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2023.10.5

It’s Our Matter — 二人の親友と考える Affirmative Action / D4Pメディア発信者集中講座2023課題作品 三戸絵美里

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2023.10.5

#media2023

夏空を横目に朝から机に向かう。米大学受験を控えた6月末のある日、左手に置いたスマホが光った。目をやるとBreaking Newsの文字。会員登録している米国紙からの通知だ。


(該当のニュース記事を映す携帯画面)

『最高裁、ハーバード大学・ノースカロライナ大学における人種に配慮した大学受験は違憲』

半世紀近く続いてきた、大学受験におけるAffirmative Action(積極的格差是正措置)が禁止されたというニュース。読み進むほど見えてくる複雑な構造。秋以降の受験にどのような影響があるのか、先の読めない状況に心が揺れた。

背景:Affirmative Action(積極的格差是正措置)はマイノリティが過去に受けた社会的差別をなくすための取り組みで、アメリカでは1960年代以降、就職や大学受験の場で採用されてきた。大学受験では、成績やテストスコアなどに加え、受験者の人種的背景を合否判断の要素とすることで、人種的マイノリティを積極的に高等教育の場に受け入れてきた。
しかし、2023年6月29日、米国最高裁判所は大学受験におけるAffirmative Actionは、米国憲法が定めるところの「法の下の平等」に反するとの見方を示した。ハーバード大学とノースカロライナ大学の学生団体による、特定の受験者層(特に白人・アジア系アメリカ人)が各校の一部の人種(特にアフリカ系・ラテン系アメリカ人)への優遇措置により不利益を被っているという訴えを認めたかたちだ。
今後、全米の大学が受験制度の見直しを迫られることとなる。
参考:Nikkei Asia, The New York Times

(筆者作成)

単純に考えれば、アジア系である私はAffiramtive Actionの廃止で「得する」ことになる。しかし本当にそうか。この決定で何が変わるのか、変わらないのか、受験を目前に控えた今だからこそ、自分ごととして向き合いたいと思った。

この問題を多角的に考えるために、異なる背景をもつ親友二人に協力してもらった。中国人の両親を持つテキサス出身のKaraと、エクアドル人の母を持つニュージャージー出身のCynthia。留学先で共に寮生活を送る二人へのインタビューを元に、今回の決定が私たちにとって何を意味するのか考えた。

(左から:筆者、Cynthia、Kara)

以下二人へのインタビュー(筆者による和訳):

-2人はいつ、どのようにして今回のニュースを知ったの?

Kara: 私はニュースが出た翌日に、Apple NewsとSNSの通知で。

Cynthia: 夏休みが始まって2週間後くらいのことだったと思う。

-その瞬間の自分の反応はどうだったか覚えてる?

Kara:これといった驚きはなかった。既にほとんどの大学が、受験者を包括的に見るHolistic Admission*へと舵を切っていて、今回焦点になった人種は数多くの要素の一つに過ぎなくなっていると思うから。

Cynthia: 正直なところ、どう反応して良いかわからなかった。 Latina(ラテン系の女性を指す言葉)である私にとって(ネガティブな)影響が考えられると同時に、人種的マイノリティであるという事実以外の、自分の強みや実力を証明できるチャンスが与えられたと捉えることもできると思う。

-私たちの大学受験もいよいよ佳境を迎える中で、今回の決定が、自分自身にどのような影響を与えると思う?

Cynthia:私にとって、大学入試担当者の目に留まるプロフィールを作ることは間違いなく難しくなると思う。ただ、最終的には、エッセイを通して、アイデンティティや、自分にとって大切なものは何かをアピールしていくことはできると思う。

Kara:最高裁の決定が、私自身に大きな影響を与えるということはないと思ってる。さっきも話した通り、多くの大学が、受験者の人種・民族的アイデンティティだけでなく、(エッセイ・成績・課外活動・推薦書など)一人一人を包括的に評価する方針に移行したという背景もあるし。

-少し先を見据えたとき、今回の決定が、自分の大学生活に何か影響を与えると思う?

Kara:一つ考えられることは、マイノリティの生徒が、一部の大学を受験するのを躊躇するようになってしまうかもしれないということ。結果的に、マイノリティグループからの受験者が減り、大学内の多様性が低下してしまうかもしれない。それはつまり、コミュニティ内の意見や視点の多様性が減ってしまうこと。「より多様な人々=より多様な意見」だから。でもそれほど大きな影響には発展しない気もする。

Cynthia: 多様性が低下したコミュニティで過ごす大学生活が、より難しいものになるのは確かだと思う。これまで少し伝えれば理解してもらえた自分のアイデンティティを表現するのに沢山の時間を費やさないといけなくなるわけだから。

-最後に、この決定に対するあなたの立場を聞かせて。賛成?反対?それとも、もっと曖昧なもの?

Kara:私自身は中立的に捉えてる。ポジティブなもの、ネガティブなもの含めて、この判決から生じる特に大きな影響はないような気がするから。

Cynthia: 長期的に考えると、今回の判決はより公平な大学受験の実現につながると思うから私は賛成。でもこの決定が、これまでの人生で人種的マイノリティであるが故に苦労してきた子供たちから、受験におけるアドバンテージを奪うことになるのも事実だと思う。

*Holistic Admission: 近年多くの米大学の入試審査で採用されている方針。伝統的な学力スコアだけでなく、受験
者の能力や人間性を多角的に評価する。

(6月に訪れたハーバード大学の校舎)

後書き:
Affirmative Actionの廃止は大学受験における形式的な平等に繋がるかもしれない。しかし、人種に基づく所得格差や機会の平等が未だ解決しない社会で、この決定が実質的な平等の実現を妨げることにはならないか。考えていかなければいけないことは多く残る。

ただ、この取材での最大の収穫は、親友の2人に、フラットな立場から話を聞けたことだ。人種間対立の構造が強調されることもあるこのニュース。しかし、属性に関わらず、抱く想いは一人一人違うはずだ。Cynthiaの「自分の実力を示す機会をもらえる」という言葉や、KaraのHolostic admissionへの着目から、その当たり前を再認識させられた。

引き続き、マジョリティ対マイノリティのような安易な理解に頼らず、一人一人との対話を通して、丁寧にこのニュースと向き合っていきたい。

It’s Our Matter — 二人の親友と考える Affirmative Action

日本ではあまり広く知られていないニュースだと考え、図も使いながら背景を丁寧に説明することを心がけた。3人で写った写真を載せ、インタビューは口語調で書くことで、今回の対話が私たちの普段の会話の延長線上にあることを強調した。

    • ▶︎表現形式:写真、文章
    • ▶︎想定される受け手:日本に住む同世代
    ▶︎制作:三戸絵美里

 


    • こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2023の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。
       

     
     

    2023.10.5

    #media2023