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イベント情報

2019.11.29

【イベントレポート】Dialogue for People設立記念シンポジウム『世界を「伝える」、未来を「考える」』

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2019.11.29

イベント情報 #伝える仕事

11月10日(日)、弊会の設立記念シンポジウム『世界を「伝える」、未来を「考える」』を、聖心女子大学ブリット記念ホールにて開催いたしました。当日は300名近くの来場者の皆様とともに、現在の社会における「伝える」ことの可能性、そして「対話」を通して実現させていきたい未来について考える時間となりました。
 

「情報の価値」を見つめ直し、伝え届ける

会の冒頭では、弊会代表理事の佐藤慧が団体設立の背景と目指していきたい活動のあり方についてお話させていただきました。

「世の中のニュースは、いわゆる”ホットニュース”として注目を集める瞬間がありますが、それが過ぎ去ってしまうと、出来事自体は続いているにも関わらず、僕たちの生活とは全く関係がないようにメディアから消え去ってしまいます。しかし、これらは本当に価値のない情報なのでしょうか?新聞の一面に出てこない、テレビで取り扱いづらい事柄の中にも、僕たちが学ぶべき、後世に伝えるべきことは必ずあるはずです。Dialogue for Peopleの目指す活動は、そうした事柄を、具体的な誰かの身に起こった経験として持ち帰り、単なる情報ではなく『共有財産』として伝え届けること、そして今日のような場を通じて考えるきっかけを創り出していくことです」。(佐藤)
 

立場の異なる人たちと、どのように「対話」できるか

続くパネルディスカッションでは、弊会理事4名(当時)が登壇し、弊会副代表理事の安田菜津紀がモデレーターを務め、「伝える」役割としての普段の活動の紹介と、その中で考え、感じていることについてお話いたしました。

「『伝える』という行為は対話の延長線上にあると思います」。

こう語るのは、写真家で映画監督の石川梵。現在自身2作目となる長編映画「くじらびと」の制作に取り組んでいます。

「対話しようとした時に、言葉は先入観があると届かない場合があります。そうした時に写真は突き抜ける力を持っています。感性に訴えかけることができる。映像、さらに映画となればそこに丹念にストーリーを載せて届けることができます。例えば、今回の映画のモチーフが『くじらを獲る人々(捕鯨)』なのですが、正面からでは議論が加熱してしまい、理解から遠のいてしまいがちです。現地に行って、彼らの生活の中に飛び込んでみると、どんなに苦労して鯨を獲っているか、生活の中でどれだけ鯨を大事に思っているか、文化・信仰のなかで根ざしているかを知るんですね。写真や映像を通して、時間をかけて理解を持って伝えていくことは、『対話の入り口づくり』と言えるのかもしれません」。(石川)

法学者としてだけではなく、メディアへの出演やワールドカップの開催で話題になった日本ラグビーフットボール協会理事も務める谷口真由美は、自らの体験を通して、「発する言葉が誰かを傷つけるかもしれないという可能性を考えることは重要」と指摘します。

「同じ意見を交わすことでも、『対話』と罵り合いは大きく異なります。傷つけることを目的とした暴力的な言葉は自分には届かない、と発信することも必要ですし、そもそもそうした言葉を使うことが”暴力”であるという認識を持つことも重要です」。(谷口)
 

『対話』を揺るがす『分断』にどのように対峙していくべきか

市民メディア「8bitNews」を主宰し、自らも香港や台風の被災地などに赴き映像取材を続ける堀潤は、近年世界各地で起こっている様々な『分断』に、どのように対峙するのかを語りました。

「今まで、『対話』の中から多様な価値観を探り出したいと活動してきました。しかしここ最近、世界の中で『分断』が深まっていると感じています。その正体は複雑で、とある勢力を倒せば解消するというわけでもない。その種は人々の心の中にあるんです。固定観念とイメージのはびこる社会から、自分たち自身で身を守るために、まずは自分の目で見て感じる小さなファクト(事実)を大事にすることが重要です。そしてまた一方で、絶対的な“事実”は存在しないことを認識しておくことも同じくらい大切です。事実は今この瞬間からも無数に、無限大に広がります。『おそらくこれ以外にいろんなことがあるんだろうな』と思うこと、『”絶対これだよね”、じゃないかもね』と思えることは、情報の見極めという点から見ても、必要な考え方ではないでしょうか」。(堀)
 

「相手が求めていること」をまず知ることから

子どもの誕生をきっかけに、周囲の環境や、世界各地での紛争や貧困などの問題に関心が芽生え、難民キャンプや自然災害の被災地に自ら赴き活動を行うようになったと語るのは、ギタリスト&ヴァイオリニストで作曲家のSUGIZO。活動を続ける中で、その場所で求められている存在=“歯車”になることの重要性についてこう話します。

「自分の思い描くことをやりたい。自分の音楽を届けたい。自分を見て欲しい。好きになってもらいたい。活動を行う上で、こうした気持ちは実は一切ないんですね。現地で必要とされているものをしっかり認識した上で、それを届ける一助になれればと思っています。もちろん自分の意思を伝える強い心は重要ですが、自己顕示欲については、こうした活動をしていると、自然と淘汰されていくように思います。現場で求められていること、そして自分がこの場で必要だと思うことに関しては、ある意味“歯車”になりたいという思いがあります。相手が何を求めているのか?を考えない自己主張は、『対話』や人と繋がろうとする時に足かせとなることが少なくないのではないでしょうか」。(SUGIZO)
 

それぞれが持ち寄ることのできる『役割』

最後に、事前質問の中で最も問いかけの多かった「私たちに何ができるのか?」について、登壇者それぞれからメッセージを送りました。

「僕らが目指しているのは人と人とをつなげること。取材や作品を通じて、漠然とした“誰か”ではなく、“あの人”に会いたい、困っているなら助けたい、と思ってもらえるような世界観を届けることです。こうした活動に参加することで、皆さんにはぜひ繋がりを見つけて欲しいなと思います」。(石川)

「例えば今日、心を打たれるものがあったならば、大事なのはそれを“隣のおばちゃん”に伝えることができるかどうか、ではないでしょうか。SNSで拡散!とかじゃなくても、今日こんな話聞いてさ、と身近な人に話せるだけでも十分だと思います。誰かの痛みを知るためには、『共感する力』が必要ですが、それを保ち続けるには自分の感性を摩滅させないよう意識しておく必要があります。世界の苦しい、悲しい状況を見るとしんどくなることもあるでしょう。そんな時は休んだらいいと思います。自分のできる範囲で、できるペースで取り組んでいければいいですよね」。(谷口)

「来春、8年間の映像取材をまとめた映画『私は分断を許さない』が公開されます。映画を作ろうと思ったのは、自分の中でふと、『もしかしてアプローチを間違えていたんじゃないか…』と疑問が湧いたことがきっかけでした。こういう仕事をしていますので、やっぱり今までは、伝えなければ、知って欲しい、知らなくては、と目線が外へ外へと向きがちだったんです。こうした思いはもちろん大事なのですが、自分の心の中にどれだけ多彩なものがあるのか、そのグラデーションを自分自身がよくわかっていないままだったなと思います。そこで、自分自身の創造性や思いを見つめ直す意味で、映画を作ることにしました。作品を作りながら、自分との『対話』をしてみると『こういうものにも心が動くんだ…』と知らなかった自分に出会うことができます。実はこれが、他者との繋がりのきっかけになっていくこともあるのかもしれません」。(堀)

「『いつもの自分よりも1歩進もう』ということを日々心がけています。踏み出す先、方法はどんなことでもいいと思います。大事なのはそこに『無理がない』ことです。僕がババガヌージュの活動*1をすることにしたのは、自分ができることを考えた結果、現地に『行く』ことを選んだというだけで、誰もが行かなければならないわけではありません。でも行くことで、自分が知ることができる事実があり、それをこうしてお伝えすることができるわけです。
折しも昨日は、ベルリンの壁崩壊から30周年でした。30年前、今までの分断がなくなって一つになれるかもしれない、と希望を抱いたものですが、残念ながら現在、世界には目に見えない分断がたくさんあります。僕が自分自身にも、そして皆さんにも望むことは、小さな一歩を毎日踏み出すことで、分断ではなく共存の方向にエネルギーを使っていきましょう、ということです。自分が美しいと思える、信じられるものの歯車になれれば本望です」。(SUGIZO)
 

最後に、モデレーターを務めた安田菜津紀がパネルディスカッションを振り返って、このように締めくくりました。

「写真で伝えるという仕事をしてきて、写真には限界があるということを感じることが度々あります。何枚シャッターを切っても、瓦礫が退けられるわけではないし、目の前の子どもたちの傷が癒えるわけでもありません。でもそれは『役割分担』だと、現地の人たちから教えてもらってきました。今日のこの場もその一環だったのではないかと思います。現地で声をくださった方がいて、それを持ち帰る私たちがいて。でも持ち帰ってきただけでは伝えることにはならないので、それを受け止めてくださる皆さんがいて。今日、皆さんの中で刻まれた言葉、シーンなどがあれば、身近な人にお話いただいて、そこから輪を広げていっていただければと思います」。(安田)

Dialogue for Peopleでは、今後ともメディアでの発信やこうした機会を設ける中で、多様な価値観や世界各地に生きる人々の姿を皆さんにお届けし、「無関心」を「関心」に変える、伝える活動をつづけてまいります。

ご来場いただいた皆様、関心をお寄せくださった皆様、誠にありがとうございました。
 

(2019.11.29/文 舩橋和花(Dialogue for People事務局))

 

*1:2016年ヨルダンの難民キャンプで避難生活を続けるシリアの人々を訪れたSUGIZO氏を中心に結成したバンド。これまでにヨルダン、パレスチナ、イラク、ヨルダンなどで音楽による文化交流を実施。ライヴだけでなく、難民キャンプや国内避難民の家庭訪問など、草の根の活動を続けている。
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