
新たな閣僚人事が公表された。片山さつき財務大臣や小泉進次郎防衛大臣は留任となったが、最高裁で違法とされた生活保護基準引き下げの「下地」に両者が携わっていたことは、どれほど知られているだろうか。
2012年3月に発足し、生活保護費削減を打ち出した自民党「プロジェクトチーム」座長だった世耕弘成氏は、のちに裏金問題で自民党を離党している。小泉氏も当時、同「プロジェクトチーム」のメンバーだった。「生活保護バッシング」が吹き荒れる中、やはりメンバーである片山氏も、「恥だと思わなくなったのが問題」等発言し、それを扇動した。
政権復帰を目論んでいた自民党は、2012年末の衆院選で、保護費の1割削減を公約に掲げ、実際、その意に沿うような引き下げが行われていったのだ。
安倍政権下の2013~15年にかけて、生活扶助基準が平均6.5%、世帯によっては10%という、過去最大の引き下げが行われている。その違法性を問う「いのちのとりで裁判」は、29都道府県で、千人を超える原告によって提起されていった。10年を超える裁判の末、昨年2025年6月27日、最高裁は大阪・愛知訴訟について生活扶助基準改定の違法性を認め、保護費減額処分の取り消しを命じた。
ところが国は、この判決の意味と正面から向き合おうとはしなかった。最高裁で違法とされた手法とは別の指標を引っ張り出し、補償を一部に留めた。違法な引き下げ実施前の基準との差額を全額遡及して支払うのではなく、「新たな減額」改定によって「追加給付」額を値切ったのだ。
その上、保護廃止世帯への「追加給付」にも様々な「壁」が立ちはだかっている。
9月18日、いのちのとりで裁判全国アクションが厚労大臣に、下記の実施を求め、会見を開いた。
(2)保護廃止世帯に対するプッシュ型通知をはじめとする徹底した周知と広報
(3)戸籍謄本等の提出を不要とする例外扱いの周知徹底と拡大、要した費用の補償
(4)出身世帯を離脱した者に対する個別の追加給付
(5)保護廃止世帯への追加給付について不服申立てできないとする扱いの是正
(6)行政文書開示請求に対する判断を2年後に行うとの通知の撤回
現在、生活保護を利用している場合は、「追加給付」を受けるための新たな申請は不要だ。しかし今回の「追加給付」の対象になる時期に利用していたものの、今はしていない場合、自治体への申出が求められている。
しかし、そうした保護廃止世帯からの申出期間は、2027年7月31日までの1年間に限定されている。プッシュ型個別通知等(※)での周知が徹底されていないにもかかわらずだ。ちなみに厚労省側の回答では、1年に限る法的根拠は「ない」だった。
(※)プッシュ型個別通知
行政機関が対象となる個人に対して、自発的かつ直接的に(郵便、メール、通知アプリなどを通じて)、制度や給付金、手続きに関するお知らせを送り届ける仕組みのこと。このプッシュ型と対極にあるのが、日本の社会保障において長年批判され続けている「申請主義(プル型)」で、権利を持っていたとしても、「対象者自身が制度を知り、自ら窓口に出向いて手続きをしなければ、国は一切助けない」という構造となっている。
他方、優生保護法の被害者に対しては、自治体が被害者のプライバシーや心情に配慮したうえでプッシュ型の個別通知を行う方法を具体的に示し推奨する通知が発出されている上、補償金等の請求期限は、補償金等支給法の施行日から5年間とされている。
支援者からは「生活保護をやめてからも、国から差別されている」といった当事者の声が会見で紹介された。
かつて厚生省(当時)で勤務していた尾藤廣喜弁護士は、「厚労省は基本原則を分かっていない、あるいは分かっていて無視していると思います。敗訴した厚労省は全員に通知する義務があり、それをしなければ責任を果たしたとはいえない」と指摘する。
神奈川原告でもある高橋史帆さんは、「例えば新聞もとっていない、スマホもほぼ使えない、家にテレビもない状態の人たち、あるいは障害などによって厚労省のサイトに自らアクセスして読み込むことが困難な人に対して、今の厚労省のやり方では情報が周知されないのではないでしょうか」と訴える。その周知・通知の方法も、自治体によってもばらつきがあるのが実態だ。

会見で発言する神奈川原告の高橋史帆さん。(安田菜津紀撮影)
本人負担で世帯員全員の戸籍謄本等の提出も不可欠とされているが、①電子申請(マイナポータル等)において存否確認ができ、追加給付の対象期間に継続して単身世帯であった場合、②追加給付の全対象者が、申出先の自治体の窓口に来所して本人確認が取れた場合は「例外」とされている。ただ生存確認が目的なのであれば、提出不要の扱いが拡大される必要があり、なおかつ提出を必須とするなら、それに要した費用の補償もすべきとアクション側は主張する。
オンラインで参加した関西の申出当事者からは、「子どもも成長してそれぞれ生活していますし、今は戸籍も別々になっています。生活保護利用期間中にDVを背景として名前が変わったりもしています。結局、戸籍謄本取得のために仕事も休まなければならない日があり、費用も合計4,650円がかかりました」といった声があった。
またDVや虐待などによって出身世帯を離脱した当事者に、給付が行きわたらない問題もある。過去に同一世帯であった時の世帯主にすべて給付されるという、不合理な扱いとなっているのだ。
現在、「追加給付」の決定(処分)に対し、その金額等への不服申し立てが各地で行われている。「値切った」額の支給は不当だ、とするものだ。しかし厚労省は、保護廃止世帯への「追加給付」については、生活保護法に基づくものではなく、あくまで「行政措置」であるため、不服申立てできないとの姿勢を崩さない。しかし現在も生活保護を利用している人が、転居前の自治体や行政区から追加給付を受ける場合であっても、保護廃止世帯と同様に審査請求の教示がなく、不服申し立てできないものとして取り扱われている。厚労省側の説明には整合性がない。
再減額改定そのものの違法性を争う争訟準備のため、「いのちのとりで裁判全国アクション」事務局長である小久保哲郎弁護士は、関連する行政文書の開示請求を今年7月1日付けで行っている。これに対し、厚労省は大部分を「令和10年6月30日までに開示決定等を行うこととする」と通知してきたという。令和10年──つまり2028年、2年後だ。
小久保弁護士は、「どういう経過で再減額がなされたのか知りたくて開示請求したものですが、まるでけんかを売られているようです。その頃には次の裁判が始まっているはずですが、それに対する妨害ではないかと思います」と憤る。
先述の通り、大阪・愛知訴訟が最高裁での原告勝訴となったにもかかわらず、厚労省は今も各地の裁判を争い続けている。9月29日には、秋田・兵庫・佐賀・熊本の4訴訟について、最高裁での口頭弁論が開かれる予定だ。
Writerこの記事を書いたのは
Writer

フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
あわせて読みたい・聞きたい

本記事の取材・執筆や、本サイトに掲載している国内外の取材、記事や動画の発信などの活動は、みなさまからのご寄付に支えられています。
これからも、世界の「無関心」を「関心」に変えるために、Dialogue for Peopleの活動をご支援ください。
寄付で支えるD4Pメールマガジン登録者募集中!
新着コンテンツやイベント情報、メルマガ限定の取材ルポなどをお届けしています。





