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支援を必要とする人がいる限り、僕らは現場を離れない  ―ウガンダで直面する紛争や格差、そして新型コロナウイルス感染拡大

東アフリカに位置する、ウガンダ共和国。1986年に現在の大統領が政権をとって以来、2007年初頭まで、過酷な紛争が続きました。とりわけ1993年以降、子どもたちが拉致され兵士にされるケースが相次ぎ、その人数は推定で3万8,000人にものぼるとされています。現在、認定NPO法人テラ・ルネッサンスの代表を務める小川真吾さんが、15年前にウガンダに着任して最初に取り組んだのが、村に帰ってきた元子ども兵たちの支援でした。

国内での紛争は沈静化している一方で、2016年の後半から、北部に位置する国、南スーダンから90万人が難民として逃れてきています。いまだ多くの人々が不安定な生活を強いられている中、追い打ちをかけるように世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大していきました。

ウガンダでは3月21日に最初の感染者が確認され、その翌日には国境を閉鎖、その後3月30日には大統領令により全土がロックダウンとなりました。5月16日現在、確認されている感染者数は203人。医療体制は脆弱で、千人あたりの医師の人数は約0.12人(日本は約2.3人)、10万人あたりのICUベッド数はわずか0.13(日本は7.3)に留まっています。問題は医療への不安だけではありません。現在、グル県に拠点を置き活動を続ける小川さんに、お話を伺いました。

(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

移動の自由が人の命をどれほど左右するか

―新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。紛争の問題を長年抱え、現在は難民を受け入れている北部は、他の地域から見ても支援の必要性が高まっているでしょうか?

北部地域では、人工呼吸器もICUベッドも10に満たない数しかありません。乳幼児死亡率、識字率、所得で見ても、相対的に南部よりも低くなっています。

―現在、外出や移動が制限され、元子ども兵の社会復帰プログラムが通常通り行えていない状況かと思いますが、そのことでどのような影響が出てくるでしょうか?

社会的、経済的活動への制限をかけることは、感染予防という意味では評価もされています。ただこの国では、同時に起こる“副作用”についても考えなければなりません。移動や外出の制限は、市民生活を犠牲にするもので、その中で最もあおりを受けるのは貧困層の人たちです。自分たちが関わってきた、元子ども兵たちも同様です。かつては戦争という脅威があり、その後せっかく頑張って自立できたのに、ロックダウンの影響で一時的にまた元に戻ってしまうような状況です。

感染拡大以前から続けてきた元子ども兵の社会復帰プロジェクトの様子(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

―移動や活動が制限されることによって、生計が立てられないだけではなく、様々なライフラインを断たれてしまう可能性もあるのではないでしょうか。

私がウガンダに着任した15年前は、北部の人々の9割近くが国内避難民でした。治安の問題もあって、援助機関も自由に動けず、医療や食料、安全な水にアクセスできないことによって多くの子どもたちがマラリアや下痢で亡くなっていくような状況でした。実は、紛争で直接銃撃などで命を奪われるケースは1割ほどだったんです。あとの9割近くの人々は、紛争があることで経済、社会活動ができないという、間接的な暴力で亡くなっていました。

今まさに、当時と同じような状況で人が亡くなっています。難民居住区のあるアジュマニ県では、最も近いクリニックから5キロ圏内に暮らしている人たちは約18%に留まっています。残りの8割の人たちは、それ以上に離れた場所に暮らしているわけですが、今のように公共交通機関が止まってしまうと、一部の人を除いて車やバイク、自転車すらも持っていないので、物理的に医療にアクセスできなくなってしまいます。ロックダウンによってマラリアや下痢がなくなるわけではないので、病院に行けず人が亡くなっているのは、紛争当時の状況と重なります。日本の生活保護のような制度もなく、日銭が稼げなければ栄養状態が悪化し、死に直結します。もちろん感染予防は必要ですが、それに伴う“副作用”を俯瞰して見る視点も必要ではないかと思います。

―南スーダンから逃れてきた人々が暮らす地域では、どのような影響がありますか?

ウガンダでは基本的に、南スーダンから逃れてきた人たちに対して、当初から移動と就業の自由を与える政策をとってきました。なのでそういった人々が暮らしている場所を、「難民キャンプ」ではなく、「難民居住区」と呼び、その地域に根差して生活を再建していけるような方針をとってきました。

私たちが活動するパギリニア難民居住区には、約3万5,000人が暮らしています。難民の中にも様々なバックグラウンドの人がいますが、ひとり親で子どもがたくさんいたり、高齢者や障害者、あるいは親を亡くすなどして子どもが世帯主になっている家庭など、より脆弱な世帯が暮らす地区を重点的に支えていく必要があると思っています。

パギリニア難民居住区(撮影:2017年 提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

啓発とハード面の整備、その両面が必要

―手洗い設備の設置など、感染防止のための活動を続けていらっしゃいますが、何が感染防止に有効なのかを広めていく難しさもあるのではないでしょうか?

ウガンダでは5歳以下の子どもたちの死因で最も多いのが下痢だとされています。もちろん他のNGOなども、新型コロナウイルスの感染拡大前から手洗いの啓発活動は続けていましたが、まだまだそれが行き届いていない、あるいは届いていてもそのための手段がない、ということも要因ではないかと思います。日本のように水道から水が潤沢に出るわけではなく、お金を払って水を運搬したり、自ら労働して手に入れにいかなければならない環境です。限られた水を節約して使わなければならないとなると、手洗いのために残しておく余裕がなくなってしまいます。啓発も必要ですし、同時にハード面を整えるのも大切だと思います。

支援によって設置された手洗い設備(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

―日本を含めて、感染拡大の初期は不確かな情報が飛び交いがちでしたね。

感染者が確認された当初は、支援する側も含め、どういう対策が必要なのか未知数の状態でした。危ない、恐いという意識が先行して、中には何十メートルも先に人が住んでいるだけで感染するのではないかと考えてしまう人もいました。相互不信が募り、感染を疑われている人がリンチにあってしまったケースや、外国人への差別もありました。どういうことをすればリスクを下げられるのかが分からず、互いに疑心暗鬼になってしまっていたのだと思います。活動を続けながら、手洗いや距離を保つということを丁寧に伝えれば、皆さん安心してくれることも分かってきました。

啓発のポスターを貼って走る車。イラストを使い分かりやすい情報提供を心がけている(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

長期的な視野での生計支援も

―5月5日にロックダウンが延長され、状況は益々厳しくなってきているのではないでしょうか。

国境が閉ざされている状況でも、いまだに南スーダンから逃れてくる人たちがいます。ウガンダ側はこうした不法入国をかなり厳しく取り締まっていて、拘束された人たちは隔離施設で2週間滞在することになります。アジュマニ県の施設では、160人ほどが生活をしていますが、感染予防の観点からしても環境が劣悪で、資金も乏しいということで、食糧支援を行っています。

難民居住区で暮らしている人たちに関しては、WFP(国連世界食糧計画)の食糧支援だけで生活が成り立っていたわけではなく、自分たちで小規模ビジネスをしながらなんとか日々暮らしていました。ロックダウンでそれが成り立たなくなってきているため、より脆弱な立場にいる人たちには食糧を戸別配布しています。

ただ、目先の問題だけではなく、長期的に見れば生計支援が欠かせないものだと思っています。例えば、縫製の技術を身につけて自立していった元子ども兵たちも、洋裁店が軒並み閉まっているので、収入が途切れてしまっています。そうした子たちにマスクを作ってもらうことで就業の機会を提供しています。手洗い設備を設置する台も、木工大工の技術を習得した子たちに仕事として作ってもらっています。物資の配布に留まらず、感染拡大が落ち着いてきたときのことも視野に入れ、彼ら彼女たちの技術を考えてのアプローチが大切なのではないかと思っています。

習得した技術を活かしてのマスク作り(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

―マスクを作ることで就業機会を提供、というのは大切な活動だと思いますが、ウガンダではもともとマスクをつける習慣はあったのでしょうか?

今まさに、マスクについての教育素材を準備しているところです。マスクを何のためにするのか、教育を受けている層であってもあまり知られていません。ウガンダでは5月5日の大統領の声明で、マスクを着用するようにとの発表がありました。マスクの効果については専門家の中でも意見は分かれると思いますが、まずは正しい使い方など基本的な知識を分かりやすいイラストなどを交えて伝えようとしています。国内ではマスクの値段が今、30~50倍に高騰していて、これからさらに値上がりしていくことも考えられます。マスクを使わないことへの取り締まりも厳しくなっていくと思いますが、貧困層の人たちにとっては、食べ物さえ買えないのにどうすればいいのか、という状況です。

(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

世界が連携していくきっかけに

―非常に厳しい状況が続き、ウガンダから帰国する人も少なくない中で、なぜ小川さんは現地に留まったのでしょうか?

日本では医療従事者の方々のように、私たちよりもずっと高い感染リスクの中で日々働いていらっしゃる人たちがいますが、気持ちとしてはそうした方々と同じような心構えでいたいと思っています。例えば患者さんがたくさんいるときに、お医者さんたちが治療をやめて家に帰ってしまうわけにはいかないですよね。僕らの仕事も同じで、危険地でもどうやって安全を保てるかを考えつつ、その中で出来ることをこれまでも積み重ねてきました。これだけこの地域で支援が必要な人がいる、ということは、医療現場でいえば患者さんが急増しているということに近いと思うのですが、ここで撤退して帰ることはありえない。日本で頑張っている医療従事者の方々と、ある意味同じような心持ちで仕事をしています。

加えて「グローバルに考えよう、地球市民として行動しよう」と訴えていたNGOが、真っ先に飛行機で帰っていいのだろうか、という思いもありました。今は日本国内でもなるべく移動をしないよう多くの人が努めている中で、まして国境をこえて動くべきではないときですよね。それでも高額なチケットを買える人たちが、より安全な場所へと我先に移動して、またウイルスが広がってしまう。もちろん、自国に帰りたいというのは当然の権利ではあるのですが、元々飛行機に乗れるような人が国際間で移動して感染を広めて、それによって自分の家と隣村しか知らないような地元の人々が脅かされているわけですよね。逃げたくても逃げられない人がいるからには、私たちなりにできることのために残ろうと考えていました。

手洗い設備の設置(提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

―一方、世界中で人々が不便な生活を強いられることによって、新たな気づきもあったのではないかと思います。

先ほどのように「自分だけ」となってしまう人の弱さも見えてしまうことがありますが、「こういうときだからこそできることをやろう」というポジティブな面も見いだせているのではないかと思っています。

このウイルスは世界中で広がり、国境をこえた問題だと目に見えて分かるわけですよね。本当は鉱物資源を巡る争いや紛争、貧困の問題も同じなはずですし、常にそういうことを訴えてきたわけですが、どうしても「対岸の火事」ととらえられがちでした。

世界中の人たちが同じ問題で悩み、それに対して何かしようとアクションを起こしたことは、少なくとも僕が生まれてからは経験したことがありませんでした。だからこそ、世界が連携していくはじまりでもあるのではないかと思っています。新型コロナウイルスの感染者や死亡者が、各国で毎日のように報じられているからこそ人は危機感を持つわけですが、ウガンダではマラリア、結核でそれぞれ年間1万人以上が亡くなっています。1日60人以上です。こうした問題も一緒になって解決しなければならないんだということを考えるきっかけになってほしい、と思っています。

(聞き手:安田菜津紀/2020年5月)

▶︎ 認定NPO法人テラ・ルネッサンス

(終了)
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