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『スパイ防止法』は「治安維持法の再来」となるのか―海渡雄一さんインタビュー

治安維持法の法令。(佐藤慧撮影)

「治安維持法の再来」とも懸念される「スパイ防止法」――。政府は2025年8月、スパイ防止法の立法事実は現行法下で存在しないに等しいととれる見解を示していましたが、与党が大幅に議席を増やした今、強力に推進していくとみられています。

この法案が成立した場合、市民の自由や日常生活にどんな影響を及ぼすことになるのでしょうか?国の情報や監視に関わる法律を長年研究し、市民の自由を守る立場で警告を発してきた、弁護士の海渡雄一さんにうかがいました。

海渡雄一さん(本人提供)

スパイ防止法の「3本の柱」と立法事実への疑問

――「スパイ防止法」について、政権はどんな法律だと説明しているのでしょうか?

自民党と日本維新の会の連立合意に盛り込まれた内容には、3本の柱があると思います。

まず各省庁の情報活動を統括する「国家情報局」を創設すること。これは今の国会で出てくるだろうと思います。 

それから「対外情報庁」を設置すること。外国に忍び込むスパイを養成するといった、CIAのような機関を日本につくるということです。2027年度末までに、省庁横断的な「インテリジェンス・オフィサー」の養成機関「インテリジェンス・コミュニティ」を創設するとしています。

外国からのスパイについては、捕まえて重罰に処す、場合によってはおそらく死刑にする案が出てくる可能性がありますが、その一方で、日本においてそうした「外国で捕まったら死刑になるかもしれないスパイ」の養成を始めるということです。

そして3つ目の柱として、「外国代理人登録法」や「ロビー活動公開法」というような名称の法律が準備されているようです。これは今年の通常国会には提出できず秋の臨時国会になるかもしれませんが、今後2年間くらいの国会で、関連する法案が少なくとも3本くらい出てくると思われます。

重要な点として、日本には2013年に成立した「特定秘密保護法」があります。これは1985年に自民党が立案した当時の「スパイ防止法案(「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」)」の一部を修正したものです。防衛・外交などの分野で特定秘密とされた情報の漏洩は、最長10年の刑期で罰せられます。

つまり「日本はスパイ天国だ」と言われるような状態1がもしあれば、それを取り締まる法律は既にできているわけです。しかし、外国のスパイなどはまったく捕まっていません。 特定秘密保護法違反で送検された事案がこれまでに何件かありますが、ほとんど不起訴になっており、それも自衛官が先輩の元自衛官にレクをする際に特定秘密を漏らしてしまった、といったものです。

法律を制定するための根拠を「立法事実」と言いますが、スパイ防止法を制定するための事実的な根拠=立法事実があるのかどうか、根本的に疑問があると思っています。

高市政権下で急速に進む懸念――治安維持法の再来となるのか

――政府は昨年8月には、スパイ防止法の立法事実は確認できないという説明をしていました2。なぜ今になって、これをつくろうとしているのでしょうか。

石破政権では政策インデックスの中の1つに少しだけ載っていたものの、政権公約にはスパイ防止法の話は出ていませんでした。

やはり高市政権が成立したこと、そして前回の選挙(2025年参院選)でスパイ防止法を強く主張した国民民主党や参政党、日本維新の会が与党ないし準与党になったことで、急速に進んでいるのではないかと思います。

――海渡さんはスパイ防止法が「治安維持法の再来」になるのではないかという警鐘を鳴らされてきたと思いますが、その理由は何でしょうか?

スパイ防止法は情報に関する法律ですが、治安維持法はいわゆる「団体規制法」で、政府に反対するような社会運動を取り締まる法律ですから、法制度の建付けは違います。

しかし、その果たす役割が共通していて、その国の政策あるいは支配的な考え方に対して、少数側の意見を「スパイである」とか、戦前でいうと「国体変革思想である」と位置づけて弾圧していく、そしてマージナルな扱いをしていくという点で、非常に似た機能を果たすだろうと考えています。

そして、最初は「そんな大きな法律を作るつもりはない」と言っていても、結局それが拡大していき始末に追えないものになっていく危険があると思います。

とりわけ危惧を抱いているのは、英米やロシアなどの国々にある「外国代理人規制法」あるいは「外国勢力の活動透明化法」と呼ばれている法律が、非常によくない効果を現に発揮していることです。アメリカでは、著名なラッパーがマレーシアの富豪からお金をもらって民主党の大統領候補のオバマ氏にカンパしたことで捕まりました3

――たとえば様々なNGO活動や、海外の人権団体と連携した活動など、お金の流れが海外からだということで、いくらでも拡大解釈が可能になってしまう危険性があるのでしょうか。

はい、こうしたことも全て「外国代理人」だと言われてしまう。ロシアでは現にそうなっていて、外国からわずかでもお金を受け取っている団体は外国代理人ということで、(その関係者は)公務員にもなれないし、教育機関でも働けない。そして、活動そのものが外国代理人規制法違反だということで検挙されてしまい、全く活動ができなくなっている実態のようです。 

英米で成立した同じ名前の法律も、同様の効果をあげつつありますが、それとほとんど同じような法律を高市政権は日本に導入しようとしています。

この外国代理人規制に関する制度について、今のところ、具体的にどういう建付けのものになるかはまだわかっていません。政策合意で示された内容は、簡単に言うと日本国民が他の国の国民と何らかの社会活動――政治活動、社会活動、あるいは研究活動――をやる時に、全て登録しなさいというものです。

登録せずに一緒に活動すると、犯罪化されたり、 登録していても「登録内容に事実と違う点があった」と言われれば、それも犯罪になる恐れがあります。

これはすごく恐ろしいことです。たとえば大学に来ている留学生については、その人に関する情報を国に届けなければいけない、あるいは企業が外国の企業と共同で研究開発する場合にも届けなければいけなくなる。国境をまたぐ活動に対して、全面的な政府の監視下に置くような法律制度ができる可能性があります。

――たとえば朝鮮学校に対しては、「スパイの機関である」というようなヘイトスピーチが日頃から向けられがちです。何かしら外国とつながるような場所が、排外主義の対象になるのを煽ってしまう効果というのも懸念されるでしょうか?

排外主義を煽るための法的な武器にされる可能性が十分あります。

一番狙われる可能性があるのが、難民の救援のための活動。あるいは、朝鮮学校に対して政府からの援助がないということを問題として活動している市民団体などです。そうした団体に対し登録が促され、届け出ると「組織のメンバーを全部明らかにしてください」「お金の流れも全部明らかにしてください」と要請されていく可能性があります。

「外国代理人の規制」という名目で、いかにも必要なもののように思われますが、それが野放図に拡大していくと、ほとんどの市民活動が機能不全に陥るというか、何か海外の人と手を携えてやるということ自体を「危険だからやめたほうがいいんじゃないか」という心理にさせる効果があるのではと思います。

治安維持法がたどった歴史

治安維持法の法令。(佐藤慧撮影)

――治安維持法は、当初どんな説明で始まった法律だったのでしょうか?

「非常に極端な団体だけを取り締まる」ということで始まりました。日本の国体を変革してしまう活動として、天皇制の廃止を求める活動や、私有財産制度を廃止する共産主義や無政府主義などの活動に適用するとして、社会主義や普通の社会運動には適用しないということを明確に言っていました。

しかし、現実に適用が始まったら、最初は確かに共産党を一網打尽にしたわけですが、次は共産党系の労働組合、そして共産党と関係のある芸術団体などに広がっていきました。その次は天皇制を奉じない宗教団体や社会主義者、自由主義者というふうにどんどん広がっていってしまったんですね。

治安維持法の広がり方というのは、日本でこうした治安立法を作った時に、歯止めなく拡大していった例になると思います。

あまり知られていませんが、戦前の日本で「企画院事件」という治安維持法事件がありました。これは政府の中枢にある「企画院」という、当時の統制経済を企画していた役所の中に国体変革を目論む団体があると言われ、政府の中の派閥争いに使われた事件です。当時日本のファシズム国家の中には2つの流れがありました。1つがいわゆるナチス張りの「国家社会主義」を目指したグループ、もう1つが「大和民族」の「大和魂路線」を目指したグループです。後者が権力を牛耳り、前者の人たちを弾圧したのですが、その直後にはまた弾圧された側の人たちが権力を取って復活しました。つまり、治安維持法は当初考えられていたのとは全く違う権力闘争の道具として使われるようになったことがわかります。

――治安維持法は社会をどう変えてしまったのでしょうか?

当時は戦争に突き進んでいく流れが社会にあったわけですが、それに反対しただけで検挙される危険性がある、というような状態が戦争直前には起きていたと思います。

――スパイ防止法も同じ道をたどる可能性があるのでしょうか?

最近の例で言うと、盗聴法、いわゆる通信傍受法があります。これが最初に作られた時も僕らは大反対しましたが、対象犯罪が6つに限られていて、年間の適用件数も非常に少なかった。

ところが何年か経って、適用対象が増えてしまい、適用件数もうなぎのぼりで増えています。昨年は能動的サイバー防御法ができましたが、インターネットのトラフィックの内外通信(国内通信はわずか6.8%)については、政府機関が収集保存して、メタデータ検索などをしてもよいという法律です。サイバーアタックをしてくる人を見つけ出すためだとしていますが、我々が日常的に交わしているメールやSNSなどが、知らない間に政府の監視下に置かれる状態になっているのですね。拡大の流れは現にもう起こっていると思います。

ジャーナリズムや市民活動が抑制される懸念

――取材や報道、ジャーナリズムの現場にはどんな影響が出る可能性があると思いますか?また、市民活動にも影響が出ることが考えられるでしょうか?

今も僕がスパイ防止法に反対する講演をしたりSNSで発信すると、「スパイ防止法に反対しているお前はスパイだ」などと攻撃を受けます。

そうした攻撃を見せつけることによって、意見を言う人を減らしたいわけですよね。もう既にそういうことが、ネット上で始まっていると言えます。

※本インタビュー収録後の2026年3月12日には、共産党の辰巳孝太郎議員が衆議院予算委員会で質問した際、「スパイ」というヤジが飛ぶ出来事があった。辰巳議員によるとヤジは与党席からあったという。辰巳議員が翌13日の予算委員会で「意見や政策の違う委員や政党を、スパイ呼ばわりするのは絶対に看過できない。発言者からの謝罪と撤回を求めたい」と発言すると、坂本哲志予算委員長は「音声を検証した上で理事会で協議する」と応じたとされる。 

今回の選挙(2026年2月衆院選)でも、現実に戦争の危険が高まっていることは明らかなのに、「戦争への道を防ごう」と主張することそのものを揶揄するような言論が、日本のSNSでは相当力を得てしまっています。 

僕は、ここで黙ってしまうのではなくて、みんなで声を合わせて意見を言いましょうと言っています。衆院選の中では「#ママ戦争止めてくるわ」というハッシュタグが広がりました。これからの抵抗の芽になるような活動だったと思います。

――スパイ防止法が成立した場合、警察や捜査機関の権限はどこまで強まると考えられますか?

国家情報局は、国民と外国人の中から、スパイをあぶりだすために、あらゆる情報を集めてそれを解析するでしょう。

今回の制度の中では、情報機関を設置しそこで働く人たちに「二重身分」を認めるとされています。 その人の本当の名前とは別の名前を公式につくり、その名前で活動する。ある時突然その人が消えてしまっても、どこの誰だったかわからなくなるということが、法的に認められるということです。

――スパイ防止法は旧統一教会系の政治団体「国際勝共連合」がかねてから推進してきたと言われています。今回の法案の進め方に旧統一教会との関係が影響している可能性についてはどう見ていますか?

スパイ防止法と統一教会には古くから関係があります。一説では1970年代からとも言われてますが、1985年に自民党が出したスパイ防止法は統一教会からの大きな後押しで出されたものです。そのことは、当時の統一教会が関連していた「勝共連合」が作っていた新聞などで言われていました。

本来、「外国代理人の規制」という場合に真っ先にやらなければいけないのは、統一教会の自民党に対する干渉の問題であると思いますが、そこをやる気は全くない。ものすごいダブルスタンダードとなっていると思います。

「戦争反対」と言える社会のために

――スパイ防止法の問題をまだよく知らない人に一番伝えたいことは何でしょうか?

この世の中には「本物のスパイ」ももちろんいると思います。しかし、本物のスパイが捕まることは本当に稀です。戦前の「軍機保護法」でも、本物のスパイとして捕まったのはゾルゲ4ぐらいだと思います。

軍機保護法違反とされた事件というのは、たとえば、戦争に動員される人を知った一般の保険会社の社員が保険に勧誘した事案などです。

「宮澤・レーン事件(宮澤弘幸・レーン夫妻軍機保護法違反冤罪事件)」(1941年)では、北海道大学の学生が外国出身の教師たちと集まって交流する会を定期的に開き、北海道や樺太に旅行してみてきたことを報告したことが、スパイとされ、軍機保護法違反とされました。

今は特定秘密保護法があり、最も重要な秘密はそれで守られているはずなのにスパイ防止法が出されてきたのは、政府が戦争を始めるとなった時に、「戦争反対」だと言えなくなるようにするためではないかと思います。そう言っている人は異質な人間で、スパイである、外国代理人であるとされていくことが十分あり得ます。

昨年、中国との関係が悪化していく中で、日本のアーティストによる中国でのコンサートが中止になりましたが、こうした文化的な交流ができなくなっていくこと自体が戦争の種だと思います。このような「推し活」もできなくなるという意味でも、皆さんの生活に直接関連する可能性があります。

大学で留学生の人たちと交流したり、市民活動でも国境を超えた多様な活動があると思います。その中には政府に登録したり、公開することが性質上できないような活動もあります。そういう活動ができなくなる社会というのは、民主主義が危機に瀕するような社会になってしまうのではないかと思います。非常に危険な状態だとは思いますが、最近の国会周辺の状況を見ても、声をあげる人は増えている気がします。「これはちゃんと止めるべきだ」という国民が10%いれば止められると思うので、頑張ってみたいと思っています。

※本記事は2026年2月11日に配信したRadio Dialogue「『スパイ防止法』を考える」を元に、その後の状況も踏まえて編集したものです。

(2026.3.19 / 聞き手 安田菜津紀、 編集 伏見和子)

  1. 2024年(令和6年)4月の衆議院内閣委員会で、日本維新の会の青柳仁士議員が「今の日本、スパイ天国と言われるような状態で、各国の諜報活動が非常にしやすい状況になってしまっている」と発言している。(第213回国会 衆議院 内閣委員会 第7号 令和6年4月3日) ↩︎
  2. 2025年8月、山本太郎議員の質問主意書に回答する形で、政府は日本について「各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動が事実上野放しで、抑止力が全くない国家であるとは考えていない」という答弁書を閣議決定している。(「参議院議員山本太郎君提出「日本はスパイ天国」という評価及び「スパイ防止法」制定に関する質問に対する答弁書」 第218回国会 答弁書第8号(内閣参質218第8号)) ↩︎
  3. 「元フージーズのメンバーに有罪評決、中国を代理した活動など問われ」(CNN 2023年4月27日記事)https://www.cnn.co.jp/showbiz/35203159.html ↩︎
  4. リヒャルト・ゾルゲ。旧ソビエト連邦のスパイで、戦前の日本で諜報活動を行い、ドイツと日本の対ソ参戦の可能性などを調査していた。 ↩︎

【プロフィール】
海渡雄一(かいど ゆういち)

1981年弁護士登録、原子力に関する訴訟、刑務所の人権に関する訴訟を多数担当。盗聴法、秘密保護法、共謀罪法、土地規制法、経済安保法などに反対する活動に取り組む。著書に『秘密保護法対策マニュアル』(岩波ブックレット2015)『戦争する国のつくり方』(彩流社2017)。

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