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2023.10.5

「人が輝いていくのを支えていたい」(葉一さんインタビュー) / D4Pメディア発信者集中講座2023課題作品 月橋さやか

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2023.10.5

#media2023

 小・中学校における⻑期欠席者のうち、不登校児童生徒数は 196127 人(前年度 181272人)であり、児童生徒 1000 人当たりの不登校児童生徒数は 20.5 人(前年度 18.8 人)である。不登校児童生徒数は8年連続で増加し、過去最多となっている。

参考:R2 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(mext.go.jp)(2023/08/28 参照)

 また生活保護世帯に属する子どもの大学など進学率は 39.9%、児童養護施設の子どもの進学率(高等学校卒業後)は 33.0%、全体の大学進学率(短大含む)は 58.9%となっている。

参考:令和3年度学校基本調査(確定値)報道発表資料 (mext.go.jp) 令和3年度子供の貧困の状況と子供の貧困対策の実施の状況 (cao.go.jp)(2023/08/28 参照)

 経済的な問題やいじめなど人間関係の問題から教育の機会を失う子どもたちがいる。その他にも学校の授業についていけなくなった子どもたちがいる。
 では、スマートフォンさえあればいつでも無料で授業を受けられる環境が整っていたらどうだろう。YouTube は塾や学校に次ぐ学びの場にはならないか。
 そんな思いから教育 YouTuber 葉一さんのチャンネル「とある男が授業をしてみた」は生まれた。

 

YouTube というプラットフォームを発見するまで

─教員嫌いが教育に携わりたいと思うまで
 現在は教育 YouTuber として活躍される葉一さんだが元々は教師嫌いだったと言う。中学生の時いじめにあい当時の先生が相談に乗るどころかクラス全体の前で体形をいじってきたことがあり教師全体を斜に構えていた。
 しかし高校に入学し、とある先生との出会いで考えが大きく変わる。その先生に関して「恩師に高校時代のことを聞いてきました」というタイトルで動画を出してもいる。その動画の中で葉一さんはこう語る。「すごいなって思ったんです。先生一人の存在でここまで自分が変わるんだって」
 その後、教員を目指した葉一さんだが教育実習の時に教員の多忙さ、生徒のメンタル面でのサポートをする余裕の無さを感じた。また教育に携わるとしても一度教職以外の仕事を経験したいと営業職に就く。その後塾講師として働き始めると塾の月謝が予想以上に高く驚いたそうだ。家庭の経済事情により子どもの教育の選択肢が制限されているのが実情だった。そして子どもが無料で学ぶことのできる場を、と思いついたのが YouTube だった。

─どうして制度改革に携わろうとは思わなかったのか
 経済状況による格差やいじめ問題を改善するなら政治家などとして制度改革を行うのでもよかったのではないか。私が問うと即座にこんな答えが返ってきた。
「制度改革って時間がかかるじゃないですか。もっとフットワーク軽く、自分がダイレクトにやりたかった」
 動画の中でも葉一さんは「裏方」という言葉をよく使う。輝くのは子どもたちであって、自分はあくまで子どもたちを支える側という意味だ。
 YouTuber は時にきらびやかな仕事と思われがちだが、彼の発信からはそばで寄り添おうという姿勢が感じられるように思う。そんな姿勢が改めて見えた、迷いのない返事だった。

 

「答えは見つかっていないですね」

─「狭すぎても違うんだよね。マスになりすぎても違うんだよね」
 葉一さんの活動は 2012 年に始まり、今年で 11 年目となる。当初はバッシングも多かったというが、今では 193 万人もの登録者がいる。それでも活動をするうえで悩みがなくなったわけではないようだ。
「YouTube ってマスメディア化してきているじゃないですか」と語る葉一さん。確かにYouTube の全世代における利用率は 85%を超えている。

参考:令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(総務省情報通信政策研究所)(soumu.go.jp)(2023/08/28 参照)

 しかしながら葉一さんの活動のきっかけは「目の前にいる、悩んでいる子とか苦しんでいる子たちを、それが少ない人数だとしても支えられたらいいな」という思いだ。
 「自分の活動は YouTube から始まったしそこで救える子もいるから」と YouTube を続ける意思は示しつつも他の活動場所も模索しているようだ。実際に Voicy やツイキャスなど少ないコミュニティでの活動も行い、100 人から 200 人規模を対象にする講演会にも力を注いでいる。だが、明確にこれだと思うものには出会えていないとのこと。今のところは「答えは見つかっていない」「(YouTube と他の活動を」並走する」と、少しはにかんだ笑みを浮かべた。

─意図しない誤情報を程度によっては容認することも含め「情報の真偽を見極める力」
  葉一さんは営業職の頃車内でよくラジオを聞いていたこともあり自身のチャンネルでも定期的にだらだラジオという音声だけの動画を投稿している。そのラジオの「子どもたちに必要な力は何だと思いますか?」と題した回で「情報の真偽を見極める力」をあげている。
 この力について今回もう少し深く聞いてみた。具体的に言えば、ミスインフォメーション(発信者の意図しない誤情報)についてだ。
 SNS が普及した今「マジョリティが強く出過ぎる」と言及したうえで過剰に責めず、程度によっては容認する姿勢も含め「真偽を見極める力」なのではないだろうかという答えが返ってきた。
 そこで多数派の意見が強くなり過剰に人を責めたり少数派の意見が埋もれたりする風潮をどうしたら改善できると思うか続けて聞いてみた。すると完全にこうした風潮はなくなることはないかもしれないと真剣な表情で述べたうえで、自分の発信を受け取ってくれた子たちだけでも変わっていってくれたらいいと少し目元を和らげた。柔らかさの中に確かな芯を感じさせるような眼差しだった。

─『無料なのに』と『無料だから』
 「無料なのに『こんなクオリティーのものが見れるの』という衝撃を与える」と「無料だから、ちょっと仕方ないよね」。この2つの考え方が活動を継続するコツだと言う。
 授業に正解はないから 100 点は求めない。そうするとつぶれてしまう。自分の機嫌を自分で取るために作った、大事なマイルールとのこと。
 これはだらだラジオの「自分に期待しない」と題した回でも話されていたことだ。サムネイルには「継続のコツ」という言葉が黑の背景に白で描かれている。
 この動画には、勉強が思うように進まず落ち込んでいたがこの動画を見て気持ちが落ち着いたというコメントが複数寄せられていた。継続できないと自己嫌悪に陥った子どもたちに、動画を通して葉一さんの考えが届き1つのヒントになったのではないだろうか。

 

思いの届け方

─横のつながりが大事
子どもの悩みや学校問題に関心のない人に関心を持ってもらうには縦よりも横のつながりが大事だと言う。
子どもが対象ならひとまず学校問題に関するワークなどをやってみる。そこで興味を持ってくれるのは少数かもしれない。だが子どもにとって友人の影響は大きい。1人が興味を持てばその友人も興味を持ってくれるかもしれない。そうして興味、関心の輪が広がっていくことが期待できる。
一方、親が対象の場合関心を持ってもらうのはやや難しいかもしれない。仕事で忙しく他人のことを気遣う余裕が失われていることもあるだろう。あるいは今までの人生の中で価値観がある程度形成されていることもあるだろう。「価値観を変えることは過去の自分への批判となる」と葉一さんは指摘した。だがやはり横のつながりに注目し、ママ友などからの影響を受けることはあるのではないかとのことだった。

─「自分の身内くらいプレゼンで説得しよう」
 ここまでは横のつながりに焦点を当てて話を進めたが子どもから親に何か伝えたいことがあることも多いだろう。その時子どもが意識したら良いことはあるかと聞くと、葉一さんの口から出てきたのが「自分の身内くらいプレゼンで説得しよう」という言葉だった。
 家族というのは特別だ。他人より近い。だがその近さが時に厄介だ。意見が食い違った時に感情的になってしまうことがある。だからこそ感情でぶつからずに理屈で説得する意識が大切なのだ。

 

教育の主役は子ども

─『大人がどうするか』ではなく『子どもがどう感じるか』
子育ての話となるとつい親が子どもをどう育てるかと親が主役の話になってしまいがちだ。だが、葉一さんは教育の主役は子どもだと述べる。
まずは子どもが何に興味、関心を持っているか知ること。そして子どもが興味を示したことに対して一緒に調べる姿勢が大切だと言う。子ども1人では専門家の話にアクセスすることは難しい。だが親がサポートすれば、子どもは関心のある分野についてより知識を深めることができるだろう。
親からのそうしたサポートがあれば子どもはのびやかに自分の興味、関心を広く深く掘り下げることができるはずだ。

─1本化しないこと
 子どもの好きなことがずっと同じものとは限らない。「好き」が変わることもあるだろう。その時に親が子どもの「好き」を1本化しないことが大切だと言う。
 興味、関心が変わったらその都度それに寄り添うこと。興味、関心が変わっても良いと伝えること。
 この2点をご自身も意識されているそうだ。「子どもは親の顔色をうかがってしまう」と述べ、息子さんに「習い事がつまらなくなったらすぐ言って」と日頃から声掛けされていることを教えてくれた。

─親がモデルケースになる
 もし子どもが自分の「好き」を見つけられなかった時はどうしたらいいのだろうか。あれをやれ、これをやれと親が子どもに過干渉をするのではなく「親がモデルケースになる」ことを葉一さんは提案する。親自身が自分の「好き」に敏感であれば子どもも自然とアンテナを張っていつか「好き」を見つけることができるかもしれない。

 今回の取材は zoom で行った。その取材の最後、葉一さんがこんな言葉をかけてくれた。
「いつか実際に会おうね」。
 今回の記事を通して葉一さんの、『教育 YouTuber』という言葉からはみ出る部分が読者に伝われば幸いだ。

【プロフィール】
葉一(はいち)。1985 年福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材会社の営業職、塾講師を経て独立。登録者 193 万人を誇る YouTube チャンネルとある男が授業をしてみた -YouTubeを運営。

「人が輝いていくのを支えていたい」(葉一さんインタビュー)

教育YouTuberとして活躍されている葉一さんの、教育YouTuberから溢れる部分。親や人として日々迷い悩みながら選択されている様子が親世代に伝わるように文章による表現を選びました。
 

    ▶︎表現形式:文章のみ
    ▶︎想定される受け手:子育てをしている人たち
    ▶︎制作:月橋さやか


    こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2023の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。
     

 
 

2023.10.5

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