「お答えを差し控える」ことは許されるのか―政治倫理綱領を読み直す
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「桜を見る会」の前日の夕食会をめぐる問題で、東京地検特捜部が安倍晋三前首相に任意聴取を要請しました。「まだ桜のことをやっているのか」という意見も聞かれますが、「まだ明確な説明が為されていなかったのか」という視点が大切ではないでしょうか。
「森友・加計問題」や「検察官定年延長法案」「学術会議の任命拒否問題」など、様々な不明点が提示されながらも、きちんと資料を提示しない、記録していない、「お答えを差し控える」という、疑惑の解明を「拒否」する態度が国会でも散見されますが、実は「政治倫理綱領」に照らし合わせて考えると、そうした疑惑は「みずから解明し、その責任を明らかに」しなければなりません。
一、われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない。
(政治倫理綱領より)
「政治倫理綱領」の成立は40年以上昔にさかのぼります。1976年、旅客機の受注をめぐる世界的規模の汚職事件、「ロッキード事件」が発覚。1978年には、日米間の戦闘機売買に関する「ダグラス・グラマン事件」が明るみとなり、相次ぐ汚職事件を契機として、議員の政治倫理の確立と、政治腐敗防止方策の必要性が日本でも唱えられるようになります。
俗に「ロッキード選挙」と呼ばれる1983年12月の第37回衆議院議員総選挙では、「政治倫理」がひとつの大きな争点となり、与党の総獲得議席に大きな影響を与えました。
その後1985年の国会法改正により、「政治倫理」の章が新たに設けられ、衆参両院の議決する「政治倫理綱領」および「行動規範」を遵守する義務が定められました。その違反に関する審査・勧告を行う機関としては、「政治倫理審査会」が設置され、現在に至ります。
どのような職業にもそれぞれの職業倫理が求められますが、社会の土台となる法律を定める「立法府」に関わる議員に求められる倫理は、人々に多大なる影響を与えることを考えても、より一層厳格なものが求められるでしょう。「民主主義」とは、選挙のことだけを指すのではありません。選挙期間以外の日常の中でこそ、きちんと正当な議論や手続きを経て、社会がより良いものにアップデートされているか、綻びがないか、丁寧に見て行くことが大切です。
「政治倫理綱領」は「(議員の)言動のすべてが常に国民の注視の下にある」ことが前提となっています。多くの疑惑が浮上しては、溢れる情報の波にかきけされがちな現在、下記「政治倫理綱領」を、改めてじっくり読み直してみてはいかがでしょうか。
政治倫理綱領一、われわれは、国民の信頼に値するより高い倫理的義務に徹し、政治不信を招く公私混淆を断ち、清廉を持し、かりそめにも国民の非難を受けないよう政治腐敗の根絶と政治倫理の向上に努めなければならない。
一、われわれは、主権者である国民に責任を負い、その政治活動においては全力をあげかつ不断に任務を果たす義務を有するとともに、われわれの言動のすべてが常に国民の注視の下にあることを銘記しなければならない。
一、われわれは、全国民の代表として、全体の利益の実現をめざして行動することを本旨とし、特定の利益の実現を求めて公共の利益をそこなうことがないよう努めなければならない。
一、われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない。
一、われわれは、議員本来の使命と任務の達成のため積極的に活動するとともに、より明るい明日の生活を願う国民のために、その代表としてふさわしい高い識見を養わなければならない。
※参議院議決(1985年6月25日)、参議院議決(1985年10月14日)
政治倫理委員会 委員名簿(2020年10月28日現在)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_iinkai.nsf/html/iinkai/iin_s9010.htm
(記事・写真 佐藤慧/2020年12月)
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