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取材レポート

2018.10.2

【取材レポート】そこに生きる人々を想像すること(クルディスタン/2018.9)

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2018.10.2

取材レポート #人権 #戦争・紛争 #イラク #佐藤慧

「テロリスト」という言葉が僕の感情を揺さぶったのは2001年9月11日、アメリカ同時多発テロの報道を耳にした、高校生の時だった。「テロリスト」という悪魔が僕たちの平和な世界を壊しに来る…そんな報道であふれていた。しかし彼らは生まれた瞬間から「テロリスト」だったわけではない。いったい何が彼らをそのような行為に駆り立てたのか。ニュースの行間からは読み取れない彼らの姿に恐怖しながらも、実際にこの目で見て、対話をしたいという欲求を押さえることができなかった。時を経て、フォトジャーナリストという仕事の中で多くの人と出会ってきた。愛する人を失った人もいれば、殺人という罪を犯してしまった人もいる。何かを憎悪する人もいれば、人間愛を信じる人々にも多く出会ってきた。国境や宗教、人種、性別や貧富、自他の相対的な社会的地位など、様々な境界線が人間の価値観に大きく影響することをその多くの出会いから学んできた。時に人間という種の愚かさに絶望するときもあれば、人間の持つ可能性に限りない希望を感じることもあった。今回の取材もまた、そのようなことを根底から考えさせられる機会となった。そのうちのひとつが、下記の取材だった。


弾道ミサイルの直撃したIKDPの建物。

2018年9月8日、クルディスタン(イラク北部)に本拠地を置く政治団体、IKDP(イラン・クルド民主党)の本拠地が弾道ミサイルによって攻撃された。死者15名、負傷者47名という被害が同団体から公表されている(※1)。ミサイルは国境を越えてイランの国内から発射されたという。距離にして200kmを優に超える。このミサイル攻撃は何を意図したものなのか。実際に被害にあったIKDPの本拠地を訪ねた。砂塵の舞う中、復旧作業に追われる彼らの背後にある建物は粉々に破壊されていた。しかしそれは無差別な破壊ではなく、確実にある一室を狙ったものだった。その日IKDPの重要幹部らは会合を開いていたという。あと10分もすれば閉会という時、天井が怒号と共に崩れてきた。慌てて外に出る人々の頭上に2発目のミサイルが着弾した。計7発のミサイルは重要幹部の半数の命を奪い、多くの負傷者を出した。IKDPの広報担当官、アリ・ブダギ氏の話を伺った。「今回の攻撃には色々な意図があると推察されます。ひとつには、周辺諸国や欧米などの国々にイランのミサイルの性能を喧伝することです」(※2)。外交カードのひとつとしての武力の証明に、IKDPは利用されたのだ。他にもイラン国内の政治腐敗や経済危機などによる、国民のストレスや怒りの矛先を変えることも意図されているだろうと彼は話す。

IKDPはオスマン帝国崩壊後、列強によって分断され、抑圧されてきたクルド人の独立を求めて結成された組織だ。日本で耳にすることは稀だが、トルコ、シリア、イラク、イランなどに分断されたクルド人たちは、「虐殺」と呼んでも過言ではない凄惨な過去を経験してきた(※3)。時に武力による反抗も辞さない彼らは元から武装していたわけではない。対話の閉ざされた彼らには、ときに武器を持たざるを得ない現実があったのだ。

IKDPはイランからは目下「テロ組織」と見なされている(※4)。アリ氏は続ける。「なぜ我々がテロ組織であり、我々を虐殺、抑圧する大国がテロ組織と呼ばれないのでしょうか」と。「国というものが資源や政治思想を巡る外交関係の中で我々をテロ組織と呼ばざるを得ないことは理解しています。それでも、個々人のレベルではどうでしょうか。日本の人々は広島・長崎を経験してきました。戦争による虐殺がどれだけ悲痛なものなのか理解している人々ならば、我々クルド人がどれほどの苦しみを味わっているか、共感できるのではないでしょうか」。


IKDP広報担当官のアリ・ブダギ氏。

もちろん他者に対する加害行為は許されない。しかしテロリストと呼ばれる人々は、顔無き人々ではないのだ。理由なき殺戮に狂喜する悪魔ではない。僕らと同じ、隣人を愛することのできる「人間」だからこそ、時に大切なものの喪失やそれに伴う恐怖が憎悪へと変わるのではないだろうか。

「我々は武力による反撃を考えてはいません。平和的な対話の機会を求めています」とアリ氏は語る。それは海外から取材に来たジャーナリストへのリップサービスかもしれない。それでも、僕は彼の瞳の中に、同じ人間としての温かみを感じてならなかった。信じられないような蛮行を犯す組織も国も、欲望の膨張の果ての独裁や虐殺も、みな人間から生まれたものだ。それを僕らとは違う「他者」として切り捨てている限り、きっと戦争は無くならないだろう。大きなレッテルの影に隠れる個々人の存在を想像することが、他者理解への一助となることを願いながら、また次の出会いへと足を延ばす。

戦乱の最中、IDP(国内避難民)キャンプで暮らす少女。笑顔は万国共通の言語。

(※1)死者16人との報道もあるが、インタビュー時点(2018/9/15)では15人との証言。
(※2)イランは既に2000kmに及ぶ弾道ミサイルの発射能力を持っているとアリ氏は語る。
(※3)今回の取材ではその中でも「アンファール作戦」、「ハラブジャの悲劇」の被害者の証言を伺った。
(※4)2000年以降、平和路線を採択したIKDPではあるが、2016年には再度武装の必要性を発表。クルド自治政府国防省の元での戦闘や軍事訓練が報告されている。

 

(2018.9.18/写真・文 佐藤慧)

 


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2018.10.2

取材レポート #人権 #戦争・紛争 #イラク #佐藤慧