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「もう語れない」も伝えてみる―東日本大震災15年、佐藤あかりさんインタビュー
岩手県沿岸の自治体で最も南に位置する陸前高田市は、東日本大震災で甚大な被害を受けた街のひとつだ。市内米崎町の港を間近に臨んでいた自宅が全壊したとき、佐藤あかりさんは小学校1年生だった。筆者は2011年夏、災害支援を通して、米崎小学校体育館の避難所から同小学校校庭に建設された仮設住宅に入居したばかりの佐藤さんに出会った。
両親、妹、弟との仮設住宅生活は、災害公営住宅に移る2019年12月まで続いた。

2011年12月、仮設住宅で餅つきをする佐藤さん(左から2番目)。(安田菜津紀撮影)
「最初はほぼ皆が避難生活。でも中学生のときには自宅を再建した家庭も増えていて、気づけば学校に一緒に行き来するのはいつも同じ仮設住宅に暮らしている子。友達同士で“今日誰の家で遊ぶ?”ってなっても、どこか気を遣われているような…」。決して仮設住宅暮らし以外の友人たちを避けたり嫌ったりしていたわけではないものの、どこか居心地の悪さを感じてきたという。

2014年4月。校庭が仮設住宅になってから、ここがいつもの遊び場になった。(安田菜津紀撮影)
佐藤さんの父、一男さんは長らくその仮設住宅の自治会長を務め、全国で防災に関する講演も行ってきた。そうした環境もあり、メディアとの接触の機会は震災直後から多かったものの、取材手法に違和感を抱くことも度々あった。
「父の取材に来ているメディアの人が、父も私たちも一人の人間として尊重してくれるのか、それとも父と“それ以外の家族”としてしか見ていないのか、その違いを感じることもありました」
「自分が取材を受けていても、ああ、こういう“上手い具合のストーリー”を作りたいんだ、こういう回答が欲しいんだな、と気づいてしまうこともありました」

2022年3月、高校の卒業式。子どもたちにかかわる仕事をしたいと将来の夢を語ってくれた。(安田菜津紀撮影)
幼いころと違い、10代後半へと年齢を重ねれば、過度な取材の負担を周囲の大人が防いでくれる環境が常にあるとも限らない。一方、立場が弱ければ取材を断りづらいこともある。2025年春、隣接する大船渡市で大規模な山林火災が発生した際も、子どもたちが取材のプレッシャーでつぶれてしまうことがないようにと、メディアからアプローチがあった知り合いには、無理をしないようアドバイスを送った。
福祉法人で障害のある子どもたちのケアをする仕事を続けながら、人前で度々、自身の経験を語ってきた。けれどもそこに、迷いや揺らぎはつきものだった。
「あえて思い出さなくてもいいことを語るって、どうしても心が疲弊してしまうことですよね。だから何度も“もう無理かな”、“やめてもいいかな”と思って、語ることから距離を置こうとしたりもしてきました。今は“語ることをやめようと思った”という体験そのものを一緒に伝えることに意味があると思って、話の中にその気持ちを加えるようにしています」
今後も「語り」をいつまで続けるかは分からない。「やめたいかな」と「やってみるか」のはざまに今もある。この「もう語れない」が守られる環境そのものが大切なのだと佐藤さんは感じている。
「例えば友人の中には震災がきっかけで街に移住してきた人たちもいますが、そうした人と自分をきれいに切り離すことはできないですよね。でも自分が震災の経験を語ることをやめても、その人たちとの関係は変わらない、つながりが途切れるわけではない――そう思える環境自体が大事なんだと思います」

2026年3月。東日本大震災周年行事で仲間たちと太鼓を叩く佐藤さん。(安田菜津紀撮影)
メディアのナラティブは時に、「使命感」や「乗り越える」といった「分かりやすい物語」に、人の経験を絡めとってしまうことがある。けれども喪失や、その後に得た出会いや、15年間の中に詰まった経験を単純化することはできない。その「揺れ動き」にも居場所がある社会を、今私たちは築けているだろうか。
Writerこの記事を書いたのは
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フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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