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取材レポート

2023.5.8

国連に難民と認められた――それでも執行された強制送還

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2023.5.8

取材レポート #人権 #収容問題 #法律(改正) #安田菜津紀

2005年、「マンデート難民」(UNHCR・国連難民高等弁務官事務所の基準によって難民であると認められた人々)のクルド人の父子が、日本で収容された翌日に国籍国のトルコへと強制送還されてしまう事件が起きた。それから20年近くが経った今、第三国に受け入れられた家族は、ニュージーランドの市民権を取得していた。父のアハメット・カザンキランさんは、レストラン経営で多忙な日々を送っている。

2023年5月7日、私用で来日した父のアハメットさんが、当時を振り返り、インタビューに応じてくれた。

「法律を作るもの人間、壊すのも人間――」

そう語るアハメットさんは、日本で審議中の入管法についてどのように感じているのだろうか。

日本滞在中に取材に応じてくれたアハメットさん。

クルド人は「国を持たない最大の民族」として知られ、主にイラン、イラク、トルコ、シリアなどで暮らしている。少数民族として各地で迫害を受けてきたが、日本では、トルコ出身のクルド人が難民認定されたケースは、昨年までゼロだった。

一方、UNHCRによる2019年の統計を参照すると、トルコ出身者の難民認定数はカナダが2,012人、イギリスが761人、米国で1,400人となっている。

アハメットさんは、トルコでの生活に身の危険を感じ、1990年代に日本へと渡る。しかし来日後も、心安らかに日々を過ごせていたわけではない。入管は、把握されているだけでも過去に2度、「調査」という名目でトルコに職員を派遣し、「難民申請者の個人情報」をトルコ政府や警察と交換している。

当然のことだが、トルコ政府や警察は、「難民申請をしている側」の人々からすれば「迫害する側」である。その「迫害する側」に、日本で誰が、どのような理由で難民申請をしているかといった情報が筒抜けになることは、当事者にとって更なるリスクをもたらす。つまり、当初の迫害理由に加え、難民申請者の秘密を漏洩しながら行われる調査によって、ますます帰国できない状況に追い込まれるのだ。

アハメットさん一家も、その「調査」対象となっていた。別の家族に至っては、入管職員が地元憲兵と共に出身地を訪れたり、親族を訪問したりするなど、家族・親族に危険が及ぶ恐れのある「現地調査」すら行われていた。

その後アハメットさん一家はUNHCRにより「難民」として認められたものの、日本の法務省が彼らを保護する兆しは一向になかった。

「こうして法務省が無視し続けたのは、トルコと日本の政治的な結びつきによるものでしょう。人権よりも、経済的な利益を優先させたんです」と、アハメットさんの語気が強くなる。

仮放免での暮らしは厳しいものだった。「仮放免」とは、在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認める措置を指す。収容そのものからは解放されるものの、労働は認められず、健康保険に加入することもできない。

2004年夏、アハメットさん家族は、国連による日本政府への働きかけなどを求め、約2ヵ月に渡り、UNHCRの事務所がある国連大学前で寝泊まりしながら座り込みを行った。

座り込み中、プラカードを掲げるアハメットさん。(写真提供:周香織)

そんな彼らを、さらに過酷な事態が襲う。

2005年1月、仮放免更新のため入管に出頭したアハメットさんと長男(当時20歳)が、前触れもなく収容されたのだ。一家には退去強制令書が発布され、国外退去を命じられていたが、その取消訴訟を継続中だった。ところが入管職員は、それまでは更新され続けていた仮放免を、今回に限って「更新する理由がない」と支援者らに語ったという。

引き離された家族は翌日、支援者や弁護士らと共に会見を開くも、まさにその会見の最中に、2人を乗せた飛行機は離陸してしまった。

会見に臨んでいた家族や支援者ら。(写真提供:周香織)

当時を記録した映像には、錯乱し、泣き叫ぶ一家の姿があった。その時の記憶は今も鮮明だという。

「我々はどうして…同じ人間なのに、“本当の人間”になれないのでしょうか…?」

“人間扱い”をされなかった過去を振り返る度、アハメットさんは声を詰まらせる。

会見時、家族たちも泣きながら送還に抗議した。(写真提供:周香織)

アハメットさんが送還された翌日の新聞には、トルコ・ボスポラス海峡で初となる海底トンネル建設に、日本政府が総額約987億円の円借款を供与する方針を固めたと報じられていた。単独の政府の途上国援助(ODA)としては異例の巨額援助だったという。

その後一家はニュージーランドに受け入れられ、市民権を得ている。今年(2023年)のニュージーランドの総選挙でも、投票に出向いたという。

ニュージーランドでアハメットさんが開いたレストラン、オークランドの「Jaan」で。左がアハメットさん。(写真提供:周香織)

自分が日本にいる間に声をあげてきたことで、その後の事態が少しでもよくなっていれば――。アハメットさんはそう考えていたという。ところが日本では、危険から逃れてきた人や、国籍国に帰れない事情を抱える人々の命を、さらに脅かす「法改定」が推し進められようとしている。

審議が続いている入管法政府案は、人道上の問題が多々指摘をされているが、そのひとつが「送還停止効」に「例外」を設けることだ。

難民申請中は送還されない現行制度は、アハメットさんがトルコへと強制送還された後に導入された仕組みだ。それを「改定」し、審査で2度「不認定」となった申請者については、3度目の申請を行なっても、強制送還の対象にしようというのだ。日本の難民認定率は極めて低く、何度も申請を繰り返さなければならないのが現状であるにもかかわらず、だ。

トルコでは間もなく選挙がある。より民主的な政府になることをアハメットさんは期待しているが、日本の状況を考えると複雑な思いだった。

「(今回の選挙によって)『トルコは民主的な社会に変わった、もう危険もないし帰れるだろう』と、強制送還の理由にしかねません」

ミャンマーを例に挙げると、日本の入管は2011年のテインセイン政権以降を「民主化政権」とみなし、事実上ミャンマー出身者の保護を止め始める。2020年には、ミャンマー出身者の難民認定も、人道配慮による在留特別許可もゼロとなっている。しかしその「民主化」はうわべだけのものだったことが、2021年2月のクーデターで浮き彫りとなった。

ようやく昨年、たったひとりではあるがトルコ出身のクルド人男性が難民認定を受けたが、今後ミャンマーのように、保護とは真逆の方向に向かっていくのではないかと、アハメットさんの憂いは晴れない。

「いつか日本が大変な状況になったとき、日本の人々はどこに行けるというのでしょうか? 私はクルド人だけのために声をあげたのではありません。人種や民族関係なく、人道のために声をあげたのです。それが全てです。ほんの少ししか、状況は変わらないかもしれません。でも私は、100%の民主主義のために、闘う必要がありました」

5月7日の入管法改悪反対杉並デモ。

座り込みや、突然の強制送還は、アハメットさんの心身をずたずたにしたはずだ。それでも声をあげ続けたのは、巨大な力に歯止めをかける必要性を、身をもって知っていたからだ。

「国というのはそもそも、人権など考えないのです。NGOや人々が強く運動して、ようやく“人権を守る”と言わせることができるんです。どうか、この法案を止めるために行動してください」

過去から学ばない社会に、まともな未来は望めない。難民に対し固く門戸を閉ざし、その命を脅かしてきたことと向き合わないまま、審議を進めることはできないはずだ。

(2023.5.8 / 写真・文 安田菜津紀)

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