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上がり続ける暮らしの「ハードル」―在留手続き手数料大幅値上げの入管法改定案

衆議院第二議員会館前に掲げられた「ヘイトにNO!入管法改悪反対国会前行動」のバナー。(安田菜津紀撮影)

入管法の「改悪」が続いている。2023年には「3回以上の難民申請者の強制送還」などを盛り込んだものが可決され、すでに施行されている。2024年には永住資格を不安定化させる法案も成立した。さらに石破政権下の昨年5月、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」が発表された。支援者らへの取材によると、進学が決まっていた子どもまでを含めた家族ごとの送還や、親だけを日本から追い出し家族を引き裂くケースもあったという。

そして現在、国会に提出されている入管法改定案では、外国人の在留資格変更、もしくは在留期間変更手数料の上限を、現行の1万円から10万円に、永住許可の手数料上限を1万円から30万円へと、大幅に引き上げることが盛り込まれている。

4月21日、衆議院法務委員会では参考人質疑が行われた。「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」理事で弁護士の鈴木雅子さんは、「ある特定の財やサービスの対価が、わずか1年で突然10倍になったり、20倍になったりすることは、安定した国家においては通常起きない」と指摘した。

在留諸申請手数料について、入管庁が在留資格付与という「恩恵」の「対価」であると説明していることにも疑問を呈した。財務省の資料「令和8年度予算のポイント」では、この手数料引き上げ分などを含めた増収分について、「予算全体の中で、(外国人政策ではない)他施策の財源確保にも寄与」と記されており、「外国人なら負担を増やしやすい」かのような「しわ寄せ」のあり方そのものが問われてくる。

また費用について「諸外国における同種の手数料の額を勘案して定めるもの」などとしている点についても鈴木さんは、「これまで諸外国の例として挙げられているのは、仕事を理由とする在留資格のみ。しかも、円安や日本との賃金や物価の差も考慮されていない」と、比較対象としての妥当性に疑義を呈した。

「生きていくために不可欠な在留資格を維持するための費用が、このように急激に引き上げられれば、当事者やその家族の生活に極めて深刻な影響を及ぼします。場合によっては、これまで日本で築いてきた生活を奪ったり、家族の分離を招いたり、迫害のおそれのある国に帰ることを事実上強いることになりかねない」

人道上の観点からの減免についても触れられてはいるものの、対象者がそもそも限定されている上、その後の具体的な選定は行政に委ねられており、範疇は不透明なままだ。

署名を集めている「ヘイトにNO! 全国キャンペーン」のチラシ。(安田菜津紀撮影)

同じく参考人として意見陳述をした難民支援協会、渉外チーム政策提言担当の生田志織さんは、日本の難民認定制度が非常に厳しく、「認定されるべき人が認定されていない」現状に触れ、申請者が手数料の引き上げの影響を受けやすいことを指摘した。

実際の手数料は政令で定められており、現在の在留資格変更、在留期間変更の手数料は6千円だ。難民申請者の大半が申請からの最初の8ヵ月で、在留資格変更または更新を4回行わなければならず、計2万4千円を支払うことになり、一家4人では9万6千円にのぼる現状を挙げた。ところが原則として、申請からのこの8ヵ月間は就労が認められないため、衣食住さえままならないという相談が寄せられるという。

その後は6ヵ月ごとに手数料を支払い在留資格を更新するが、そもそも認定のハードルは非常に高く、認定されたとしても、そこに至るまでに何年もの月日を要してしまうこともある。

なお委員会中、参政党の和田政宗議員は、経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」を引き合いに、「2040年に労働力の大きな不足は生じない」「日本人の労働力でほとんどを占めることができる」と主張したが、これは「2040年に十分な国内投資や産業構造転換が実現する場合」という条件付きのものであり、それが成功した場合において、「全体で」大きな不足は生じないという予測をしたものだ。

一方で同資料では、産業構造転換が実現した場合でも、職種・学歴・地域間での需給ミスマッチが生じるリスクも記されており、事務職(約440万人)、文系人材(約80万人)で余剰が、一方AI・ロボット等利活用人材(約340万人)を含む専門職や現場人材(約260万人)、理系人材(約120万人)で人手が不足する可能性を指摘するものであることは踏まえる必要があるだろう。

法務委員会が開催されている同時刻、衆議院第二議員会館前では、「ヘイトにNO!全国キャンペーン」の主催で「ヘイトにNO!入管法改悪反対国会前行動」が行われた。移住連共同代表理事の鳥井一平さんは、「この法案は、差別、ヘイトにあたる。ヘイトは社会を壊します。それをやめさせることこそが政府に求められている」と訴えた。

こうして日本で暮らすほど「ペナルティ」が課されていくかのように、生活の「ハードル」を上げ続けることは、結局、社会の中に蔓延する排外主義を助長することになるのではないか。公正な社会を目指すのであれば、脆弱な立場にある人々の実情を踏まえた「改正」こそが必要だろう。

衆議院第二議員会館前でマイクを握る鳥井一平さん。(安田菜津紀撮影)

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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