今年も年の瀬が迫っている。年末年始は日雇いの仕事も乏しくなり、SOSの届け先の役所の窓口も、一部を除き閉じられてしまう。そのため年越し前後は、生活困窮者がとりわけ路上に追いやられるリスクが高い時期となる。
長引くコロナ禍の疲弊に物価の高騰も重なり、多くの人々が生活苦を抱える中、とりわけ制度上、脆弱な立場に置かれているのが、仮放免中の外国人だ。
“国に認められていない人間”
「仮放免」とは、在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認める措置を指す。収容そのものからは解放されるものの、労働は認められず、健康保険に加入することもできない状態だ。つまり、「生きる術」を奪われた状態で、入管施設から放り出されてしまうことになる。
取材を受けてくれたイラン出身の男性は、当局の迫害を逃れ、約16年前に来日した。難民申請をしているものの、日本が難民に開いている間口は極めて狭く、2021年の認定率はわずか0.7%に過ぎない。
男性は合わせて4年半にわたり、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されていた。その間、他の収容者と共に抗議のハンストを行い、弱った体で2週間のみ「解放」された後、再び収容される、ということが2度にわたって繰り返された。こうした措置そのものが「拷問」にあたると、入管問題に携わる弁護士らは指摘する。
2020年7月に仮放免となり、知人宅に身を寄せた後、「ハウジングファースト」を活動の軸に据えた「一般社団法人つくろい東京ファンド」のシェルターにつながることができた。
「自分たちは“国に認められていない人間”なんです。生活していく方法が何もなく、民間の支援団体を頼るしかありません。ただ、そうした団体とつながろうと思っても、もともと団体を知っている人を頼ることができたり、日本語で調べられる人でなければ難しいでしょう」
日本語が流暢なこの男性は、困窮する他の仮放免者を支援者につなげるなど、自らも積極的に活動に携わっている。同じ仮放免の立場にある人々からは、「せめて就労する権利が認められれば」という声を何度となく耳にしてきた。
中には命をつなぐため、密かに働く仮放免者もいるものの、極端な低賃金での労働を余儀なくされるなど、搾取の対象となることも少なくない。
「在留資格のない人は、収容施設の中でも外でも、人権を奪われた状態になります。施設の中では健康や自由を、外では人間としての権利や給料を奪われているんです」
日々届く「生きていけない」の声
つくろい東京ファンドの生活支援スタッフである大澤優真さんの元には、日々追い詰められた仮放免中の人々からのSOSが届く。
「仮放免の人たちの“生きていけない”にはふたつの意味があると思っています。ひとつは“身体的に”、です。働くことは営みとしての権利であって、それを奪うことは、社会的に生きていけないことを意味しています」
「もうひとつは“人として”、です。『自分はなんでいるんだろう』と投げかけられることもあります。先日もアジア圏出身で、子だくさんの女性の方から電話がありました。『どんなことが苦しいですか?』と尋ねると『心が苦しいんです』と……」
仮放免という状況そのものに理解のある人も周囲におらず、孤立、孤独に陥っていたその女性は、精神科の受診を希望していた。再収容や退去強制により、子どもたちと離れ離れになるかもしれないことにも怯えていたという。
別の50代前半のアフリカ出身の男性は、1カ月以上の路上生活を経ていた。難民認定も受けられず、家賃や電気・ガスなども支払えなくなり、友人たちに頼るのも限界だった。
「頭が真っ暗になって、『あきらめるしかない』と思ったそうで、首と手首を切って自殺未遂をしてしまったそうです。ドアから血が流れ出していることに隣人の方が気づいて緊急搬送されたものの、そこでかかった15万円が払えず、処置も不十分のまま“自主退院”してホームレス状態になったしまったといいます」
こうして「我慢」を強いられてきた人たちは、自らSOSを出すことが困難な場合もある。
「私の前では笑顔で『元気だ、大丈夫』と言ったりする方も、『精神科のクリニック一緒に行けますよ』『お金のことは何とかなります』とこちらから提示すると、『本当?実は行きたい』と、ようやく言ってくれたりします」
こうした立場にある人々に対して、「嫌なら帰ればいい」「自己責任だ」という言葉が投げつけられることも少なくない。ただ彼らは、日本で生きる困難を抱えながらも、国籍国へ「帰れない」事情をそれぞれに抱えている。
「例えば国に帰れば命の危険がある人たちです。難民認定率が非常に低いため、目の前で家族が無残に殺されたり、家を焼かれるなどといった経験した人も、認定されていません。また、日本に長く暮らしていて、生活基盤が日本にしかない人たちもいます」
「そして親が仮放免であることで、“連座制”のように、日本生まれ日本育ちの子どもたちでも、在留資格がない場合もあります」
決して帰れないわけではないものの、資金がなく、帰国後の生活基盤の目途も立たない人には、丁寧な帰国支援をする必要もあると大澤さんは語る。
「先日も私たち支援者が支援をして、アフリカ出身の男性が帰国することになりました。予定していた帰国フライトの日と、仮放免期間の最終日が同じ日だったのですが、航空会社の問題でフライトが翌日に延期になってしまいました。仮放免の期間を1日過ぎての帰国となるわけですが、『帰れ』といっていたはずの入管側が、『1日でも期間を過ぎるのなら、仮放免期間を更新しなければ帰国させない』と言ってきたのです。ルールに則らない人は絶対悪、自分たちの言うことを聞かない人は懲らしめる、というマインドなのだろうかと思ってしまいます」
つくろい東京ファンドは、「住まいは基本的な人権」という理念のもとに活動を続けている。
「安心安全な住まいがなければ何もはじまらないんですよね。家がゴールではありませんが、まず家を確保して、そこから心のケアをはじめ、何をしていくかが大切なのだと思います」
仮放免の人々に提供している8部屋は、常に埋まっている。家賃、光熱費、医療費などを合わせると、民間団体が一手に担うには限界がある。公営住宅の入居に国籍要件はないものの、仮放免となった人々が新たに入居するのは難しい。
「いくつかの自治体の公営住宅はウクライナから避難してきた人たちに対しては開放していますし、仮放免の人たちが入居しても法的には問題ないはずです。関係者に尋ねてみると、『入管から依頼があったら動く』というんです。入管の態度を考えると、現実的ではないですよね。仮放免の人たちは今、住民票を持てませんが、仮放免許可書には住所地が記載されています。“住人”なのであればやはり、公営住宅の入居は認めていくべきだと思います」
「りんじんハウス」づくり
この社会に生きるマイノリティが強いられてきた問題は、様々な「悲劇的な事件」が起きてようやく動くことがある。2021年3月、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管収容中に亡くなった。その報道をきっかけに、根本的な制度の改善にはいまだ至っていないものの、「ブラックボックス」の中に置かれがちだった入管内部の問題に、辛うじて世間の注目が集まった。ただ、人が亡くなってから変わるのでは遅い。
「このままでは、仮放免の当事者やお子さんが、命を絶ってしまうことも起きえてしまうかもしれません。でも、それをしないようにするためにどうするのか、それを起こさないためにどうするのか。共助を増やしていくことは大事ですが、公助の重要性もしっかり示さないと、倒れてしまいます」と、大澤さんは危機感を募らせる。
「排除ありきの論理」から「包摂の論理」へと、公助のあり方を根本的に見直していく必要があるだろう。ただ、まずは目の前で今にも倒れそうな人々の命を守らなければならない。
つくろい東京ファンドでは現在、ホームレス化してしまった難民や仮放免者が暮らすための「りんじんハウス」作りのためのクラウドファンディングを実施している。4世帯ほどが暮らすことができる住居を大幅に修繕し、家具などをそろえた上で無償で提供する予定だ。
開始からすでに、多くの支援が集まっている。
「例えばウクライナから避難してきた人たちに対して、『私たちも支援します』『うちに来てください』と、一般の人たちがたくさんの支援をしましたよね。『帰れ』といったヘイトは悪目立ちしますが、人なんだから助けて当然、ということを思っている人たちも多くいるんだということに勇気づけられたんです」
人として当たり前の支えを、という思いが、この「りんじんハウス」にも寄せられている。クラウドファンディングは2023年2月28日まで続けられる予定だ。
▶「りんじんハウス」についてはこちら
▶12/14 21時から放送のRadio Dialogueのゲストはつくろい東京ファンドの小林美穂子さんです。是非ご視聴ください。
(2022.12.14/写真・文 安田菜津紀)
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【オンラインイベント参加者募集】 人権と平和の現在地~2022年の事業/取材活動から~ ~D4P Report vol.4 年末活動報告会
12月に開催する年末活動報告会では、入管収容問題についての取材内容もお伝えしていきます。オンラインでの開催で、申込者には1カ月限定でアーカイブも公開します。みなさまふるってご参加ください。
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