4月21日、入管法政府案が審議中の法務委員会で、参考人質疑が行われた。
現在の入管法政府案は「収容・送還に関する専門部会」の提言を元にしているが、参考人として出席したのはその部会長を務めた安富潔氏と、元東京入管局長の福山宏氏、元法務省の滝澤三郎氏と、一橋大学大学院社会学研究科准教授の橋本直子氏だ。橋本氏以外の参考人は、この法案に賛成や「歓迎」の立場であり、そもそもの参考人の人選にも疑問が残る。
滝澤氏はかつてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ジュネーブ本部の「財務局長」を務めていた(その後駐日代表)。しかし財務自体は重要な役割であるものの、当時の専門は難民保護の実務に関わることではない。難民支援に関わる組織・団体に経歴があるだけで、「識者」として適任とは限らない。それが如実に表れる答弁となった。
国際基準は「曖昧」で守らなくてもいいもの?
滝澤氏は「難民は逃げる国を選ぶ」という。難民を受け入れないと国内外で報道されている遠い国(日本)に、高額な航空券を手にして来ることに疑問を呈していたが、資金を工面できるか否かは難民の要件ではない。
また、命の危険が目の前に迫る人は、「なるべく早く、遠くへ」逃れようとすることがある。そうした中で、たまたまビザがとれた国、たまたま仲介者が指定した馴染みのない国に逃れてくることは珍しいことではない。その文脈でいうなら、自身も言及していた2000人以上のウクライナからの避難者をなぜ「問題視」しないのだろうか。
滝澤氏は国連自由権規約委員会の勧告は「法的拘束力がない」とし、「国際基準は曖昧」「そういうものがあったとしても主要先進国がそれらを守っていない」などと答弁したが、「他国が守っていないから自国も無視していい」という姿勢が続くと、国際社会は崩壊するだろう。
続く橋本氏は「難民申請者は他国に逃れること自体が難しい。例えば紛争地などから遠いカナダは難民認定率が高い。また、どこの国から来たかというだけではなく、その個人が迫害を受けるかどうかが重要。平和的に見える国から逃れてくる人もいる」と、個別具体的な背景の複雑さに言及した。
以前取材した南アジア出身の男性は「日本は難民条約に加入しているから安心していた。こんなに認定に厳しいとは知らなかった」と語っていた。生命の危機を前にした人に、逃れる先のことを調べ尽くせということの方が非現実的だろう。
無辜の人の死刑を執行することに
難民認定のための第三者機関の設置について問われた橋本氏は、「速やかに設置の検討を始めるべき。人様の命を預かる営みであり、十分な専門知識のある人がフルタイムで携わるのが望ましい。一定の決定権限をもつ独立した審査・司法機関が一切ないのは、G7の中で日本だけ」と指摘した。また、訪日外国人が増えているにも関わらず、外国人の刑法犯は横ばい、もしくは微減という点に触れた上で、「難民などが増えると治安が悪くなる」というのは妄想に過ぎない、とした。そして最後に、「このままの法案では、無辜の人に死刑執行のボタンを押すことになる」と強く語っている。
また、《不認定となった方が訴訟を経て難民認定されることがある。つまり行政の判断が間違っていたということだが、どうすればこうした誤りをなくすことができるか》という趣旨の質問に対し、安富参考人は「裁判は時系列的に審査の後に行われる。それまでに新たな証拠などが見つかるという場合がある。行政が“間違った”わけではない」とした。
続く滝澤氏は「出身国情報の把握に弱さがある。たとえば入管庁の職員にはウガンダの農村で何が起こっているかなんてわからない。現地の大使館員もくまなく歩いているわけではない。また、言語の壁もある。ある方が帰国したときに迫害の可能性があるかどうか、それを客観的に判断するためのデータが弱い」ことが、そうした誤った判断に繋がっている可能性があることに触れたうえで、現状の「出身国情報担当官」の強化が必要とした。
これはつまり、「これまでの難民認定判断は情報の足りない不十分なものだった」ということでもある。今回の改定案では、3回以上難民申請を行った場合には原則、送還停止を認めず、国外退去命令などに従わない場合送還忌避罪などの罰を科すという点が盛り込まれているが、手を加えるべきはそこではないだろう。難民申請者ではなく、ブラックボックスの中で人権侵害を続ける現体制にこそ、切り込んでいくべきだ。
(2023.4.27 / 写真・文 安田菜津紀、佐藤慧)
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