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第5回:沖縄からすこし離れて考えたこと―構造的な無関心と格差、脱SNS・脱AI、有害な男性性―ローレンス吉孝の「あぎじゃびよ〜通信」

コンクリートの隙間から生えた植物が、赤い花を咲かせている
道端に咲く花(田口ローレンス吉孝撮影/2026年)

関心領域

沖縄から引越しをして5ヶ月が過ぎた。
東京に暮らして思うことの一つは、「ここでは沖縄の情報がなかなか届かない」ということだ。
個々人の興味の有無に関わらず、東京で暮らしている限り沖縄にはあまり関心が向かなくなるメディアや社会の構造が存在している。(東京で関心が向かないのは他の地方に関しても同様かもしれない)

沖縄に暮らしているときは常に基地の存在と隣り合わせだった。
戦争に使用する戦闘機が頭上を飛び交う。
路上で沖縄の女性が米兵に性的暴行されたニュースが報道される。
コンビニに置かれた新聞にはマンホールから溢れたPFASの写真が見える。

しかし、東京に暮らしていると沖縄の情報がなかなか入ってこない。
大型台風の報道も東京ではほとんどが「他人事」のように映っているだろう。

自分たちの空には戦闘機が飛んでいない。
自分たちの身内が襲われたわけじゃない。
自分たちの飲み水は心配いらない。

自分たちの…、自分たちの…

かつて自分たちのものにしたはずのものに、関心が向かない。

じわりじわりと長い時間をかけて侵食する日本国内の植民地化と軍事化に対し、
多くの人々は関心が向かないように、水路づけられている。

多くの人は沖縄のことを知らない。多くの人は沖縄に関心が向いていない。
東京に暮らして5ヶ月目。
やがて、私自身にも情報が届かなくなる。
やるせない怒りと悲しみが込み上げる。

曇った空の下に広がる沖縄の海と、海岸に置かれた白と緑と黄色に塗られたベンチ。
沖縄の海(田口ローレンス吉孝撮影/2025年)

構造的な格差

東京に来てから、野菜や果物などスーパーの食材が沖縄よりも幾分安いことに驚いた。
同じ系列のスーパーでも数十円、下手すれば数百円は沖縄の方が値段が高い。

1人あたり県民所得のデータによれば、東京都は約576万円で全国最高であるのに対し、全国最低は沖縄県の約226万円で、その差は約2.5倍にものぼっている1。最低賃金(令和7年)でも、東京が1,226円なのに比べ、沖縄は1,023円だ。

私は昨年の今頃は、生活費を稼ぐため、沖縄アリーナや、ひやごんスタジアムなどで、サッカーやバスケットの試合会場の案内や駐車場案内の派遣アルバイトをしていた。

ジリジリと皮膚が焼ける暑い暑い日差しの中で長時間立ち続け、スタジアムに入る人々や、駐車スペースを探す車を案内した。

この仕事の時給はちょうど1,000円だった。

一度、地元のスーパーで売っているパックのいちご(大体10個ぐらい入っていただろうか…)で一番安いものが1,400円だったのを見かけた。

りんごは一個298円だった。

買えなかった。

食べ物が買えなかった。

自己責任で語る経済格差は本当にクソ喰らえだと思った。
経済格差は資本主義と植民地主義の構造によるものだ。

しかし、これらの問題に、どれだけの人が関心を寄せているだろうか、と、
東京で日々暮らしている中で度々疑問がよぎる。

なぜ、自分たちのものなのに、関心が向かないのだろうか…

脱SNS

メンタルの不調が続く中、3月頃からスマートフォンのSNSアプリを思い切って削除してみた。情報収集や発信に使っていたXやインスタグラムやFacebookのアカウントは残っているが、とにかくスマホ上から消して、見るときはパソコンから見るだけにしたのだ。

仕事にも影響が出るから大変かなと思ったけど、自分のメンタルの状態はSNSに耐えることができなかった。

消してみたら存外大丈夫だった。

大丈夫、ちゃんと生活できた。

ソーシャルメディアのアルゴリズムは、私たちをいかに長く画面に食いつかせるか、という点に非常に特化している。

早く、大量に、繰り広げられる無数の無意味な動画や画像を見ながら、知らず知らずのうちに2、3時間と経過してしまう経験が何度もあった。

資本主義によって増殖したこれらの技術は、企業の利益を最大化するために人々を縛り付ける。

その縛りつけに、私のメンタルは耐えられないほどまでになっていた。

そのかわり、ジャーナリングや読書を少しずつ始めている。

そもそも、早く、大量に、何かをすることが本当に必要なのだろうか2

少なくとも今は、遅く、少しの何かをする中で、自分の時間を取り戻している。

木製の壁に取り付けられた裸電球に、灯りがついている
部屋のランプ(田口ローレンス吉孝撮影/2026年)

トキシックなマスキュリニティと解毒

自分で言うのもなんだが、子どもの頃は感受性が豊かな方だったと自分では感じていた。
私はいろいろな物事に対して興味があり、想像力をもって考え、感情も豊かに動いていたと思う。本をひらけば、自分がまるでその物語の世界の中に入ったような、そういう体験を子どもの頃に多くしてきた。

それが、だんだんと変わっていったと感じるようになったのは中学生ぐらいからだった。

たとえ頭の中でとても豊かに感じていたとしても、それを周囲や他人に表現することが次第に難しくなってきた。

「男なんだから涙を流すな」「感情を表に出すな」

男性身体として生きる中でかけられたこれらの無数の言葉たちは、トキシック(有害、有毒)なマスキュリニティ(男性性、男らしさ)として自分の中に徐々に沈殿し内面化されていった。

感情をうまく表現することができなくなった。
しかし、内側に積み重なる感情は放っておいて消えてしまうわけではない。
放置した感情が傷跡となり長い間自分を蝕んでいたことに気づいたのはつい最近のことだ。

コンクリートで固められた小さな川。川端に茂る樹木の緑が川の上にせり出している。
東京の川(田口ローレンス吉孝撮影/2026年)

現在わたしは、東海大学国際学部にて「ジェンダー論入門」という授業を担当している。
ここでは、ジェンダー理論の概要、フェミニズムの歴史、LGBTQIA+、包括的性教育、日本におけるジェンダー格差(家事・育児・仕事)などを扱っている。
その中でここ最近扱っているテーマが「マスキュリニティ」だ。

「マスキュリニティ」に関する授業では、以下の内容を学生に伝えた。

・「マスキュリニティ」は一枚岩ではなく、「マスキュリニティズ(複数の男性性、複数の男らしさ)」(Connell 1995)であること。つまり男性性は一つではなく、いくつかのパターンや異なる傾向があるという点。

・その中でも「トキシック・マスキュリニティ」というものがある。
例えば以下のような傾向である。

…「男は泣くな、感情を表に出すな」 
→他者に助けを求めることを妨げてしまう

… 女性やセクシャルマイノリティへの過小評価や蔑視や差別
→性差別や暴力につながる

… 劣等感の植え付け
→男性に対しても劣等感が植え付けられそれが自らを蝕む

・そしてトキシック・マスキュリニティによって構成させる男同士の絆や内輪を「ホモソーシャル」という。

・ホモソーシャルの事例として

… 中学や高校の男子学生集団で、クラスの女性生徒たちの外見や体の部位に対しランキングや点数付けを行う等、女性を性的モノ化する行為やミソジニー(女性蔑視)

…「おまえホモかよ」といった揶揄や嫌がらせをする

→セクシュアルマイノリティに対するホモフォビア(同性愛嫌悪)
→ミソジニーとホモフォビア、女性性にたいする敵意と憎悪がホモソーシャルを構成している。

特にこのトキシック・マスキュリニティやホモソーシャルに関する授業内容3では、さまざまな学生の反応が見られた。授業に対するコメントシートでは、特に、男性身体として生きる上で、私がかけられてきたもの(「ホモかよ」といったホモフォビア的発言)と同じような声がけや態度を、周囲の大人たち(家族や先生やバイトの上司)や自分の周りの友達たちがしているのを目の当たりにしたという経験が書かれた。また、女性嫌悪や同性愛嫌悪を軸としたホモソーシャルを目の当たりにしたという体験談もいくつも書かれていた。学生の中には、実際に中学や高校の時にランキング付けの被害を受けたという経験もいくつか書かれていた。

これらのトキシックなマスキュリニティは、女性や性的マイノリティを標的にするだけでなく、男性自身にとっても有害だ。

そうであるならば、このトキシック・マスキュリニティに注意を向ける(ケアをする、意識する)ことが必要だ。

授業では以下の動画を流した。自分自身のトキシック・マスキュリニティと向き合う男性が自身の経験を語っている。

“How I unlearned dangerous lessons about masculinity(男性性に関する危険な教訓を私はどのように学び直したか)”, Eldra Jackson(The TED Talks channel)
※YouTubeの字幕設定から日本語字幕を表示できます。

この中で男性は、ピア・グループの助けを得ながら、自分自身の過去の経験と、内面化されたトキシックなマスキュリニティと向き合っていく。

「強くあるべきだ」という社会のプレッシャーは大きいが、動画の中で男性は、「”弱さ”とは健康的で円熟した男性の一部である」と語っている。
この男性の経験を見ていくと、トキシックなマスキュリニティはその人の個性などの問題ではなく、社会構造の問題、つまり社会の中で刷り込まれ内面化されていくものだとわかる。

こういったことはジェンダー理論を学ぶ中で自分自身もわかっていたはずだった。
しかし、自分自身がメンタルヘルスを崩す中で、
自分の感情や意見を周囲に伝えることができていなかったこと。
そして、それらの要因がトキシック・マスキュリニティにあることに今更ながらに向き合っている。

悲しみや苦しみや心の傷は、放っておいて良くなるわけではない。
「男だから我慢すればそのうち消える」なんてこともない。

白いコンクリート壁の前に咲く紫色の花々
道端に咲く花(田口ローレンス吉孝撮影/2026年)

私自身は自分のジェンダーアイデンティティを、バイ・ジェンダーと認識している。これは、自分のジェンダーアイデンティティが女性性と男性性の双方から成り立っていると感じているからだ。
しかし長らく私自身は、「バイ・ジェンダー」としてではなく、どちらかというと「ジェンダーレス」のように振る舞ってきた。
自分自身のフェミニニティは周囲には受け入れられないものだとわかっていたから隠してきたし、同時にマスキュリニティも向き合わないようにしてきた。
長い間私は、自分自身のフェミニニティとマスキュリニティを嫌悪してきたと思う。
つまり、自分自身を長い間、嫌悪してきたということだ。

今はようやく、自分自身のフェミニニティを少しずつ表現できるようになってきた。
そして同時に、自分自身のマスキュリニティにも向き合うようになってきた。

自分のマスキュリニティの中に染みついたどろどろの部分が存在する。
その毒が周りの人を傷つけ、自分自身も傷つけている。

バイ・ジェンダーである自分自身と向き合っていきたい。
そして、自分自身の毒をケアできるようになりたい。

草むらの前の道端に寝そべる白と黒のブチ猫
東京で会った猫(田口ローレンス吉孝撮影/2026年)

(2026.6.11 / 執筆・写真 田口ローレンス吉孝)

参考文献:
Connell, R.W. (1995). Masculinities. Berkeley: University of California Press.

  1. Queria「東京と沖縄で2.5倍差ーー1人あたり県民所得でみる地域経済の格差」(https://queria.io/showcase/pref-income-gap、2026年6月2日閲覧) ↩︎
  2. 現在私はさらに、「脱AI」に取り組んでいる。軍事目的で作られ、白人至上主義を内包するAIは、現在社会に大きな問題をもたらしている。戦争と虐殺に使用されているのはもちろんのこと、環境破壊、グローバルサウスの搾取、格差の拡大、教育の破壊、ディープフェイクなどのような深刻な性被害などを「生成」し続けている。しかし、日本では生成AIに対する危機感はあまり聞かれず、「いかに活用するか」という話ばかりが盛り上がっている印象があり、その状況が本当に怖い。何も考えずに「良いもの」として疑わない、その背景には日本の教育の本質的な問題(同化と道徳が規範とされる)も関係しているだろう。AI活用推進派でもなく、より良い使用を提案する「AI倫理」派でもなく、私はAIを拒否するという選択肢を取りたい。現在の流れがますます加速するなかで、誰もが一度立ち止まって考えてほしいテーマである。 ↩︎
  3. 授業内では「ハイブリッド・マスキュリニティ」(Bridges&Pascoe 2014=2024)についても扱った。ハイブリッド・マスキュリニティとは、多様性やマイノリティ性など多様な要素や価値観を取り込みつつも、家父長制や男性特権を手放さないような現代的なマスキュリニティのあり方。一見、多様性に対して寛容な態度に見えても、結果としては抑圧構造を温存させてしまう点が批判されている。 【参考】「ハイブリッドな男性性――男たちと複数の男性性に関する社会学の新しい方向性」(トリスタン・ブリッジス、C・J・パスコー/下地ローレンス吉孝 訳 平山亮 監訳)『男性学基本論文集』勁草書房、2024年。 ↩︎

Writerこの記事を書いたのは
Writer
社会学者田口ローレンス吉孝Taguchi Lawrence Yoshitaka

専門は社会学・国際社会学。著書『「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社、2018年)、『「ハーフ」ってなんだろう? あなたと考えたいイメージと現実』(平凡社、2021年)。「ハーフ」や海外ルーツの人々の情報共有サイト「HAFU TALK」を共同運営。

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