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「番組の監視」報道を受け、内閣情報室に行った情報開示請求

内閣広報室が作成した資料。

「重要施策に関する事実や、政府の考えを伝えるためのもので、報道を監視する意図はない」——「内閣広報官」のXアカウント について、6月2日、木原稔官房長官はこうコメントしている。

首相官邸の公式Xが《内閣広報室試行アカウントは、本日から、内閣広報官アカウントに名称を変更し、引き続き、色々な投稿を試していきます。よろしくお願いします!》と発信しているように、5月1日に「内閣広報室試行アカウント」としての投稿が始まったものが「衣替え」となった。

アカウントの「中の人」は1月に就任した佐伯耕三内閣広報官で、安倍晋三内閣(当時)の首相秘書官を務め、同氏の演説草稿のスピーチライターを務めていた。

この間、当該アカウントでは報道を「論評」する投稿も行われており、冒頭の木原官房長官の応答につながっている。しかし本当に「意図はない」のか、そしてあからさまな「意図」だけが問題なのだろうか。

2020年、週刊ポストが、官邸の内閣広報室がテレビ番組を監視し、番組の構成やコメンテーターの発言を記録していたことを報じた。同誌によると、開示文書は同年2月1日から3月9日付までの約1ヵ月分だけでA4判922枚、分析チームの職員3人ほどが専従となり、番組を視聴して出演者のコメントなどを書き起こす作業を行なっているとした。

他にも開示請求を行った方の資料に、私が出演していた番組と、私のコメントが掲載されていることに気が付いた。そこで、さらなる資料が存在するかどうか、内閣広報室、内閣情報調査室に対し、2020年6月、下記のような形で保有個人情報の開示請求を行ってみた。

安田菜津紀に関して収集あるいは作成された個人情報あるいはプロファイルなどの一切。あるいは、あらゆる目的で調査・収集・作成された「安田菜津紀」についての記述が含まれる資料の一切。例えば審議会などの参加委員者選別、テレビやラジオ・ネットなどの言論動向を把握するためのメディアチェック内の記述、議員へのレクチャー、防犯・防災などのために調査された捜査情報を含む。

残念ながら内閣情報調査室からは、思わしい回答が得られなかった。

内閣情報調査室からの通知。

本件開示請求の対象となる行政文書は、存否を明らかにした場合、内閣の情報機関である内閣情報調査室の情報関心等が推察されることとなり、それによって、悪意を有する相手方が対抗・妨害措置を講じるなど、当室が行う業務の適正な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがある。

もちろん、納得のいく返答ではない。不開示理由のひとつとして挙げられている、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第14条4号 にはこうある。

公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

ちなみに5月に可決成立した国家情報会議設置法案では、この内閣情報調査室が「国家情報局」に「格上げ」されることになっている。

一方、内閣広報室からは、A4で90枚の文書の開示があった。期間は2019年11月から2020年6月までのもので、安倍政権下であり、佐伯氏が首相秘書官を務めていた期間とも重なる。90枚全てが私に関してのものというわけではなく、他の番組なども書き起こされている中に、私のコメントも含まれている、というものだった。

書き起こされたコメントは、「桜を見る会」についてや、コロナ禍の政策に対する意見が主だった。

開示された文書の一部。

すでに他の媒体で報じられているように、開示された資料に目を通す限り、文字起こしされているのは、政策に批判的な番組や、そうした発言をするコメンテーターが中心であるようだった。

公共の電波を通して届けた言葉は当然、市民社会での論評の対象になりえるものだ。しかし内閣広報室がわざわざこれを文字起こしし保存していたのはなぜなのか。この記録文書のことが報じられた後、ネット上では「報道番組の誤りを正すためだ」と官邸側の動きを擁護する声が相次いだ。しかし仮に「誤りを正す」目的なのであれば、なぜこの記録を「桜を見る会」の名簿のように、「速やかに破棄」していなかったのだろうか。

政治アナリストの伊藤惇夫氏は、週刊ポストに「メディアへの牽制のために作られているのではないか。発言を収集し、評論家やジャーナリストの足をすくう材料を探している」「文書の存在を示すこと自体が、メディアに対する牽制になっているのではないか」というコメントを寄せている。

現政権下、高市早苗首相は記者会見が少なく、XなどSNS発信の多用が指摘されている。SNS活用そのものを否定しないが、「不都合」な質問も受ける会見を避ける傾向と「セット」なのであれば健全ではない。高市首相個人だけではなく、「内閣広報官」のアカウントも注目を集めるが、これまでの経緯を踏まえれば、「報道を監視する意図はない」という木原官房長官の言葉は心もとない。そもそもこれまで内閣広報室が行ってきたことが「委縮効果(チリング・エフェクト)」(※)を招くものではなかったか、過去の検証も不可欠だろう。

(※)萎縮効果(チリング・エフェクト)
国家権力や強力な組織による監視・処罰・圧力を恐れるあまり、市民やメディアが本来持っている表現の自由や正当な批判を自ら抑制してしまう現象。
Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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