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2021.2.20

どうか私たちに、戦禍に怯えることのない休息を―大国に翻弄されるイラク北部クルド自治区からのメッセージ

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.2.20

Report #Sato #Others #Iraq

日本時間、2月16日早朝、イラク北部クルド自治区の首都アルビルで、ロケット弾によると見られる爆発が立て続けに起こったという連絡が入った。クルド自治区は、長年武装勢力いわゆる“イスラム国”を筆頭に様々な武装組織による攻撃に晒されてきたが、首都アルビルはそんな中でもたくましく発展を続け、比較的平穏な生活を維持してきた街だった。昨年初頭にも同じような爆撃があり、キナ臭いにおいが漂う中でコロナ禍となり、中々現地取材に赴けない中、D4Pの現地取材パートナー、バルザーン・サラム氏に当時の様子を報告してもらった。

   

2月15日、夜9時35分のことでした。友人から「アルビル(イラク北部、クルド自治区の首都で、私の住んでいる街です)でいったい何が起きているんだ?」という電話を受けました。その晩私は、それまでに3度の大きな爆発音を耳にしていました。そのうちのひとつは、私の家のすぐそばで起きた爆発のようでした。私はそのとき運転していたのですが、バックミラーには街中に立ち上る煙が映っていました。何が起きているのか、情報もまったくなく、家に着いた私はテレビをつけ、同時にSNSで詳細を求めました。しかし詳しい情報は何も得られませんでした。家の外に出ると「屋内に退避せよ!窓には近づくな!」という大きな音声が、拡声器から響き渡っていました。

数分後、あちこちの友人から次々と電話がかかってきました。そのうちのひとりは空港で働いていました。友人によると、爆発のひとつは空港内の貨物倉庫で起きたとのことで、空港内には煙が立ち込めているといいます。

その後得られた情報によると、14発のロケット弾がアルビル市内に着弾したようです。そのうちの2発が空港で爆発しました。クルディスタン地域政府(KRG)の保健省によると、3名が怪我を負ったとのことです(そのうちのひとりはアルビル市内の領事館の警備員でした)。

OIR―Operation Inherent Resolve(※)のスポークスマン、ウェイン・マロット氏の速報によると、有志連合軍の基地にもロケット弾が着弾、1人の米兵と、8人の市民職員が重軽傷を負い、1人の市民職員が亡くなったとのことです。

※Operation Inherent Resolve
過激派勢力いわゆる“イスラム国”に対抗する、アメリカ主導の有志連合軍による軍事作戦名。イラク・シリアでの軍事作戦の他に、リビアでの作戦にも関わっている。2019年8月末の時点でイラク・シリア合わせて34,573回の空爆を行っている。そのほとんどは米軍によるものだが、イギリス・フランス・トルコ・カナダ・オランダ・デンマーク・ベルギー・サウジアラビア・UAE・ヨルダンなども関わっている。

https://dod.defense.gov/OIR/

シリア北部ラッカ。ISに占拠されていた街の奪還作戦により、数多くの空爆が実施された。

その後「サラヤ・アウリヤ・アルダム」という武装組織が、クルド自治区の米軍基地を攻撃したという犯行声明を出しています。この武装組織は、発足したばかりの新しい集団というわけでもなく、かといって、ずっと古くから活動をしている勢力でもありません。2020年初頭に、イラン革命防衛隊の精鋭、コッズ部隊を率いてきたカセム・スレイマニ氏が米軍により殺害されたあと、イラクで活動を展開する反米武装組織がいくつか誕生しました。「サラヤ」はそのうちのひとつなのです。

これはクルド人の戦いではありませんし、イラクの戦争でもありません。アメリカとイランという、ふたつの大国が私たちの住んでいる地域を舞台に戦争を行なっているのです。アメリカはイランの要人をイラクで殺害しました。イランはイラク国内の米軍基地を攻撃しました。どちらの国も、私たちの土地を攻撃することでメッセージを伝え合っているのです。「いつでも攻撃できるぞ」と。こうした争いは今に始まったものではありませんし、いつまで経っても終わりが見えません。

2018年9月8日、イラク北部クルド自治区に本拠地を置く政治団体、IKDP(イラン・クルド民主党)の本拠地が、イラン国内から発射されたとみられる弾道ミサイルによって攻撃された。「今回の攻撃には色々な意図があると推察されます。ひとつには、周辺諸国や欧米などの国々に、イランのミサイルの性能を喧伝することです」と、IKDPの広報官アリ・ブダギ氏は当時述べていた。振り返ってみると、すでにその頃からいつ導火線に火がついてもおかしくない状況にあったと言える。

私たちクルド自治区の住人は、ISとの戦いという、とても恐ろしく強大な敵との戦闘を終えたばかりです。未だその残党は残っており、小競り合いが続いています。大国は私たちの地域の戦争が終わることを望んでいないのではないでしょうか。世界の他の国々の代わりに、私たちの土地が戦場となっているのです。イラン軍や様々な武装勢力が、私たちの街の平和を脅かしています。北からは、トルコ軍の侵攻に警戒しなければなりません。

記事を読んでくださるみなさんにお願いです。どうか私たちに、戦禍に怯えることのない休息をください。そして戦争を行う大国へ……どうか私たちの地域でこれ以上戦争を行わないでください。
 

普段は平穏な、数千年の歴史を持つアルビルの街。

(2021.2.20 / レポート Barzan Salam, 翻訳・写真 佐藤慧)

 


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