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「経営・管理ビザ資本金3000万円」「通報報奨金」、強化される公的排外主義——児玉晃一弁護士インタビュー

日本に暮らす、日本国籍以外の人々に対し、生活し続ける「ハードル」が引き上げられている。「経営・管理ビザ」の要件となる資本金は2025年10月、500万円から3000万円と6倍になり、在留資格の更新手数料なども大幅な引き上げが検討されている。さらに茨城県では、「不法就労」(※1)の通報に対する報奨金制度が導入されようとしている。こうした公的排外主義の問題をどう考えるか。外国人の人権問題に長年関わってきた児玉晃一さんにインタビューした。

(※1)外国人人権法連絡会の声明にもあるように、国連は1975年の総会決議3449で、全公式文書において「非登録あるいは非正規移民労働者」という用語を使うよう求めている。

児玉晃一弁護士。(安田菜津紀撮影)



多様な文化を理由もなく摘み取る



――経営・管理ビザの要件が、資本金500万円から3000万円に引き上げられました。どのような影響が懸念されますか?

既存の在留資格を持つ人までが、更新時に3000万円という基準を求められるのは、いくらなんでも酷な話です。小規模な飲食店などは、まっとうにやろうとすれば全滅に近い状態になるのではないでしょうか。

「ペーパーカンパニー対策」という建前もあるようですが、悪意があれば一時的にお金を借りて残高証明を取り、登記だけ変えるだけで通り抜けられるため、何の対抗策にもなりません。そもそも法律が変わり(※2)、起業がしやすいように最低資本金制度をなくした経緯があります。「ペーパーカンパニー対策」(※3)なら、外国人も日本人も変わらずやればいいわけですが、外国人だけが資本金の条件を上げられています。

また、常勤職員の雇用や、本人もしくは常勤職員のどちらかが一定の日本語能力を有していることも条件となりましたが、小規模店などにはハードルが高いでしょう。

多様な食文化があることは自分にとっても嬉しいことですし、子どもたちがそうした場所で異文化に触れることが、彼らの未来につながる可能性もあります。それを理由もなく摘み取ってしまうことは、本当に意味がわかりません。

(※2)2006年の法改正により最低資本金制度が廃止され、株式会社などの設立時の資本金は最低1円と定められている。

(※3)「経営・管理ビザ」が「ペーパーカンパニー」などに濫用されたケースが実際に確認されたかについて法務省に問い合わせたものの、具体的な統計はないという回答だった。



――在留審査手数料を「欧米並み」に大幅に引き上げるという報道については、どうお考えですか? 現在の手数料の上限額は1万円ですが、在留資格更新、変更の場合は10万円、永住許可は30万円へ引き上げることが検討されています。

日本の給与水準が欧米並みに達していないのに、手数料だけを欧米並みに引き上げるのはおかしいと思います。現行の1万円から一気に30倍になるようなことがあれば暴挙です。例えば、運転免許の更新手数料は現在3,500円程度ですが、これがいきなり3万5,000円になったら「ふざけるな」と暴動が起きますよね。

とくに、難民認定申請中などで、半年ごとの短い更新が必要な「特定活動」ビザの人たちが更新する場合、子どもを含めて家族全員が同額を負担するため、非常に大きな経済的負担となります。これは実質的に「出て行ってほしい」というメッセージですよね。

一方では少子化で、120万人の労働力を海外から受け入れないと社会が回らないと言いながら、在留を続けるハードルを高くするのは完全に矛盾しています。結局行く末をまじめに考えていないように思います。今の日本にいる人たちを大事にしなければ、リスクを冒してまで日本に来る人は誰もいなくなってしまいます。



戦前の「隣組」のような社会になっていいのか

――茨城県では今、「不法就労」の通報報奨金制度(※4)が検討されています。どのような危機感をお持ちですか?

私は難民の事件も多く手がけていますが、彼らが逃れてきた独裁国家には、こうした制度が結構あるんですよね。「反政府活動をしている人を密告したら報奨金がもらえる」といった具合です。

報奨金や話題性を目当てに、インプレッション稼ぎの動画配信者などが殺到する事態が容易に想像できます。見た目だけで「不法就労」かどうかは絶対にわかりませんから、農家や工場だけでなく、コンビニや居酒屋などで、手当たり次第に声をかけるようなことが起きるでしょう。広く相互に監視し合う、戦前の「隣組」のような社会になっていいのでしょうか(※5)

2023年2月、都内で行われた「入管法改悪反対!仮放免者に在留資格を!2・23全国一斉アクション」で掲げられたプラカードの数々。(安田菜津紀撮影)

そもそも、出稼ぎに来て家族に仕送りをするために農地や工場で働くこと自体は、誰も傷つけていないわけで、力の入れどころがここでいいのか、疑問があります。

なおかつ摘発が強化されれば、外国人を雇っていた側が「不法就労助長罪」や「組織犯罪処罰法」に問われることになります。

実際に私が担当した刑事事件で、ある派遣会社の社長のケースがありました。コロナ禍で仕事がなくなった通訳の外国人を、人手不足に悩む大手食品工場の労働者として派遣したのです。外国人労働者も母国に仕送りでき、工場は助かり、消費者はその食品を食べられる――誰も困っていない状況でした。

しかし通訳などとして働ける「国際業務」のビザと、工場で働くためのビザは異なります。摘発の結果、社長は実名報道され、地域や家族との関係は壊れてしまいました。組織犯罪処罰法によって会社預金などを「犯罪収益」として差し押さえられ、倒産に追い込まれました。

茨城の農家などでもこれと全く同じことが起こりえます。担い手をただ排除し、雇用主まで犯罪者として潰してしまえば、結果的に地域の産業自体が完全に空洞化してしまうのではないでしょうか。

(※4)茨城県は「報奨金」に加えて「不法就労情報提供情報員」の導入を検討している。県に問い合わせたところ、「各市町村、業界団体等に協力を依頼の上、当該各市町村等から推薦を受けた職員の方等に対し、就任をお願いする方向で検討」との回答だった。「報奨金」「情報員」ともに、外国人個人ではなく「不法就労」を助長していると思料される事業者に関するものに限定することを想定しているというが、事業者に雇用されている「外国人」が疑いの目で見られる懸念は拭えない。

(※5)県に問い合わせたところ、抑止する具体策として、「インターネットの専用のシステムで情報提供者の住所、氏名及び連絡先を必ず明記してもらう」などを挙げているが、とりわけ顔や名前を出し活動する「インフルエンサー」らには抑止効果はないと思われる。



「共に生きる」ための土台作りを

――排斥や監視を強めるのではなく、どのような解決策が社会にとって望ましいのでしょうか?

排除一辺倒ではなく、「正規化(在留特別許可)」をして、普通に働いてもらうようにするのが一番賢明な方法です。ちょうどスペインで50万人を正規化した例(※6)がありました。

日本でも過去に実例があります。2004年の「不法滞在者5年半減計画」の際、実はそのうちの約5万人は在留特別許可によって正規化することで数を減らしています。その5万人が正規化されたことで犯罪率が上がったというデータは聞いたことがなく、成功例と言えます(※7)。

(※6)2026年1月、スペイン政府は国内に暮らす非正規滞在の移民や難民申請者、約50万人に対し、合法的な居住および就労許可を付与する特例的な正規化措置の実施を決めた。これには基本的人権の保護という側面に加え、深刻な労働力不足を補い、これまで非正規で働いていた人々を正式な労働市場・社会保障制度に組み込むことで、国の経済成長を支えてもらうという現実的な狙いもある。

(※7)この計画以降も日本に在住する外国人は増加している一方、むしろ外国人刑法犯の検挙数は減少傾向にある。


日本社会には包括的に差別を禁止する法も、政府から独立した人権機関も存在せず、外国人が生活する上で直面する困難や困りごとの公的な受け皿も乏しい状態だ。それにも関わらず、監視だけを強める不均衡な制度は、社会やコミュニティを歪めるだけではないか。「共に生きる」ための土台作りこそ急がれるべきことのはずだ。

2023年4月、国会前で開かれた「入管法の改悪に反対する大集会」で発言する児玉さん。(安田菜津紀撮影)

【プロフィール】
児玉晃一(こだま こういち)

1966年生まれ。早稲田大学卒業。1994年弁護士登録。1995年から入管収容問題、難民問題に取り組む。移民政策学会元共同代表、元事務局長。2014年からは”全件収容主義と闘う弁護士の会「ハマースミスの誓い」”代表。著書・論文に「難民判例集」(2004年/現代人文社)、「2023年改定入管法解説」(2024年/現代人文社)などがある。佐々涼子「ボーダー 移民と難民」(2022年/集英社インターナショナル)でその活動が取り上げられている。2009年〜マイルストーン総合法律事務所(渋谷区代々木上原所在)代表弁護士。

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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