この講座を通して感じたこと / D4Pメディア発信者集中講座2023課題作品 井上美咲
date2023.10.5
categoryD4Pメディア発信者集中講座2023
今回の講座の中で特に印象に残っているのは、荻上チキさんが話されていたメディアの「議題設定効果」という言葉だ。議題設定効果とは、マスメディアなどが特定のテーマを重点的に報じることで、情報の受け手にとって「何が重要な議題なのか」を意図的に設定することを意味する。これは裏を返せば、マスメディアは「何が重要ではないか」を設定する力を持つということでもある。この言葉を聞いた時、私の頭に浮かんだのは同性婚やLGBT差別禁止法・理解増進法についてのニュースだった。
近年、ジェンダーに関する報道が増え、社会における性的マイノリティの人々への関心も高まっている。特に今年は、同性婚やLGBT法案に関する報道が多く、G7開催前には連日テレビや新聞、ネット上でこの話題が取り上げられた。この報道を見た人々は、同性婚やLGBT法案への賛否に関わらず、「性的マイノリティの権利」が今の日本社会で重要な議題なのだと認識しただろう。
私はこれらの報道を見ながら、性的マイノリティの権利への意識が高まることを嬉しく思う一方で、多くの報道で使用されていた「G7で唯一日本だけが・・・」「日本は先進国なのにも関わらず・・・」という文言に引っかかっていた。なぜなら、ニュースでこのような表現を見るたびに、私は自分の頭の中で
・G7などの先進国は性的マイノリティの権利も守られているはず
・逆に発展途上国は性的マイノリティに差別的だ
・性的マイノリティの権利が守られていないということは、その国は「遅れて」いるのだ
という意識が形成されていくのを感じたからだ。
しかし、現実は必ずしもそうではない。G7以外の国でも同性婚が実現しているし、G7の国でも性的少数者への差別はある。この数年の間にアメリカでは同性愛者であることを公言することが禁止される法律が作られ(※)、イギリスではトランスジェンダーへの差別が激化し、イタリアではLGBTQに対して抑圧的な政権が誕生した。このような情報は、「G7で唯一・・・」と報道する日本のニュースではあまり報じられていない。一方、先日ネパールの最高裁は同性婚を認めたが、これもあまり報道されていない。
(※)監修者注記
2022年1月に米フロリダ州にて、学校教育の現場で性的指向や性自認、LGBTQ+に関する議論を行うことを禁止する法案が可決。アイデンティティを取り締まり、多様な性の在り方を認めない法律に対し、差別・偏見を助長するものであるとして反対の声があがっている。アイオワ州、インディアナ州、アーカンソー州でも似たような法案が通過している。
テレビや新聞が報道を通して設定する「性的マイノリティの権利は大切だ」という議題の裏には、「G7は性的マイノリティに優しい」「日本は他国より先進的である」「発展途上国はジェンダーへの取り組みが遅れている」という潜在的なメッセージが含まれているかもしれない。
このような議題設定の問題は、ジェンダー関連の報道だけでなく、全ての報道に共通していることだ。この講座を通して、私は自分が普段から目にしているニュースが「何を伝えていないのか」にも注目する必要があると感じた。また、私は春から社会人として情報発信を行う仕事に就く予定だ。情報発信者として、自分が意図的に設定する「重要な議題」の裏で、「重要ではない議題」が設定されていくことの問題性にも向き合い続けたい。
この講座を通して感じたこと
この講座を受けて感じたこと、自分が普段様々なニュースを見ながらモヤモヤしていたことなどを書いた。
新聞やSNSでよく見かける「日本はG7で唯一…」という表現方法への違和感を伝えたかったため、文章で表した。
▶︎表現形式:文章
▶︎想定される受け手:メディア関係者、マスコミを目指す人
▶︎制作:井上美咲
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- こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2023の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。