「内閣改造」により、杉田水脈氏が総務政務官に起用されました。差別発言などを繰り返してきた人物を政権の要職に起用することは、こうした問題は考慮するに値しない、というメッセージを発することにもなり、さらにいえば、その差別やヘイトの矛先を向けられている人たちの命を「二の次」扱いするようなことでもあります。「杉田氏でなければならない」理由は何なのか。過去の発言を改めて振り返るため、2020年10月に「COMEMO」に寄稿した記事を転載します。
杉田水脈衆議院議員が2020年9月25日、自民党の部会の合同会議で、女性への性暴力などに関して「女性はいくらでもうそをつけますから」と発言し、相談事業へ警察が積極的に関与するよう主張していたことが報じられました。
この報道後、本人はブログや事務所を通し発言自体を否定していましたが、発言時に笑いが起きたというその場の具体的な様子が、TBSラジオ「Session-22」でも報じられました。
これまで取材などを通して出会ってきた、過去に性被害に遭った方々は、「自分に落ち度があったのでは」と自身を責めてしまったり、「本当なの?」と疑われて二次被害に見舞われたり、ということが、「助けて」という声を誰かに伝える前の分厚い壁になってしまったと自身の経験を語りました。
そして、警察に行っても十分に対応してもらえないどころか、無理解な言葉にさらに尊厳を傷つけられた、という声に私も度々触れてきました。捜査が進んだとしても、その時の状況を人形を使って、男性警官の前で再現させられることになるのでは、と躊躇してしまうかもしれません。
内閣府が行った2017年の調査によると、無理やり性交された被害者のうち、警察に連絡や相談した人はわずか3.7%だったといいます。
こうした問題が被害者の前に立ちはだかっている、という背景への無知を露呈しながら、女性の「嘘」への「監視」を強める必要があるかのような発言は、救済につながる間口を狭めるばかりでしょう。
9月30日、下村政務調査会長は、「発言の真意が正確に伝わるよう丁寧な説明を」と口頭で注意するに留めました。つまり、何ら具体的な措置も対策も示されない、これまでのパターンがまた繰り返されようとしているのです。
これに対して杉田氏は「女性の蔑視を意図した発言はしていない」としていました。当初は発言そのものがなかったと否定していたものの、なぜかこの時点で、「意図」の有無の問題に軸がずれたのです。
この日、杉田氏は「事実関係(発言があったのかどうか)の確認だけでも」と呼びかける記者たちには一切答えず、「今後、(真意を)ブログでしっかり書いていきたい」として、その場を立ち去ってしまいました。
そして今日10月1日、そのブログにて一転、自身の発言を認めました。
「女性はいくらでもうそをつく」発言が、「民間委託の拡充だけではなく、警察組織の女性の活用なども含めて暴力対策を行なっていく議論が必要」という趣旨だった、という結びつけは理解に苦しみます。
そして飽くまでも「ご指摘の発言で女性のみが嘘をつくかのような印象を与えご不快な思いをさせてしまった方にはお詫び申し上げます」など、受け手の印象の問題に留めようとする言葉が並びました。
さらに気がかりなのは、「ブログで書いていく」ことが説明責任を果たしたことになるのか、という点です。
杉田氏の“弁解ブログ”の中で、何が事実誤認で、何が問題なのか、小川たまかさんが丁寧に指摘しています。
付け加えるとすれば、杉田氏のブログの中の「被害者が民間の相談所に相談して『気が晴れました』で終わっては、根本的な解決にはなりません」という文章に、彼女がどれほど性被害を軽んじているかが表れているように思います。
私は10年以上前に自分が経験した性被害のフラッシュバックに今でも苦しむことがあります。信頼する一部の人にしか、それを話せていません。もちろん、相談することで気持ちが少し和らぐことはあります。ただ、少なくとも私にとって、相談さえすれば「気が晴れました」と終われるほど、簡単なことではありません。引いたと思えばふとした瞬間にまた押し寄せてくる、そんな感情の波は抗っても抑えようのないものでした。
約7年8ヵ月の安倍政権の中で繰り返し突きつけられたのは、常に権力は不都合を隠そうとする、ということでした。ブログは自己都合で一方的に書くことができ、答えたくない質問には一切答えなくて済むことになります。それは、国会議員としての最低限の役割さえ放棄していると言わざるをえません。
実は質問に答えず逃げる、という杉田氏の姿勢は、今に始まったことではありません。
2020年1月22日、玉木雄一郎氏が衆院代表質問で、夫婦別姓を選べず悩みを抱く声を紹介した際、「だったら結婚しなくていい」という「ヤジ」が飛びました。野党側は杉田氏の発言とみて、自民党に調査と謝罪を求めていました。これに対して杉田氏は、記者団の呼びかけには一切答えず、電話を耳に当てながら車に乗り込みその場を足早に去っていきました。
杉田氏も自民党も、こうしてこれまでの発言の深刻さをあやふやにしてきました。杉田氏は自民党の中国ブロックの比例単独1位で当選しています。彼女自身はもちろん、党が変わらない限り、杉田氏は議員であり続け、またこうした発言は繰り返されていくはずです。
『新潮45』に寄稿したような、人の命を「生産性」ではかることも、性被害の構造的な暴力を無視することも、根底ではつながっているでしょう。
こうしたことを「またこの人か」と放置すれば、問題は益々根深くなるばかりです。大切なのは、こうした杉田議員の発言を「またか」と受け流さず、投げ出さず、その都度、何が問題なのかを具体的にあぶり出し、党の側にも投げかけていくことではないでしょうか。
(2022年8月 / 文 安田菜津紀)
※本記事はCOMEMOの記事を一部加筆修正し、転載したものです。
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