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椅子を「奪い合う」のではなく、増やせばいい──同性婚訴訟、最高裁審理を前に語る思い

ミニトークの様子。左から西川麻実さん、藤岡奈穂子さん、高橋藍さん。(安田菜津紀撮影)

同性婚を認めていない民法や戸籍法の規定が憲法違反だとして、同性カップルらが国を訴えた6件の裁判をめぐり、最高裁大法廷での審理が予定されている。

婚姻の平等を実現するために設立された「公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」が主催となり、同性婚実現を望む全国の当事者が、互いのパートナーや家族に宛てた手紙などを展示した「『大切なあなた』へのお手紙展」が7月15日、16日に参議院議員会館で行われた。15日のミニトークでは、訴訟原告の一人、西川麻実さんが聞き手となり、ゲストの藤岡奈穂子さん、高橋藍さんが登壇した。

藤岡さんは女子ボクシングのプロ世界チャンピオンとして、5階級制覇という実績を重ね、国際ボクシングの殿堂入りを果たしている。2025年5月、初代シュートボクシング日本女子フライ級チャンピオンの高橋藍さんと、都内でウェディングパーティーを開催した。二人は原告ではないが、訴訟への思いや、今の生活から感じていることを語った。



格闘技が結んだ出会い

──二人の出会いのきっかけは?

高橋 最初のきっかけは格闘技でした。共通の支援者の方が、藤岡さんを連れて私の試合を見に来てくれたんです。当時から藤岡さんの名前は知っていましたし、「一緒に練習させてください」と間髪入れずに頼み込みました。小柄なのに想像を絶する強さで、「この人から強さをすべて吸収してやろう」と必死に練習を共にしました。当時は恋愛感情など全くありませんでしたが、選手として、そして人としての素晴らしい人柄を知るうちに、自然とパートナーという関係へ至りました。

──お互いの魅力について教えてください。

藤岡 藍は見ての通り強いですが、何よりめちゃくちゃ明るいんです。自分はどちらかと言えば職人気質なタイプなのですが、彼女は常にポジティブ。外にアンテナを広げて世界へ飛び出していく彼女に、私の世界も大きく広げてもらいました。

高橋 藤岡さんの好きなところは、中身が本当に誠実なところです。自分でやると決めたことは何があってもやり抜く。そばで見ていて、「世界のトップに立つ人」のエネルギーの凄まじさをいつも実感しています。

藤岡奈穂子さん。(安田菜津紀撮影)



「後ろめたさ」からの解放と、父親へのカミングアウト

──お二人は2022年にカリフォルニア州で結婚され、2025年には日本で温かいウェディングパーティーを開かれました。周囲へ関係を明かしていくプロセスは?

藤岡 主に私の側に葛藤がありました。地元である宮城県の田舎はとても保守的で、「結婚して農家を継ぐのが当たり前」という環境だったため、周囲には全く言えませんでした。プロになってからも、ボクシングを純粋に見てもらいたかったので、現役中は性的マイノリティである事実を公表しないと決めていたんです。

2022年にアメリカで結婚したのは、当時現地へ合宿に行っていた際、知人から「住んでいなくてもパスポートがあれば結婚できる」と教えてもらったからです。当時は試合のためのビザ取得やアメリカ移住を視野に入れていたため、家族として手続きをした方が良いという現実的な理由もあり、急遽裁判所で挙式しました。

引退後、藍は「みんなを呼んでパーティーをやりたい」と言ってくれました。堂々と生きていいんだと私に見せたかったのだと思います。しかし、親に伝えていないことが心の足枷になっていました。そこで意を決して親友たちに同席してもらい、田舎の父親へ「実は二人でずっと一緒に住んでいる」とカミングアウトしたんです。

関係が壊れるかもしれないと本当に怖かったのですが、父は「そうなんだ、おめでとう。あいちゃんなら安心だね」とあっさり受け入れてくれました。それどころか「お前がずっと一人で生きていくことの方が心配だった」と言ってくれたんです。パーティー当日は、黄色いものを身に着けてきてくれるよう参加者の方々にお願いをしていたのですが、父も黄色いネクタイを嬉しそうにつけて出席してくれました。

高橋 今の明るい姿からは想像できないかもしれませんが、最初に出会った頃の藤岡さんは、自分の性的指向や性別で本当に悩んでいました。私は同性のパートナーは彼女が初めてでしたが、「世界チャンピオンでベルトを何本も持っている人が、なぜそんなに後ろめたそうに生きているの?」と率直に思いました。すぐにカミングアウトしなくてもいいから、とにかく堂々と生きてほしいと、ずっと伝え続けてきました。

ふたりの紹介展示。アメリカでの挙式の様子(左)と、日本でのパーティーの様子。(安田菜津紀撮影)



セーフスポーツを学び、広げる

──現在のお二人の暮らしや、一緒に取り組まれている活動について教えてください。

藤岡 現在は二人で同じ大学院の科に進み、スポーツマネジメントを学んでいます。私の研究テーマは「セーフスポーツ」です。スポーツ界におけるハラスメントや暴力、虐待から競技者を守るための研究です。

この研究を始めた理由は、今日のテーマにも深く関係しています。体罰やいじめ、虐待の被害に遭いやすいのは、子どもや女性、障害者といった社会的マイノリティであり、そこにはLGBTQ当事者も含まれると知ったからです。

私は辛いときにスポーツに救われ、自分らしくいられる居場所を見つけました。もしその場所がいじめや虐待で奪われてしまったら、当事者たちの行き場がなくなってしまう。特にまだまだ男性社会であるボクシング界で、女子ボクサーの居場所を守るために、自分にできることをしたいと考えています。

高橋 私たち二人は格闘技から多くの恩恵を受けてきたので、それを形にするプロジェクトを模索しています。先日はギャンブル依存症の親を持つ子どもたちの居場所へ呼ばれ、一緒にボクシングをしてきました。最初は警戒していた子どもたちが、ボクシングを通じて見る見るうちに真剣で良い表情に変わっていくんです。スポーツが持つ力を、もっと良い形で社会に広げていきたいですね。

高橋藍さん。(安田菜津紀撮影)



椅子を「奪い合う」のではなく増やせばいい

──最後に、国政に携わる方々や社会へのメッセージをお願いします。

藤岡 日本で同性婚がなかなか進まない現状がありますが、「私たちが結婚できるようになって困る人は誰なのか」を考えていただきたいです。全員に同性婚を強制するわけではなく、選択肢という枠が一つ増えるだけです。

世の中を「権力の椅子取りゲーム」のように捉えるのではなく、「もう一脚、椅子を増やせばいいじゃないか」と思うのです。私たちの結婚への願いは、単なる恋愛感情の延長ではなく、病気や将来の保障など、下手をすれば命に直結する切実な問題です。早急な法制化を心から望んでいます。

高橋 同性婚は人権や権利の問題であると同時に、とてもシンプルな願いでもあります。一緒にいたい二人が生涯を共にする中で、病院での付き添いやお金のことなど、現実的な課題は必ず出てきます。その時に、私たちの人生を法的に形作ってくれる選択肢として、結婚制度を使わせてほしい。

私は当事者になって初めて、「これは本当に困る」という法的な壁に直面し、驚きました。全員が当事者ではないからこそ想像しにくい部分もあるかと思いますが、どうかこうした当事者の声に耳を傾け、一歩ずつ法制化を実現してほしいと切に願っています。

「『大切なあなた』へのお手紙展」には多くのメッセージが寄せられていた。(安田菜津紀撮影)

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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