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「困難な立場にある方々を人間扱いしない社会は、実は誰も人間扱いしていないのだと思う」―入管、難民問題に取り組む駒井知会弁護士インタビュー

初めて茨城県牛久市にある東日本入国管理センターを訪れたのは、桜が満開の季節だった。門をくぐると、見事な桜並木が建物の入り口まで続いている。「きれいですよね。でもこの桜、収容されている人たちは見られないんですよ」と、弁護士の駒井知会さんがもどかしそうに語っていた。

定員700名のこの施設には、コロナ禍でもなお、多くの外国人が収容されている。殆どの人々は送還に応じているものの、一部の帰れない事情を抱えている人々が、先行きの見えない生活を施設内で送っている。帰国すれば迫害を受けるかもしれない、日本に家族がいる、生活の基盤がすべて日本にあるなど、帰ることができない事情は様々だ。

東日本入国管理センターへはまず、上野駅から牛久駅まで約1時間電車に揺られ、そこからさらにバスを30分ほど乗り継いでようやくたどり着く。近隣に暮らしている人々を除いては、たどり着くのも一苦労の場所だ。面会に向かう家族たちにとっては、交通費もかさむ。もちろんそれは支援者や、代理人を務める弁護士にもいえることだ。駒井さんは外国人の長期収容問題などに取り組み、時には毎週のようにこの道のりを往復している。

東日本入国管理センターの入り口

2020年10月、在日外国人の支援活動を行っている弁護士グループが都内で記者会見を開き、国連人権理事会の「恣意的拘禁国連部会」が、トルコ国籍のクルド人であるデニズさん、イラン国籍のサファリ・ディマン・ヘイダーさんの訴えを受けて、日本の入管当局の対応を「国際人権規約に反する」とした見解をまとめたことを明らかにした。駒井さんもこの弁護士グループのメンバーの一人だ。

デニズさん、サファリさんはとも難民申請中であり、精神疾患や著しい体調不良を訴えてきたにも関わらず、入管は長期にわたって繰り返し2人を収容してきた。在留資格がないなどの理由で外国人を無期限に収容する日本の方針は、これまでも国連から再三「拷問にあたる」等の指摘を受けており、今回の見解はさらに踏み込んだものといえる。

入管という密室で繰り返されてきた人権侵害は枚挙にいとまがないほどだ。2014年、カメルーン人男性が体調不良を訴えているにも関わらず、放置され亡くなった事件は現在係争中だ。床の上を転げ回るほどもがき苦しんでいるにも関わらず、職員は監視カメラで様子を観察しながらも適切な処置をしなかったとされる。

ところが今、さらに人道上問題をはらんだ方向に、入管法が変えられようとしている。2021年2月19日、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」を政府が閣議決定した。この法案に盛り込まれているのが、「送還忌避罪」(退去命令拒否罪)「仮放免※逃亡罪」など、罰則の新設だ。刑罰を課すことによって、本人に帰国やパスポートの取得の同意をさせることが“狙い”だとされている。

※仮放免:在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認めたもの

果たしてこの案は、当事者たちの声をどこまで反映しているだろうか。例えば「仮放免逃亡罪」の導入について、仮放免中の人々が“なぜ逃亡したのか”を分析した痕跡はほとんどない。上限のない無期限収容の問題や施設内での人権侵害が繰り返し指摘される中、再度収容され、また絶望へと突き落とされるかもしれない、という恐怖があれば、彼らは逃れたいと願うだろう。つまり、逃亡せざるをえない状況を、そもそも入管側が作り出しているのだ。そう考えるとこれは、「逃亡」ではなく、「避難」といえるのではないだろうか。強制送還を拒むなどの「送還忌避」についても、刑事罰を科したところで、「帰れない」事情は変わらない。

2019年、日本では1万人をこえる難民申請がありながら、認定を受けた人数はわずか44人だ。0.4%という極端に低い難民認定率であれば、送還を拒否している人々の中に難民に該当する人が必ず含まれているはずだ。そこに刑事罰を導入するということは、難民であること自体を罪に問うようなものだ。

日本の入管収容制度はどんな点が問題視され、どのような見直しが必要なのか。駒井さんに改めて伺った。

取材に答えてくれた駒井知会さん。東日本入国管理センター前で。

―日本政府に対して意見書を送った国連の「恣意的拘禁作業部会」はどんな組織か教えてもらえますか?

国連の人権理事会の元にある組織で、国際法・人権法などのエキスパートの集団です。世界トップレベルの研究者たちが集まっています。この作業部会が国際法違反の身体拘束を受けているというSOSを世界中から受け、調査し、違反がある場合は専門的な意見を出しています。今回のように個人でも通報が可能です。

―作業部会は日本の入管収容制度のどんな点が問題だと意見書の中で指摘しているのでしょうか?

上限のない無期限の収容、司法チェックを経ない収容が国際法違反だとしています。また、必要性、合理性のない身体拘束はすべきではなく、人間を身体拘束するのは他に方法がない場合の最終手段であるとしています。つまり、当たり前の国際法上の原則を守るよう日本政府に提言しています。

―訴えを起こしたトルコ国籍のクルド人、デニズさんと、イラン国籍のサファリ・ディマン・ヘイダーさんは、日本の入管施設でどのような扱いを受けてきたのでしょうか?

サファリさん、デニズさんはともに難民申請者です。今回の収容だけで合計3年半以上も収容されていました。そんな無期限収容に耐えられなくなり、抗議の意味も込めての絶食をするまでに追い詰められていた人たちです。

デニズさんの場合は職員に集団で暴力的に抑えつけられている動画がすでに公開されていますが、入管の中でこうした過激な行為が収容者に対して行われていることは、残念ながらよく耳にすることです。

うつ病を発症してしまう方々、自殺未遂を繰り返したり自傷行為に走ってしまったりする人もいます。こうして人間の心と身体を崩し、弱らせてしまうものなんです。

―二人は収容中、適切な医療を受けることができなかったことも訴えています。

残念ながら医師に中々みてもらえないことは、二人に限らずあることです。医師が収容施設に来ることになっていますが、頭が割れるように痛い、胸が苦しいと訴えても、実際に診察を受けるまで2週間以上もかかることも珍しくありません。また、外部の病院にかかる必要があっても、1~2カ月待たされてしまうこともあります。

―体調不良によって収容が一時的に解かれても、2週間で再収容されてしまうケースも相次ぎました。これ自体が「拷問」にあたるのではないでしょうか。

何年も収容されて先が見えない中、追い詰められ絶食した人たちが体重を10キロも20キロも減らしてしまうことが続出しました。ぎりぎりの体調で何とか収容を解かれても、2週間でまた再収容をされてしまう、ということが繰り返されてしまいました。サファリさんはうつ病を発症してしまいましたし、再収容は心身ともにさらに追い打ちをかける措置です。

―「入管施設より刑務所のほうがまし」という声も聞かれますが、日本政府は現在の入管収容制度に対して法的に問題ないというスタンスなのでしょうか?

残念且つ不可解ですが現時点で入管や法務省の側は、こうした措置が合法だという立場です。

―他にどんな点が問題だとお考えですか?

無期限収容問題はもちろんですが、難民申請者が収容されてしまった場合、自身が難民であることの証拠などを集めることも殆どできなくなってしまいます。また、家族とばらばらにされてしまう辛さもあります。自分の親がいつ出てきてくれるのか分からないまま待っている子どもたちもいます。

収容環境も問題です。面会はできますが、原則として月~金の平日のみ、それも午後早い時間に締め切られてしまうので(東京入管は午後3時まで)、家族にとっても会いに行くのも簡単ではありません。(弁護士面会等を除けば)時間も30分と限られています。施設内には公衆電話があり、外にかけることはできますが、外から中にかけることはできません。インターネットのアクセスは全く認められていません。

―面会場所は鉄扉の小さな部屋で、真ん中が壁とアクリル板で仕切られ、刑務所の面会室のイメージそのもの、という殺伐とした場所です。

私が視察したイギリスの収容施設の面会室は、比較的大きなホールに椅子やテーブルが並んでいました。午後2時から9時まで、365日、時間制限もなく談笑できる、そんな人間的な風景が広がっていました。収容施設内にはパソコンが置いてあり、収容者は外の世界とネットでつながり、メールのやりとりをすることができます。

イギリスの収容施設の面会室(駒井さん提供)

―入国管理法の改正が議論されています。そのなかで強制送還を拒否した外国人に対する刑事罰、「送還忌避罪」などの導入が検討されています。

2019年6月24日に、長崎の大村入管センターに収容されていたナイジェリア人男性が、どうしても帰国ができないということで絶食し、最終的には餓死してしまう事件が起きました。入管側はこの事件を「送還できなかったことが原因」だとして、在留資格を出すことで解決していこうとするのではなく、刑罰を課すことで本人に帰国などの同意をさせようとしているとみられます。

―刑事罰で収監された後も、「帰れない」事情は変わらないわけですよね。

刑務所から出てきて送還を拒否すれば、また収監される、という無限ループにもなりかねません。それはだれも幸せにならないはずです。

―日本は難民条約に加入しているはずです。

この法の改定で、たとえば、3回以上の難民申請をしている人たちが(一部の事例を除き)強制送還の対象となる恐れがあります。迫害を受ける恐れのある国に送還するのは、ノン・ルフールマン原則(※)にも反しています。そもそも日本の難民認定率は0.4%と極めて低いばかりか、難民審査制度の内容も手続も国際スタンダードとは驚くほど乖離しています。この点を抜本的に改革しないままでは、複数回申請している方の中にも、国に帰れば危険、という方は相当数いるままになるはずです。

※ノン・ルフールマン原則:難民を迫害が予想される地域に送還したり追放したりしてはならないという国際法上の原則。
https://www.unhcr.org/jp/right_and_duty

―改定案に盛り込まれている「監理措置制度」とは何でしょうか。

監理措置制度は、主任審査官(入管の職員)が「相当」と認めるときだけ、主任審査官が「選定」する「監理人」に厳しく監視させる条件のもとで収容しないとする制度です。ところが、重要な点は、監理措置制度の前提として、国連恣意的拘禁作業部会から国際法違反と宣言された入管収容制度がそのまま基盤に維持されている点で、大事なところは何も変わっていないんです。司法審査を経ない収容も維持、人間を壊す無期限収容も維持、そもそも収容の必要性等のない場合も収容できてしまう悪名高い現行の入管収容制度を基礎に、主任審査官が「相当」と考えたときに、主任審査官が選定した監理人が監視作業を引き受けて、更に保証金を払えたときだけ収容しない、という制度です。

―収容問題の根本的な解決になっていない上に、更なる監視を強める、ということでしょうか。

退去強制令書の出ている人たちは、仮に監理措置を受けて収容施設から出てきても、就労できませんよね。就労も出来ず、健康保険も原則入れない状態は、「社会生活」とはいえません。そういう極限状態に置かれた人々が、たとえば、つい温かいご飯を食べたくてバイトをしてしまった、子どもたちを病院に連れていくために働いてしまったとして、これが監理措置制度のもとでは刑事罰の対象になります。今まで、仮放免許可を受けた人たちがやむにやまれず就労しても、収容されたり保証金を取られたりすることはありましたが、刑事罰まではありませんでした。今回は、そこに刑事罰が、わざわざ創られます。

更に、監理人も、監視対象の被監理者の動静を報告しないと過料の制裁を科されますし、被監理者がたとえば就労してしまったとき、場合によっては共犯者とみなされる可能性もあります。入管が、司法審査を経ずに、しかも必要性等要件なしに無期限収容できてしまう原則収容主義という国際法違反の制度を鉄板の基盤にした上に、監理人と被監理者を二重に管理支配していくシステムを築いてみた、これが監理措置です。

東日本入国管理センターの門前

―国連の作業部会から意見書が届いて3カ月が経ちますが、日本政府として政策に反映させる動きはあるのでしょうか?

ありません。国連の作業部会が国際法違反だと指摘した点について、何ひとつ改善がなされないのが現状です。内閣から提出されている入管法改定案が通ってしまえば、延々と国際法違反状態が続いたままになってしまいます。その結果、国際法を遵守した制度変革は却って大幅に遅れることになってしまい、事態が悪化するばかりということになるのです。

今後しかるべき改正がなされるのだとすれば、まず難民認定を認定するための独立した機関を作るのは必須です。国際人権規約や子どもの権利条約をはじめとした国際人権法に基づいて、在留特別許可を与えるべき人にしっかり与えるシステムを作るべきだと思います。

―多くの人が日本の入管で何が起きているのか知りません。どんなことを駒井さんは伝えたいでしょうか?

いつまで日本は難民鎖国を続けるのでしょう。そしていつまで在留資格のない日本生まれの小学生、中学生、高校生、青年たちに在留特別許可を与えないことで彼らから将来への希望を奪い、愛し合う家族や夫婦を国籍で無理に引き裂こうとするのでしょうか。

皆さんが実態を知っていただければ、必ず事態は変わっていくと信じています。収容されて「私たちは動物ではありません!人間扱いしてください!」と訴えかける方々も、仮放免で仕事も健康保険もない状態で苦しみ続ける方々も、あなたや私と何も変わらない人間です。

困難な立場にある方々を人間扱いしない国と社会は、実は誰も人間扱いしていないのだと思います。自分がいつか困難な立場に陥って初めて気がつくような社会では、あまりにも悲しいのではないでしょうか。難民申請者たちも含め、無期限収容されている人々の苦しみも知っていただけたらと思います。

       


世界的な感染拡大はおさまらない中、政府は今年の夏、延期となった東京五輪の開催に向けて準備を進めているという。大会では紛争などで母国を離れた難民で結成する「難民選手団」を受け入れることも掲げられている。選手それぞれが大会に向けて、手探りながら努力を重ねてきていることだろう。ただ、足元では外国人に対する人権蹂躙を繰り返し、五輪という舞台でのみ「難民受入」を誇るその姿勢は、あまりに矛盾するのではないだろうか。

構造的な暴力が変わっていくためには、声の輪の広がりが欠かせない。けれども収容されてしまっている人々は、自ら声をあげることを阻まれている。ともすると置き去りにされがちな声が政策に反映されるよう、私たち一人ひとりからの投げかけが、今求められているのではないだろうか。

(2021.2 / 聞き手・写真 安田菜津紀)


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