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(2022年11月10日追記)【取材レポート】伊藤詩織さんの意見陳述全文「同じ被害に苦しんでいる多くの人たちのために、この裁判を始めました」

《裁判のその後の経緯(2022年11月10日追記)》
2021年11月の一審東京地裁判決では、はすみ氏に88万円、投稿をリツイートした男性2人に各11万円の支払いを命じました。その後はすみ氏と男性1人が控訴し、2022年11月10日の控訴審判決にて、東京高裁(岩井伸晃裁判長)は、はすみ氏に110万円の賠償を、控訴したもう1人の男性に対しては、一審判決と同じく11万円の支払いを命じました。

ジャーナリストの伊藤詩織さんが、Twitterに投稿されたイラストなどが名誉毀損に当たるとして、漫画家のはすみとしこ氏ら3人に損害賠償を求め、東京地裁に提訴した裁判の第1回口頭弁論が、2020年11月17日東京地裁で開かれました。

はすみ氏に対しては、投稿したイラストなどが伊藤さんの名誉を傷つけたとして、慰謝料と投稿の削除、謝罪を求めています。これに対しはすみ氏は、請求棄却を求め、争う姿勢を示しています。また、はすみ氏のツイートを「リツイート(RT)」した2名の被告に対しても、慰謝料と投稿の削除を求めています。

今年6月8日の記者会見で、原告訴訟代理人弁護士である山口元一さんは、ネットでの拡散について下記のようにコメントしています。

―RTされた方は、気楽な気持ちでスマートフォンやパソコンをいじっているのかも知れませんが、法律上は、道で誹謗中傷のビラを拾って、それを数百部、数千部とコピーし、各家庭に配って歩くのと同じことをされています。

6月8日の訴訟提起記者会見

はすみ氏は欠席し、出廷したのは被告の一人のみという中、伊藤さんによる意見陳述が行われました。以下にその全文を掲載します。

意見陳述要旨

私は、初めて自分の被害を嘲笑うようなイラストを見た朝のことを、今でも忘れられません。そのイラストは私の魂を深く傷つけました。その日、ベッドから起き上がることができなくなりました。

私は、レイプによって突然日常を奪われ、それまでの自分として生きていけなくなりました。魂の殺人ともいえる経験でした。今でも、悪い夢であったらどんなによかっただろうと願うことがあります。そうした深刻な被害を、私が意図的に相手を陥れるためにしたことで、被害者を自称している、と言わんばかりのイラストを描き、それをTwitterにアップする人がいることに、私はショックと恐怖を覚えました。

蓮見さんの描いたイラストは、ネット上で瞬く間に拡散されました。どうして私の被害を笑い、シェアすることができるのか、私は他人が怖くなりました。イラストが拡散されていく様子を思い浮かべると、外に出ること、街を歩くことにたいへんな苦痛を覚えるようになりました。外に出る時は、帽子をかぶってサングラスをかけ、常に周囲を警戒するようになりました。蓮見さんの描いたイラストにより、なんとか被害から立ち直りたい、日常を取り戻したい、という私の思いは踏みにじられました。

この裁判ができるようになるまでに、長い時間が必要でした。性被害の傷とトラウマを抱え、回復途中の私にとって、あのイラストを見るのも、イラストについて話すことも、話しているところを他の人に見られることも苦痛だったのです。

ただ、この社会には、性被害の被害者を、セカンドレイプといえる言動で攻撃する人、インターネットでセカンドレイプの拡散に加担する人がおおぜいいます。私は、私自身が前に進むために、そして私と同じ被害に苦しんでいる多くの人たちのために、この裁判を始めました。裁判官の方々に、私の被害を正面から受け止めていただくことを、心より願っています。

-以上-

はすみ氏によるイラストを私が最初に目にしたのは、「そうだ、難民しよう」という文言と共に投稿された、シリア難民の少女らしき絵で、“偽装難民”が豊かな暮らしを求めて移動している、と揶揄するものでした。それは、これまで多くの難民の人々と国内外で出会ってきた私にとって、許しがたいものでした。自分の意図に反して故郷から切り離され、命がけで国を脱出し、過酷な旅を続けてきた人々が、難民に「なりにきた」とでも言うのだろうか、と。このイラストが問題視されてもなお、はすみ氏の矛先は在日コリアンや日本に暮らす外国人、性暴力被害者などへと向けられてきました。問題はこういった投稿そのものに留まりません。伊藤さんが陳述したように、拡散という形での加担もまた深刻です。

リツイートについての訴訟に対しては、「大袈裟だ」というコメントもネットでは飛び交っています。それは性暴力・ハラスメントの問題に対し、「気にしすぎだ」「上手く受け流せ」と強いてくる構造的な暴力と重なるものではないでしょうか。被害の深さを、被害者以外が勝手に決めつけること自体もまた、暴力的なことでしょう。

ネットが日常の一部であり、ボタンひとつで気軽に意思表示ができてしまう今、誰しもに「加害者」にならないための行動が求められているのではないでしょうか。

(文・写真 安田菜津紀 / 2020年11月17日)


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