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今必要とされる「人種差別撤廃法」―過激化し続けるヘイトスピーチ・ヘイトクライムに抗するために

外国人人権法連絡会発行「人種差別撤廃法モデル案ガイドブック」。(佐藤慧撮影)

外国人人権法連絡会による「人種差別撤廃法モデル案」発表の記者会見と「包括的差別撤廃法制定を求める議員連盟」勉強会が、2024年6月2日、衆議院議員会館にて行われた。

モデル案の全文は一般公開され次第こちらにURLを追記します。


必要不可欠な「人種差別撤廃法」

世界に広がる自国中心主義・排外主義や、社会に根深く巣くう差別意識、そしてアテンションエコノミーの高まりによる人種差別の「消費」といった現象は、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムとして、日本社会においても大きな課題のひとつとなっている。

そもそも日本は「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」を締結しているが、包括的な「人種差別撤廃政策」や「人種差別禁止法」が存在しない。また、「政府から独立した人権機関」の不在も長年の課題となっており、人権保障の責務において、国際社会と大きな隔たりがあるのが現状だ。

度重なるヘイトデモやヘイトスピーチなどに対し、被害当事者やNGOは、包括的な人種差別撤廃基本法の制定を強く求めてきた。結果2016年には「ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)」が成立し、ヘイトデモの抑制や、「不当な差別的言動」に対する裁判での活用、川崎市での「ヘイトスピーチ禁止条例(川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例)」の制定など、一定の効果をあげたが、人種差別全般を包括的に対象とするものではなく、その限界も指摘されてきた。



包括的な差別禁止と具体的な救済措置

モデル案では「人種差別撤廃条約を求める包括的差別の禁止」と、その実効性を担保するための「人種差別撤廃センター」の設置を提案している。また、国や地方公共団体に人種差別撤廃のための責務を課し「教育・調査研究・啓発活動」などを義務付けている。

特に重要なのは、差別を受けた被害者に対する具体的な救済措置を設けている点だ。そして、差別を助長する行為には「公表・警告・命令」といった措置を規定し、罰則を設けることで、差別の抑止効果を高めることを目指している。

議連の勉強会で講師を務める外国人人権法連絡会事務局長で弁護士の師岡康子さん。(佐藤慧撮影)



独立した人権機関「人種差別撤廃センター」

法律の実効性を担保する上で最も重要なのが、上述の、政府から独立した「人種差別撤廃センター」の設置となる。モデル案で提示されるセンターは、パリ原則が求める独立性を可能な限り備え(※)、差別の申立てを受け、調査・調停を行い、必要に応じて公表や命令を行う権限を持つことが想定されている。

(※)日本の憲法や行政組織の枠組みの中で最大限独立性を確保するため、内閣府の外局、3条委員会としての設置を提言している。

日本は国際社会の一員として、人権保障に関する国際基準を尊重し、それを国内法に反映させる責任を有している。過激化するヘイトスピーチ・ヘイトクライムや、一部の「公」による差別扇動、独立した人権機関の不在といった多くの問題を包括的・具体的に解決するための本モデル案は、人権を基軸とした社会を築いていくための土台として、喫緊に必要とされているだろう。



Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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