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取材レポート

2023.1.19

入管法はどう変えられようとしているのか?その問題点は?

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2023.1.19

取材レポート #人権 #収容問題 #法律(改正) #安田菜津紀

2021年2月19日、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、入管法政府案)が閣議決定されてから2年近くが経とうとしている。法案はその後、国会で審議入りしたものの、多くの反対の声もあがり、事実上の廃案となった。

そもそも、2021年の政府案は何が問題だったのか。入管にまつわる「よくある質問」と共に、ポイントを整理する。

2021年、入管法が審議入りした際、難民申請中の当事者をはじめ多くの人々が議員会館前で声をあげた。

Q.入管施設での「収容」とは何ですか?

例えば「仕事を失ってしまった」「生活に困難を抱えて学校に行けなくなった」「パートナーと離婚した」など、日常生活を送っていれば起こりえる様々な「変化」によって、日本国籍以外の人々は、日本に暮らすための在留資格を失ってしまうことがあります。

「収容」とは本来、在留資格を失うなどの理由で、退去強制令を受けた外国人が、国籍国に送還されるまでの「準備」として設けられた措置のはずでした。

人を施設に収容するということは、身体を拘束し、その自由を奪うことであり、より慎重な判断が求められるべき措置のはずです。ところが実態を見てみると、収容や解放の判断に司法の介在がなく、入管側の一存で、それも不透明な意思決定によって決められていきます。

茨城県牛久市にある東日本入国管理センター。

Q.「収容」が本来の建前とは違った形で用いられている?

2021年3月、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管での収容中に亡くなりました。入管庁の報告書では、ウィシュマさんの仮放免(収容を解く措置)を不許可にした理由として、《一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり》と記載していました。つまり、日本に留まることを諦めさせるための「手段」として、収容を用いていたことが綴られていたのです。

先述の通り、収容の本来の目的は送還されるまでの「準備」としての措置であって、拷問の道具として入管が恣意的に使うべきものではありません。

2022年11月にも、イタリア国籍の男性が東京入管で亡くなりました。これで2007年以降、18人が収容施設で亡くなっていることになります。うち6人は、この男性を含め自殺とみられています。

2021年5月、静岡県内のスリランカ寺院で営まれたプージャで掲げられたウィシュマさんの遺影。

Q.こうした状況が国際社会から批判を浴びている?

2020年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」が、入管のこうした実態を「自由権規約違反」と指摘しました。それ以前から、国連の「拷問禁止委員会」などの条約機関からも、度々勧告を受けてきていますが、国際社会からの声が正面から省みられていません。2022年11月にも、各国の人権状況を審査している「国連自由権規約委員会」が、入管収容体制の改善を求めています。

Q.他国ではどうなっているのでしょうか?

EU諸国では、身体拘束をするのであれば、期間制限を設けること、理由を示すこと、さらには身体拘束から一定期間後も、それが必要かどうかを、裁判所が判断することになっています。イギリスでは、収容後の保釈は裁判所(又は準司法的な審判所)が判断しており、判例法理によって収容期間に制限がかかっています。

Q.「送還が機能不全に陥っている」は本当?

退去強制令が出された人々のうち、殆どの人たちは(それが真の同意であったかに関わらず)送還に応じています。入管問題などに詳しい高橋済弁護士が、入管白書をもとに作成した資料によると、2010年から19年にかけて、97.3%の人々が送還に応じています。

高橋弁護士の資料を基に作成。

Q.「犯罪者」だから追い出されてしまうの?

実際に退去強制命令を受けた人たちのうち、過去に刑罰法令違反とされたことがあるのは2%ほどであるとされています。

高橋弁護士の資料を基に作成。

入管庁は送還を拒む3,224人(21年末時点)のうち35%にあたる1,133人に「前科」がある、としていますが、担当者に取材した際、《在留期限を経過してしまった「オーバーステイ」のみで有罪判決を受けた人々》も、「“一般論では”いるとは思う」としていました。ただその数字の詳細は、現時点では明らかにされていません。

Q.日本では労働目的など、本来の目的とは違った難民申請がほとんど?

日本における難民申請者については、いまだ「国籍別にみると世界の申請者とずれている」「偽装が多いのでは」という偏見が根強くあります。毎日新聞政治プレミアに寄稿した記事で難民支援協会の石川えりさんが指摘しているように、オーストラリアと比べると、申請者の多い国の上位10カ国のうち、5カ国(スリランカ、パキスタン、バングラデシュなど)は同じ出身国となっています。

日本では、トルコ出身のクルド人が難民認定されたケースは、昨年まではゼロでした。一方、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)による2019年の統計を参照すると、トルコ出身者の難民認定数はカナダが2,012人、イギリスが761人、米国で1,400人となっています。

※2022年8月に、トルコ国籍のクルド人男性が日本で初めて難民認定された。

また難民申請後2カ月以内に、申請者は、(A)難民の可能性が高い人 (B)明らかに該当しない人 (C)再申請を繰り返している人――などに振り分けられていきますが、入管が2020年の1年間で(B)としたケースは1.9%にすぎません。

Q.ウクライナから逃れてきた人をはじめ、戦争からの避難者は「難民」として守れない?

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のガイドラインなどでは、「武力紛争および暴力の発生する状況から避難した者」も「難民」として定義しうるとされています。つまり、難民条約は紛争から逃れた人にも適用されます。

ウクライナ首都キーウ郊外、イルピンで2022年5月撮影。

Q.2021年の入管法政府案では、どんなことが変えられようとしていたのでしょうか?

主に4つのポイントを見ていきたいと思います。

《法案のポイント①》 難民申請中の強制送還を可能にする

法案では、難民認定申請により送還停止の対象とされるのは原則2回までとし、以降はその難民申請者の強制送還が可能になってしまう仕組みとなっていました。つまり、何らかの事情を抱え3回以上難民申請をしている外国人が、迫害の恐れのある国に帰されてしまう可能性があるということです。

日本の難民認定の門は極めて狭く、2021年の難民認定者数は74人、難民認定率は0.7%と、1%を下回り続けてきました。つまり、複数回申請せざるをえない状況が作り出されています。

ちなみに2010年~21年の間に難民認定された377人のうち、その7%にあたる25人が複数回申請の末に認定されています。

《法案のポイント②》 国外退去命令に従わないと処罰の対象とする

在留資格を失ってもなお、「命の危険がある」「家族が日本にいる」「生活の基盤の全てが日本にある」など、帰れない事情を抱える人たちがいます。そうした人々が国外退去の命令に従わない(従えない)場合、保護したり、在留資格を付与したりするのではなく、1年間の懲役または20万円以下の罰金の対象とする項目が法案には盛り込まれていました。ただ、処罰の対象としたところで、「帰れない事情」が変わるわけではありません。

《法案のポイント③》 「仮放免制度」から「監理措置制度」に

「監理措置制度」は、民間人の「監理人」を入管が選定し、その「監理人」が、収容から解放された「被監理者」を監督し、住居などの支援をする制度です。長期収容の問題がこの制度で解決されるかのような声が一部で聞かれます。

では本当にこの「監理措置制度」で、「解放される人が増える」のでしょうか?

現行制度では、「仮放免」という形で収容を解く措置があります。新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの被収容者が「仮放免」となったことで、そもそも不必要な収容が続いていたことが浮き彫りになりました。

ところがこの「監理措置制度」では、「監理人」がいない限りは収容から解放されないことになります。その上この「監理措置制度」で解放されても、一部の人を除き、基本的に就労は許可されておらず、国民健康保険にも入れない状況は「仮放免」と変わりません。それでも生活をつなぐために労働したことが発覚した場合、3年以下の懲役の対象にもなっていました。

2021年の政府案では、「監理人」は「被監理者」の状況を届け出ることが定められていて、これを怠ると「監理人」に罰金が課されることになっていました。

新たに検討されている法案は、定期的な届け出義務をなくし、収容の必要性を3カ月ごとに見直すとしていますが、その決定も裁判所などではなく、入管の権限で行うことに変わりはありません。

東京出入国在留管理局前で。

《法案のポイント④》 「補完的保護」

法案で掲げられていた「補完的保護」とは、難民に準じて「迫害を受けるおそれ」のある外国人を 「補完的保護対象者」として在留を認めるものでした。一見「改善」のように見えますが、全国難民弁護団連絡会議によるシミュレーション(公開資料)では、現行制度よりも保護対象が狭まることが懸念されていました。

現行制度では、難民申請者が難民認定を受けられなかった場合でも、「在留特別許可(人道配慮による在留許可)」を得られることがあります。「補完的保護」よりも運用範囲はむしろ広く、戦争や差別などから逃げてきたこと、審査を受けている間に子どもが成長し、日本に定着してきたことなどが考慮される場合もありました。

一部で「ウクライナから逃れてくる人には補完的保護での対応が必要」という主張がありますが、そもそも日本では「迫害」の定義が極めて狭く解釈されてきたことに加え、入管法政府案の「補完的保護」には「紛争」や「無差別暴力」からの保護であることが明示されておらず、この「補完的保護」ではむしろ対応が難しいという見方もあります。

Q.本来あるべき法改正は? (保護、在留資格などについて)

・政府から独立し、人命を守ることを目的とした難民保護機関の設置
・難民認定基準、手続きを国際的な基準と同様のものとする
・在留資格の審査中でも生活できる制度設計

Q.本来あるべき法改正は? (入管収容について)

・収容期間に上限を設け、裁判所など司法の判断を介在させる
・不当な扱いを受けた際の不服申立審査や医療を受ける判断を入管から独立したものに

▶こちらの動画もご覧ください
『昨年の入管法改定案を考える――送還の危険性』【難民を理解するための15分】第5回 難民支援協会×Dialogue for People

(2023.1.19 / 写真・文 安田菜津紀)


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