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「私という人間がここに存在している」——ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバルに集う人々の声

※本記事では被害の実態を伝えるため、差別的な集会の様子を写した写真を一部使用したり、差別の問題を記した箇所があります。
※自殺、性暴力に関する内容が含まれます。
韓国のソウル市、チョンガク駅付近は、週末になると様々なイベントや集会が開かれるエリアだが、この日はレインボーカラーのキーホルダーやカバンを身に着けたり、顔にペイントをした人々が、イベントブースやステージを目指していた。
この日6月13日で27回目の開催となった「ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバル」。30度を越える快晴のもと、LGBTQ+の尊厳を掲げるイベントに数万人が集まった。スローガンは《交差点:違いをつながりに》だ。
一帯には午前中から、当事者団体や市民団体など約70のブースが並び、ゲート付近では、参加者が列をなして記念写真を楽しんでいた。午後には色とりどりのフロートが街中に繰り出すパレードが始まり、「婚姻平等の法制化」や「ヘイトスピーチの根絶」などのプラカードを掲げた人々が、道を埋めつくした。

イベントが開かれたナンデムン路で。(安田菜津紀撮影)
「公」による不許可と、市民の掲げる旗
2024年12月3日夜、韓国の尹錫悦大統領(当時)が突如宣布した「非常戒厳」後、同氏の弾劾を求め、市民たちは連日デモや座り込みを続け、その際に多様で個性豊かな旗が持ち寄られた。《デモに行くために週末ゲームができなくなった人集まれ》といったスローガンが書かれたものや、《三毛猫を家族に迎えた》ことをアピールするものまで、デザインは多岐に渡った。「尹に反対するデモはみな、韓国の敵対勢力に動員されている」といった陰謀論を跳ね返すように、バラエティに富んだ旗は、「私は誰からも指図されることなく自分で選んでここに来た」という市民の意思を示していた。
そうした「文化」が継承されているのか、本パレードでも、軽快な音楽や太鼓のリズムに合わせ、長い竿の先に掲げられた旗が勢いよく揺れていた。
《ホグワーツ(『ハリー・ポッター』に出てくる魔法学校)から入学案内が来ない魔法連盟》など、思い思いのキャッチフレーズが青空に浮かぶ。旗の持ち手に話を聞けていないが、トランスジェンダーに対する差別言動を繰り返す『ハリー・ポッター』作者へのカウンターのようにも読める。
しかし本イベントは「ソウル広場」を使用することを3年連続で「不許可」とされている。6月3日に行われた選挙で再選を果たした保守系政党「国民の力」の呉世勲(オ・セフン)ソウル市長は、2023年6月の市議会では「個人的に同性愛に賛成できない、反対する」と発言し、クィア・フェスティバルについても「(イベントは)過度だと思う」「参加するつもりはない」と述べている。

イベントブースの入口近い交差点で同性婚などを否定する「デモ」をしていた集団。(安田菜津紀撮影)
同日、「同性婚反対」を掲げるキリスト教保守系団体が、パレード沿道付近にステージを設け、性的少数者の存在そのものを否定するような差別的主張を大音量で流したほか、プロテスタントの保守系団体「聖なる防波堤」は、会場から数百メートルの場所で「男女の結婚、健康な韓国」集会を開き、「クィア・フェスティバル反対」「差別禁止法絶対反対」などを掲げていた。
こうした宗教右派は政治にも影響力を持つとされ、韓国は日本同様、同性婚の実現にも、包括的差別禁止法の制定にも至っていない。

「聖なる防波堤」集会では、「男女の結婚、健康な韓国」といったプラカードやイスラエル旗が掲げられていた。(安田菜津紀撮影)
クリスチャンであり、レズビアンである「私」
「どうしても差別的な人たちの声が大きく、彼らがキリスト教を代表しているかのように思われがちです。けれどここでは、彼らの声だけが教会の全てではないということを、強く示したいと思っています」
そう語るのは「Q&A(Queer Question for Korean Church)」アクティビストのソ・ダウンさんだ。同団体設立のきっかけは2019年8月、イ・ドンファン牧師が仁川クィア・カルチャー・フェスティバルで性的少数者を公に祝福したとして、韓国メソジスト教会から2年間の聖職停止処分を受けたことだった。
「韓国ではプロテスタントが最も同性愛に反対する集団として知られています。私たちはその教会の内部から、差別的状況を変えていこうと活動している団体です。私のように『クリスチャンであり、レズビアンである』という人間がここに存在しているのだということを、姿を見せ、アピールしていきたいと考えています」

ブースに立つソさん。(安田菜津紀撮影)
ソさんが掲げていたプラカードには、《HOMOSEXUAL IS GOD》と記されている。
「キリスト教保守派の人たちは、よく『ホモセクシュアリティは“SIN(罪)”だ』と言って私たちを非難します。一方で、韓国語には“神”を意味する“シン(신)”という言葉があります。英語の“SIN(罪)”と韓国語の“神(シン)”の響きが同じであることを利用して、『同性愛者は神(シン)である』という風に、言葉をかけ合わせ、少しユーモラスなメッセージにしています」

ブースで配られていたステッカーやポストカード。(安田菜津紀撮影)
男女二元論の社会構造を越えて
法的な問題は、同性婚が実現していないことだけに留まらない。
「韓国では住民登録番号の頭の数字(※男性は1または3、女性は2または4)で性別が識別される仕組みになっています。その番号を変更するために法的な決定書が必要になりますが、裁判官の裁量に委ねられているのです」
トランスジェンダーの人権擁護団体「チョガッポ(Jogakbo)」のジュヌさんが指摘するように、韓国では、裁判所内で共有される判断の「基準」はあるものの、トランスジェンダーの性別変更手続きそのものを定めた法律はない。
同団体は、トランスジェンダー当事者が、二分法的な社会(※男女二元論の社会構造)の中で消し去られることなく、「持続可能な生」を保つことができるよう活動を続ける。
「日本でも差別が激しいと聞きますが、その一方で自らがトランスジェンダーであることをカミングアウトした上で立候補し、公職(地方議員)に当選した事例がいくつか存在していると聞いています。しかし現在の韓国においては、(当選という形で)政治的可視化された事例は存在しないのが実態です」
団体ブースの机に置かれたキャンバスには、優しいタッチのイラストが描かれていた。
「例えばクラゲは、海の中に浮かぶ生き物ですよね。これは既存の社会の枠組みの中で浮遊せざるをえない私たちの人生を象徴しつつも、同時に“何ものにも縛られない自由な姿”を意味しています。蝶は、幼虫からサナギ、そして成虫へと姿を変えますよね。自らの性別を移行していく“トランスジェンダーの象徴”として描かれています」
白紙部分には参加者が思い思いのイラストを描き、そのイラストにまた次の参加者が何かを描き加える、という試みがなされていた。
「こうして“バラバラだった感情や存在が繋がっていく”というプロセスをみなで共有する――そんなアートイベントとして行っています」

Jogakboのブースに置かれたキャンバス。(安田菜津紀撮影)
日常の差別や排除が戦争に
イベントには、性的少数者の当事者団体以外のブースも連なっていた。平和運動団体「戦争のない世界」のアクティビスト、キム・ミニョンさんは、今年2026年に「良心的兵役拒否」を宣言した。
「韓国社会は徴兵制があり、軍隊に“行かなければならない”という選択肢しかありません。ですが私は、軍隊に“行くのか”、それとも“行かないのか”を、自分で“選択”したいと考えました。そして、現在も世界中で戦争が繰り広げられている状況の中で、『自分にできることは何かないだろうか』と悩んだ末、“兵役拒否”という選択肢を知りました」
「運動の中で語られている言葉のひとつに、『戦争が起きたとき、もしも誰ひとりとして戦場に向かわなかったらどうなるか、想像してみてほしい』というものがあります。そうなれば、戦争という行為自体が成立しえませんよね」
その「戦争」は、ある日突然何もないところから突発的に起こるものではない、とキムさんは指摘する。
「日常の中に潜む、絶え間ない差別や排除が幾重にも積み重なり、その暴力の極限形態として現れるものこそが『戦争』なのです。それはクィアに対する抑圧の構造とも地続きで、平和運動と決して切り離せるものではありません。『クィアの解放』が実現するときにこそ、真の『平和』もまた訪れるのだと確信しています」
さらに、現在の軍隊という組織自体が、性的少数者に対して極めて排他的である現実をキムさんは語る。過去、家族関係登録簿上の性別を男性から女性に変更したピョン・ヒスさんが、女性兵士としての服務を希望していたものの、軍側がそれを認めず、強制退役を決定したことがあった。ピョンさんは2021年、命を絶ったとされる。23歳だった。
「彼女のような方々を含め、軍隊という組織そのものが、クィア当事者に対して凄惨な差別と排除を働いているというリアルな問題が、私たちの運動と根底で深く結びついています」

取材に応じてくれたキムさん。プラカードには「戦争よりも愛を選ぶ」と書かれている。(安田菜津紀撮影)
植民地支配と家父長制の弊害
本イベントでは、様々なクィアを象徴する旗と共に、パレスチナ旗を掲げる人々の姿もあった。社会運動団体「プラットフォームC」メンバーで、「パレスチナと連帯する韓国市民社会緊急行動」実務チームのキム・ジヘさんは、イスラエルが「LGBTQ+フレンドリー」を掲げ、国家としての加害性を覆い隠す「ピンクウォッシュ」の問題を提起する。
「“LGBTQ+フレンドリー”というスローガン自体が矛盾していると思います。パレスチナの中にもクィアが確かに存在しているにもかかわらず、イスラエルはそうした人々も含め抑圧し、殺害し、拷問しています。刑務所に閉じ込めた人々に性暴力を振るうケースもあり、それがイスラエルによる抑圧を覆い隠すための、ひとつの道具として利用されているのだと感じます」

BDS(ボイコット、投資撤収、制裁)運動 やパレスチナ旗もパレードで揺れていた。(安田菜津紀撮影)
最後に、保険設計士、ペク・スンドクさんの言葉を紹介したい。ペクさんは、法的な婚姻関係を結ぶことができないマイノリティの相続などに関する相談を受けながら、国家に対して「制度そのものの改善(法制化)」を求める活動を続けている。ペクさんはこう指摘する。
「韓国の家族制度を紐解くと、どうしても植民地時代(日本の家父長制的な戸籍制度の流入)からの連続性という側面が色濃く残っています」
2007年末まで続いた韓国の戸籍制度の起源は、日本の植民地下で導入された日本式戸籍法にある(現在は「家族関係登録法」が施行されている)。家父長制の弊害や社会に蔓延る差別の背景には、宗教・文化的、政治的要因が絡み合い、すべてを日本の加害の歴史に帰すことはできないかもしれない。しかしこのパレードや、性的少数者を取り巻く韓国の現状を日本から眼差す上で、植民地支配の歴史と現在が不可分であるという視点も必要なのではないだろうか。
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フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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