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告発と今 加害者の裁判「提訴取り下げ」報道を受けて

※この記事には、性被害に関する内容が含まれています。

12月26日、朝日新聞にて、広河隆一氏が文春に対して起こしていた裁判の和解が成立したことが報じられました。広河氏は提訴を取り下げ、一審判決は無効となりました。

私が広河氏から被害を受けたのは、フォトジャーナリストを夢見ていた大学生の時でした。

私はこの裁判の当事者ではありませんが、一審において、広河氏の主張が一部認められ、これまでなされてきたいくつもの当事者の告発自体が虚偽であるかのように誤認する声や、誤認させるような発信も目につき、危機感を抱きました。

そのため今年の2月、実名で被害を告発するに至りました。詳しくはこの記事に書いています。

誤ったメッセージとなる一審判決そのものが無効になったことには意味がありますが、この間、広河氏が訴訟の対象とした記事に声を届けていた被害者の方にかかった心身の負担は、計り知れないでしょう。

性暴力の「その後」を生きるにも、困難がつきまといます。私自身も今年の実名告発後に、トラウマ治療を始め、今に至っています。

広河氏個人の責任が重いことはもちろんのこと、私は性暴力の背景ともなるジェンダー不平等や差別といった構造の問題が解消されていくことを願い、声を届けてきました。

写真の世界が抱える問題についてはこの記事にも記しています。

この間、小さな変化がありました。写真賞が名取洋之助ら個人の名を冠したものから名称が変更され、かつて広河氏が審査員を務めていた賞を含め、審査する側のジェンダーバランスも変わりました。

(参照) 写真賞についてのお知らせ(日本写真家協会)

「写真界」という限られた業界のことではありますが、私はこれを「前進」ととらえています。

世界を一気に変える「特効薬」はないかもしれません。理不尽な力が働き、三歩進んだと思えば、二歩後退させられる悔しい局面に突き当たることもあるでしょう。それでも進んだ「一歩」を足がかりに、呼吸のしやすい社会を築けるよう、私も発信を続けます。

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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