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エンターテイメントができる「橋渡し」とは―脚本家・吉田恵里香さん、川崎・桜本「ふれあい館」で講演

NHK連続テレビ小説『虎に翼』放送から2年。本作は女性として初めて弁護士となり、日本の敗戦後は判事、裁判所長としても、女性の法曹界での道を切り拓いてきたひとり、三淵嘉子をモデルとしている。2027年1月には映画も公開予定だ。
脚本を手がけた吉田恵里香さんが10月10日、神奈川県川崎市・桜本の多文化共生施設「ふれあい館」の人権尊重学級で講演した。
物語の第一話は、伊藤沙莉さん演じる猪爪寅子が、新聞に掲載されていた新憲法に出会い、涙するシーンから始まる。条文の中でフォーカスされるのが、第14条第1項「すべて国民は、法の下に平等であって、(中略)差別されない」だ。
「憲法第14条って、残念ながら歴史において人類が到達したことがないことが書かれていると思っています。様々なことで差別、迫害が繰り返されますが、それでも憲法の中に14条があるという意味を考えてほしいし、私も考えたい。存在しないものとして扱われている人や事柄に、作品の中でなるべくスポットライトを当てていきたいと考えていました」
作中、女性差別のみならず、民族やルーツ、セクシュアリティ、障害など、様々なマイノリティ性を有する当事者が描かれる。スピンオフドラマ『山田轟法律事務所』では、部落差別に直面した相談者が、寅子の友人である山田よねの元を訪ねてくる。
「物語って、削ぎ落としていけばいくほど美しいと言われていて、セリフや扱う人も少なく、“行間”があることがよいとされています。でもこの作品では、ぎゅうぎゅうに詰め込もうと思っていました。荒々しくても、今私たちの社会にある問題をなるべく描こう、と。そういうことをエンターテイメントでやろうとすると、良くも悪くも『作品のテーマと関係があるの?』って言われてしまうんですが、『虎に翼』に関しては、『人権を扱っている作品だから』と言えました」
寅子が学ぶ明律大学女子部法科には、植民地支配下の朝鮮にルーツのある崔香淑(チェ・ヒャンスク)がいた。出版社に勤めていた香淑の兄はやがて、特別高等警察につけ狙われるようになる。取り調べを受けた香淑も、「朝鮮人で思想犯の疑いがある兄を持つ君を、(高等試験に)受からせるやつがどこにいる」と言い放たれる。
「(香淑を)ただ登場させるのではなく、誠実に描こうと心がけていました。とはいえ様々な歴史の負の部分や加害の問題に、当時の寅子がどれだけ気づけるのか、すごく難しいところでした。自分は踏みつけられてはいるけれど、誰かを踏みつけている、何かを搾取している、という感覚は一切ないんですよ。それでも段々と彼女(香淑)が背負っているものに、寅子が視聴者と一緒に気がついていき、視野が開けていくことを大事にしたいと思っていました」
寅子は日本初の女性弁護士3人のうちの1人となるが、ほかの2人は結婚や妊娠を理由に仕事を辞めていく。「結婚しなければ半人前、結婚すれば、弁護士の仕事も、家のことも満点を求められる」——仲間の一人はそんな苦しみを寅子に吐露した。
当時は育休、産休制度など整っていない時代だ。やがて寅子自身も妊娠するが、自分が辞めれば女性弁護士はいなくなってしまう。そして、寅子が法の道に進むきっかけとなった法学者、小林薫さん演じる穂高重親が、追い打ちをかける。「仕事なんかしている場合じゃないだろう」「結婚した以上、第一の務めは子を産み、よき母になること」。そして当時の職場であった法律事務所で、寅子の意思に反して、妊娠の事実を伝えてしまう。
「弁護士の仕事に戻れる保証もない中で、のぼりつめるまでの道は険しかったけれど、辞める時は「どうぞどうぞ」と言われる。自分が大事にされていない、必要とされていないというシーンを描きましたが、『穂高先生は何も悪いこと言ってない』『赤ちゃんと体を守ることは大事なことじゃないですか』という視聴者の声もありました。でも、彼女の人生を誰かが勝手に決めてしまうことは違いますよね」
その後、穂高の退官時に、寅子は花束を渡すことを拒む。なあなあにして許してしまうことへの抵抗だったが、「恩師に花束を渡さないなんて」と多くのネガティブな「反響」が視聴者から寄せられたという。
「私は恩師のことを尊敬したり大事に思ったりする気持ちと、許せないという気持ちは両立するものだと思っていますし、逆に『こいつ大っ嫌い』っていう人に対して、『この部分だけは本当に尊敬できる』も成り立つと思っています。いろんなグラデーションがある中で、恩師だから、恋人だから、パートナーだから、親だから許す、ということをやりたくないと思ってきました」
講演の質疑応答でよく寄せられるのが、「差別していないつもりだけど、どうしたら差別しないでいられますか」といった質問だという。
「そういう時、『私は差別していない、偏見を持っていない、誰も傷つけていない、常に中立でいます』みたいな人が一番ヤバいんですよ、という話をします。私も含めてあらゆる人が何かしらの偏見を抱えていて、誰かを踏みつけているんだという前提に立たないと、問題には気づけませんし、社会に関心が持てません」
エンターテイメントは社会を変える「即効性」があるわけではない。一方、社会の問題を描くことで、関心や知識が「ゼロ」だった人が、「0.1」になる、何かのテーマへの橋渡しができたらと考えているという。
「人間って疲れていたり、余裕がなかったり、しんどい時こそ、思考を省エネモードにして、カテゴリーの“箱”を大きくしてしまうんじゃないかなと思っています。『男はこれ』『女はこれ』『このルーツの人はこれ』と箱がでかくて雑になると、そこからこぼれ落ちることが増えて、偏見や差別が生まれると思うんです。だから、その箱の中にたくさんの“フォルダ”を作っていくしかないと思っています」
先日、学生時代の友人に会った際、「ドラマ見てたよ。でも移民とかは反対なんだよね」と言われたという吉田さん。
「『移民が嫌ってどういう意味で言ってる?』と聞くと、基本的に知識がなくて、漠然とした恐怖なんですよね。知識がないことは恥ずかしいことではないですが、知ろうともしないで怖がるのは怠慢だし暴力ですよね。“なぜ差別をしちゃいけないのか”から始めなくてはいけないのは悲しいですが、その人が「0.1」になってくれることが大事だと思っています」
社会に向かって「はて?」と声を上げることは時に、多大なエネルギーを要することだ。「それが無理だったら、まず差別的な発言が出た時に『愛想笑いするのをやめよう』と学生さんには話しています。笑わないってことが大事なんだよ、と」
心が折れないように、時にはベンチに休憩しに行って、と柔らかく会場に声をかけながら、吉田さんは講演を締めくくった。
映画『劇場版 虎に翼』は2027年1月15日から公開予定だ。

神奈川県川崎市・桜本の多文化共生施設「ふれあい館」。(安田菜津紀撮影)
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フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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