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2022.9.27

「あなたたちは自由。でも私たちは自由じゃない」―言葉を受け取った側の使命― / D4Pメディア発信者集中講座2022課題作品 加納茜

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2022.9.27

#media2022

2020年春、私は大学生になりました。しかし、コロナ禍で、上京も友人との交流もかなわず、孤独感を覚えていました。「社会とのつながりがない」。そう言って泣いていた私は何らかのコミュニティに入ろうと必死でした。その時、テレビで偶然知った「入管問題」。問題の解決に取り組む支援団体“BOND~外国人労働者・難民とともに歩む会~”に入りました。支援の対象としている人たちは、日本での在留を望みながら、在留資格を失った・持たない外国人。在留資格がないため「国外退去」を命じられつつも、どうしても帰れない事情があり、長期間、収容されている方もいます。

意図的に社会とのつながりを断絶されたところにいる彼ら。そうした方々との面会や発信活動を継続するなかで、一学生の私が感じたことを綴ります。
 


「あなたたちは自由。でも私たちは自由じゃない」

狭い面会室で被収容者がそう口に出した。その瞬間、目の前のアクリル板が“乗り越えられない壁”のように感じ、「学生の私に何ができるだろうか」と思い悩むようになった。

2022年8月22日、強烈な日差しが照り付ける暑い日だった。私は、茨城県牛久市にある東日本入国管理センター(通称:牛久入管)に足を踏み入れた。鬱蒼と茂る木々のなか、牛久入管は人目の付かない場所に追いやられているようだった。
 

東日本入国管理センターの門前(写真 安田菜津紀 https://d4p.world/news/8871/)

入管施設には、オーバーステイや難民不認定の処分などを受けた、在留資格のない外国人が収容されている。2021年12月現在、約250人が全国の収容施設で暮らしている。

難民、1980-90年代のバブル期に来日した外国人労働者、元技能実習生、日系人……。さまざまな人が収容されている。長期収容に耐えている人のほとんどが、帰れない事情を語る。そもそも帰れない人が生まれる背景は複数指摘されている。例えば、日本の難民認定率が1%未満であり、難民として保護されるべき人が多く漏れていること。労働力として搾取することを考えるあまり、生活者としての安定した在留の保障が抜け落ちていることなどである。

もちろん、被収容者からもこうした現状を変えてほしいという声があがっている。ただそれ以上に切実に変えてほしいとの声があがるのは、入管が“被収容者にとっても”ブラックボックスであることだ。一時的に収容が解かれる「仮放免1」の基準、収容期間の上限、職員が咎める行為の基準などは、誰にも伝えることはない。

それらは入管にとって教えるまでもない些細なことかもしれない。それでも、先の見えない収容が続いたり、日本語を話せない被収容者だけ、ことあるたびにいじめられたりするなかで、当事者の心身が食い殺されていく。

牛久入管には、脳梗塞で右半身が麻痺している被収容者がいる。収容が1年半にわたるなか、適切なリハビリが受けられていない。入管側は「(発症から6ヵ月の)回復期」を過ぎたため、リハビリの意味がないと判断している。これに対し、面会を重ねる学生が何度も入管に説明を要求している。しかし、牛久入管の担当者からは「一般論」と「黒塗りの文書」が返ってくる。

人間の尊い命が脅かされているという現実に対し、なぜ入管は向き合わないのか。ウィシュマさんの死亡事件2で多くの人が思ったことでもある。命の保障すらできない時点で、入管収容は許されてはならない。
 

入管法改悪反対デモ in 東京で掲げられたプラカード

仮放免中の子ども

収容施設の外であっても、県境の壁に阻まれている子どもたちがいる。

日本には、在留資格のない親のもとに生まれ育った子どもが約300人いる。親と同様に、子どもたちも生まれたときから在留資格がなく、仮放免の立場だ。働くことも、居住する都道府県の外に行くことも制限されている。まるで見えない檻のなかにいる。

「日本にいる資格がない」
「頑張っても無駄」
「(親の母国への)帰国以外の移動は控えてください」

そんな言葉を入管職員にかけられるたび、どんなに自尊心が踏み潰される思いがしただろうか。

2022年8月19日、日比谷公園の図書文化館において、仮放免の子どもたちが描いた絵画・作文が展示されるイベントが開催された。私も支援団体の学生として運営の一員に入った。30点近くの多彩な絵画が並んだ。美しかった。
 

仮放免の子どもたちが描く「家族の絆」~絵画・作文展~より 

作文には子どもたちの切なる叫びがダイレクトに表現されていた。なかでも、ペルー国籍の子どもが書いた作文を紹介したい。

“私の兄は、勉強することが好きで、大学進学の道を選びました。しかし、その大学はビザがないと入学許可がおりない為、兄は進学を諦めるしかありませんでした。
兄も私も周りの子と同じ、日本で産まれ、日本で育ちました。なのに、在留カードがないだけで、こんなにも人生が変わるのです”

在留カードがないだけ。それだけで眼前の風景は全く変わってくる。

このことに私はハッとさせられた。支援を始める前まで、私は在留資格について考えたことがなかった。当事者の存在すら目に映らず、見える景色の中だけで生活を送っていた。だが、入管問題を“知った”ことをきっかけに支援に携わり始めた私は、「在留資格がないから」と、未来も何もかも奪われている人たちがいることを、身をもって実感した。

在留カードが命の重みを決めるのではない、みな尊重されるべき同じ人間である。このことを当事者に、社会に、伝える活動をしていきたい。権力の大きい声に掻き消されないよう、地に足のついた発信を行いたい。当事者の立場に徹底して立って伝え続けたい。

傍観することも声をあげることも「自由」な私たちだからこそできる。過去の自分に、「乗り越えられない壁はない」とそう伝えたい。言葉を受け取った側の使命を、これからも考え続け、行動していきたい。
 

入管法改悪反対デモ in 東京の運営スタッフの後ろ姿 


1 仮放免(かりほうめん):被収容者について、請求により又は職権で、一時的に収容を停止し、一定の条件を付して、身柄の拘束を仮に解く制度。(出入国在留管理庁、「収容、面会・差入れ、仮放免」)
2 ウィシュマさんの死亡事件:2021年3月6日、名古屋出入国在留管理局に収容中のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(33)が死亡した事件。

 

「あなたたちは自由。でも私たちは自由じゃない」―言葉を受け取った側の使命―

    ▶︎形式:写真と文章
    ▶︎対象:若者
    ▶︎制作:加納茜


    こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2022の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。
     

 
 

2022.9.27

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