性婚を認める法改正を2年以内に行うことを命じた(※1)。台湾は、アジアで初めて同性婚を合法化する国(※2)となるべく、大きく舵を切ったのだった。

街の中央一帯の道路が解放され、路上で自由に寛ぐ人々の姿も。

しかしそれから1年以上の時が経ったが状況は進展していない。賛成派、反対派の意見は割れ、双方が同性婚にかかわる住民投票を提案、複数の投票で民意を問われることとなった。関連する質問は5つ(頭の数字は国民投票の質問番号、回答は賛成か反対の二択)。

【反対派より提出】
(10)民法による婚姻規定が、男女間に限定されるべきだ、という考えに同意しますか?

(11)義務教育(小中学校)の段階で、教育部、および各学校が子ども(生徒)たちに性別平等教育法に基づいたLGBT教育を実施すべきでない、という考えに同意しますか?

(12)民法に定められた婚姻規定以外の他の形式で、同性パートナー同士が永続的な共同生活を送る権利を認めることに同意しますか?

【賛成派より提出】
(14)民法婚姻章によって同性パートナーふたりが婚姻関係を築くことに同意しますか?

(15)性別平等教育法に明記されているように、義務教育の各段階において、性別平等教育、感情教育、性教育、LGBT教育を実施することに同意しますか?

要は反対派は、①現行の婚姻規定は男女間に限定されるべきで、同性婚を認める場合でも、新たに別の形式を持って認めるべき、②義務教育の段階ではLGBTなどについて触れない、ということを問うている。反対に賛成派は、①現行の婚姻規定の中で同性婚も認めるべき、②義務教育の段階で性の多様性について学ぶ機会を設けるべき、と主張している。注目すべきは(12)で、一見同性婚を認めるような問いかけに見えながら、現行の婚姻制度と「違う」制度をつくることで、結局は「同性婚は普通の結婚とは違う」ということを強調しかねない。LGBTとは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシャル)、 T(トランスジェンダー)の頭文字を取ったものだが、全ての人がどこかのカテゴリーに完全に一致するということはありえない。よく勘違いされがちだが、LGBTの反対語は決して「異性愛者」ではなく、世の中には多様な性の在り方があり、それはその個人のいち側面に過ぎないのだ。同性婚を認めるとは、「普通とは違った結婚の在り方を認める」のではなく、「すべての人間に愛する人と共に生きる権利を認める」ということに他ならないのではないか。

「わたし」を表現する方法は人それぞれ。多様さは、可能性に繋がっている。

LGBTプライドパレードに見られる「レインボーフラッグ」は、決して同じではない個々人の多様性を、白か黒かで区切ることのできない光のスペクトルに喩えたものだ。この多様性を認めるという行為は、性自認にとどまらず、世界に存在する多様な「わたし」の在り方を認める思想でもある。「わたし」とは、単にこの皮膚で区切られた細胞のかたまりではない。「わたし」を形作っているものは、大切な人や故郷、記憶、哲学、属している社会、宗教的価値観…と多岐にわたる。そのひとつひとつに壁を設け、「異物」とレッテルを張る行為は、いつか自分が「異物」だと切り離される可能性を肯定してはいないだろうか。すべての人が無限の光のスペクトルのように、その存在を輝かすことのできる世界を目指して。台湾から発せられる希望の声に耳を傾け続けたい。

日本から参加したフロートも虹色の旗を長くなびかせていた。

(※1)台北市や高雄市などでは2015年頃から「同性パートナーシップ証明書」の発行を開始しているが、同性婚はまだ認められていない。
(※2)ネパールでは2007年に最高裁判所が国に対しLGBTの人々へ平等な権利を保証するように命じ、その後同性婚へ向けての法整備も検討されている。世界で初めて同性婚を合法化したのはオランダで2000年(施行は2001年)。

(2018.11.1/写真・文 佐藤慧)

【追記】
2019年5月24日、台湾で同性婚が認められるようになりました。しかし民法(旧来の結婚制度)を改正するのではなく、同性婚に関する新たな特別法をつくることにより認められたものであり、民法の結婚規定があくまでも異性間のものであることは変わりませんでした。また、養子の受け入れに制限があるなど、異性婚と平等の権利を獲得しているわけではありません。アジア初となるこの同性婚成立が、性別にかかわらず、誰もが愛する人とともに生きる権利を持っているのだということを、より広く考えていく契機となればと思います。(2020/12/17)


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