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2021.8.17

「日本語しゃべれねえのか?」警察の対応から浮き彫りになるレイシズムの根深さ―弁護士・西山温子さんインタビュー

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.8.17

インタビュー #人権 #差別 #安田菜津紀

東京五輪の開催にあたり、ジェンダーや差別、日本社会の様々な人権問題が浮き彫りになってきた。今回の五輪で高らかに掲げられている「ダイバーシティ&インクルージョン」は今、果たしてどこまで中身の伴う言葉となっているだろうか。今年6月、都内ではこの「ダイバーシティ」とは真逆の様相をなす事件が起きた。

弁護士の西山温子さんによると、東京都内に住む南アジア出身のムスリムの40代女性が、ヒジャブを着用し、近所の公園で3歳の長女を遊ばせていたところ、突然園内にいた男性から「息子が蹴られた」と抗議を受けたという。女性は長女から目を離さず見ており、「長女は蹴っていない」と主張したものの、男性から「外人」「在留カード出せ」などと詰め寄られた。その後、男性の通報で警視庁の警察官6人が駆けつけたが、日本語でのコミュニケーションがほとんどできない女性に対し、「本当に日本語しゃべれねえのか?」などと発言。公園での聞き取りの後、女性と長女は最寄りの警察署でおよそ2時間半、任意の事情聴取をされたという。「後日、民事訴訟を起こす」と主張する男性に、警察側は女性の氏名や住所などの個人情報を伝達したほか、女性が長女を監督できていなかったとして児童相談所に通告。また警察署では、幼い長女ひとりに対して複数の警察官から聴取された場面もあり、精神科医から心的外傷、トラウマ体験による不眠との診断を受けている。弁護団は警察官の違法・不当な職務執行があったとして、7月5日、東京都公安委員会に苦情申し立てを行った。現在、警視庁が調査中だ。

TBSラジオ「Session」(7月23日放送)を通して、西山さんにこの事件についてや、外国人の人権問題についてお話をうかがった。
 

弁護士の西山温子さん。TBSラジオのスタジオにて。

犯罪になり得るという認識が警察にすらない

――改めてこの事件、特にどんなところに問題意識を持ってらっしゃいますか?

まず警察は最初から、女の子が蹴った、何かをしたと決めつけていたんですね。その前提で警察署に連行したというところが、すでに問題です。

後から分かったことですが、警察署で女性は意に反して写真を撮影されていたり、母語ではない言葉である英語での通訳しかなかったりという状況だったそうです。お昼を食べていなくて、お腹を空かせたままトイレにも行かせてもらえない、おむつも替えさせてもらえない。そういう中で事情聴取が行われています。

ヘイトスピーチをするような相手に対して、個人情報を提供してしまったということも問題です。
 

――男性からも警察からも、ヘイトスピーチにあたる発言があったと思いますが、こうした差別発言に対処する法体系が乏しい、という問題もあるのでしょうか。

侮辱罪や名誉棄損に該当するものであれば、刑罰の対象になっていくかもしれませんが、ヘイトスピーチ自体に罰則を設けた法律はありません。

男性は「外人は生きてる価値がない」と発言したり、タバコを吸って女性の顔に煙をふきかけたりもしていたそうなのですが、その場に呼ばれた6人の警官は誰も咎めませんでした。ヘイトスピーチが間違ったことだとか、発言の内容によっては犯罪になり得るという認識が警察にすらないというところが問題だと思っています。
 

――アメリカでは「レイシャル・プロファイリング」の問題が度々指摘をされています。例えば警察官が「黒人や有色人種の方が犯罪を犯す」というバイアスで調査対象を絞っていくことなどが挙げられます。日本でも同様の問題が起きてきたということでしょうか。

外国人であることを根拠にしているとしか思えない職務質問が、頻々と起こっています。逮捕や強制捜査にあたらない任意の職務質問は、何か犯罪をしているとか、これからしそうだということを、その人の挙動や周りの状況などの条件の元、合理的に考えて確認できなければならないはずです。警察官職務執行法という法律で、相当の理由がなければ職質してはいけないと定められています。例えば、髪型がいわゆるドレッドヘアのようなもので、そういう人は薬物を持っているかもしれない、と職務質問をするようなことがあるのであれば、それが“合理的な理由”に当たるのかという問題があると思います。
 

          

その同意は心の底からの同意だったのか?

――気になったのは同意のあり方ですよね。警察官に囲まれて、非常に威圧的な中で「署まで来い」「個人情報を相手の男性に渡すことに同意するまで、ここから帰さないぞ」と言われたら「NO」と言えないですよね。

心の底からの同意だったのか?というところはもちろん、同意の内容にも問題があると思います。女性は最初、男性に共有されるのは電話番号だけだと思っていました。ところが実際には、氏名と住所も伝えられていたようです。私が警察署に行ったとき、「それは同意を得たからだ」と担当の警官に言われたんですが、「じゃあ住所と名前と電話番号の3つをそれぞれ分けて、一個一個“同意しますか?”と聞いたんですか?」と尋ねると、「連絡先を教えていいか?という聞き方をした」という趣旨の答えが返ってきました。少なくとも個別に同意は取っていないのではないかと、私は思っています。
 

――事件については今後、何か動きがあるのでしょうか?

東京都の公安委員会に対する苦情申出の制度があります。警察官の職務執行に問題が何かあった時に、この公安委員会に苦情申し出をすると、公安委員会が警視庁に指示をして、警視庁が所轄の警察署を調査します。でも結局、警察同士の内部調査なんですよね。その中で、どんな調査が尽くされるのか、処分をどうするかに今、注目をしています。
 

日本国内にも人権機関を

――同じような問題が繰り返されないために、どのような改革が必要なのでしょうか?

私がぜひ成し遂げていただきたいと思っているのが、人権機関を日本の国内にも作ることです。国連が定めている国際的な人権の基準がありますが、それをこの国で実行するためにどうすればいいのかを司る機関です。政府から独立していて、裁判所とも違った立場から差別の問題を素早く調査をして、勧告したりするものです。今でも、裁判でこうした問題を訴えている方いますが、年単位で時間かかってしまい、資金もかかります。簡易迅速な個々の差別問題の解消のためにも必要な機関ですし、第三者的な立場から、国際水準で人権保障を推進していくための提言や教育活動を行っていくことや、行政・立法に対して意見していくことも役割となってきます。


西山さんが担当した今回のケースは、たまたまその公園にいた30代の男性が、英語で仲裁に入ったことで、事の詳細が浮き彫りになったが、力の不均衡の中でこうした事件が起きることを考えると、同様のケースで泣き寝入りするしかない場合は多々あるのではないだろうか。この事件が適正に検証されることが不可欠なのはもちろんのこと、人権問題を正面からとらえての法や制度の根本的な変革が求められているのではないだろうか。

【プロフィール】
西山温子(にしやま・あつこ)
弁護士。日本在住の外国人を当事者とする案件を多く手掛ける。ムスリム母子不当聴取事件弁護団所属。誰もが自分らしく暮らせる社会を目指してSNS(Clubhouse/Twitter)を中心に活動中。

 

(2021.8.17 / インタビュー・写真 安田菜津紀)

 
 


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2021.8.17

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