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なかったことにしなくていい社会へ〜性暴力被害の取材報告〜 / D4Pメディア発信者集中講座2023課題作品 HM

はじめに
この発表は性暴力に関する取材報告です。 フラッシュバックの心配がある方はご注意ください。

ここ数年、性犯罪に対する報道は頻繁になってはいるものの、まだまだ立証が難しいとの理由で警察にまともに取り合ってもらえずに泣き寝入りを余儀なくされたり、そもそも知識不足で自分の身に起こったことが性被害であると認識できずにいる女性たちが数多くいます。 そうした現状の打開へ向けて特に圧倒的加害側である男性側が問題意識を持ち、実態把握に努めることで性犯罪を無くしていく第一歩になると考え、男性である私自身が自発的に性被害の実態について取材を行いたいと考えました。

取材対象は私がSNSで出会った方2名と性加害に対する抗議活動で知り合った方1名で、元々面識があったこともあり、快く取材を承諾していただきました。

 
Yさん39歳の証言

数年前、当時勤めていた流通関係の職場での出来事。 エレベーター内の物陰で、同僚の年下の男性から何度も抱き付かれたという。それを女性上司に訴えると加害男性に対し聞き取りが実施され、行為は認めたものの「嫌がっていると思わなかった」と発言。本人はYさんに謝罪もせず退職していった。

また、上司から「どんな服装の時に触られたのか?」と聴取され、こちらに非があるかのような態度だった。そして、そのことが明るみになった後、何故かYさんの方が部署移動をさせられた。

Yさんは「どんな服を着ていても、それは自分が好きで着ていたのであって誰かに触られるためでは無い」と語った。

 
Tさん20代前半の証言

小学校低学年の時、当時暮らしていた児童養護施設で起きた出来事。日常的に職員の死角になるような場所で密かに子ども同士による性加害が横行していた状況で、Tさんも同年代の男の子5人程に囲まれていきなり服を脱がされた。余りの衝撃的な出来事に混乱して大泣きしたことで事態が発覚し、その後男の子たちがTさんの元に集まり謝罪を述べたが、Tさんは一切許す気にならなかった。

Tさんは「年上の男の子により、幼い男の子が年齢に不相応な性的コンテンツに触れてしまう機会は何処にいても珍しくない」「特に善悪の判断が乏しい幼い男の子たちが加害者にならない為には、幼少期からプライベートパーツの扱いに対する教育が必要」と語った。

 
Sさん59歳の証言

中学生の頃から何度も受けてきた痴漢被害について。最初は地下鉄の満員電車の車内で後ろに立っていた男性から勃起した陰茎を臀部に押し当てられた。また、スカートの中に手を入れられ、更に下着の中の性器を直に触られたことも。

高校生の時には、混み合った車内で抱きかかえられて身体中を触られ、長時間離れられずにいたが多くの人が降車する駅で止まった際に人の流れと共にやっと逃げることができた。

Sさんは「電車に乗る際、男女で周囲に対する見え方が全然違う」「娘が被害に遭ってから自分に起きた性被害を自覚した」「これからの女の子たちには法律をもっと利用してほしい」と語った。

 
男性の有利性

男性の約100人に1人は無理やり性交等された経験があります。

それに対し、女性の約14人に1人は無理やり性交等された経験があります。また女性の約63人に1人が、2人以上から被害を受けた経験があると答えました。

※令和5年度・内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書」

※性暴力の定義:相手の身体の一部や異物を無理やり膣や口、肛門等に挿入された、避妊なしに性交させられた等

このように性被害に遭う確率は女性の方が格段に高く、住居や公共の場であっても関係がなく、他人や知人であっても加害を与えられる恐れがあるという点で、女性の方が性暴力の被害者になりやすいと言えます。

 
男性の問題点

環境、体格、人数、年齢等で劣位にある女性たちを狙って行為に及んだ加害男性たちは恐らく「この人なら大人しいし元々の関係性もあるからやっても声は上げないだろう」「証拠が残らないから見つからなければ咎められることはない」「こんな格好をしているから触られても仕方がない」という思考を働かせているのではと推測します。

そもそも他人の身体に勝手に触れる行為は人権侵害であり、加害者は確実に人権意識が欠落していると言えます。それは自らの身体に対しても言えることで、幼少期から男性間で日常的な暴力でのコミュニケーションがあったり、スポーツや心身の不調の際に精神論や根性論が押し付けられ、適切な対処がされないことが当たり前でした。そうした状況で育ってしまえば、自分と他人の身体に対する尊重はそもそも備わらず、理性と欲望がせめぎ合う状況でも思いとどまれません。

世間体で「人権尊重」や「身体の尊厳」を呑み込んでいても、自分の欲望が掻き立てられてしまえば、性暴力を自制出来なかったり、自分の親しい関係の人から被害を打ち明けられても寄り添うどころか自己責任を押し付けたり、問題とせず矮小化してその人に更なる傷を与えてしまうかもしれません。

男性にとっての人権や性教育を学ぶことは、自分が性暴力加害者にならないことと、周囲の人間を被害者にさせないことに繋がっていきます。今まで女性たちが個人で担ってきた男性への教育を社会全体が問題意識を持って取り込むことで、誰もが生きやすい社会への第一歩になります。

 
まとめ

今回の取材を通して印象的だったのは、女性たちが当時は性暴力だと認識していなかったり、大した問題じゃないと思っていたが、時を経て自分の身に起こったことが性暴力であると自認した経緯が共通していたことでした。被害者側が犯罪であると自覚せずに、時間が経過してしまうことが日本の性被害の現状とも重なっています。

また、今回の取材では1つのことについて掘り下げる形でお話をお聞きしましたが、3名の中では沢山ある内の1つに過ぎず、ここでは語りきれなかったことがまだまだたくさんあると仰っていて、性被害という言葉の中に、多種多様な被害の形態が存在することを十分に理解しなければならないと感じました。

今年100年振りに刑法が改正され、新たに不同意性交等罪が組み込まれ、性交同意年齢が13歳から16歳に引き上げられました(条件付きですが)。それはジェンダーギャップ指数世界125位、人権後進国と呼ばれる日本では確実な前進であり、バックラッシュの中で尽力してこられたフェミニストやジャーナリストの方々、勇気を出して被害を告発して下さった方々のおかげです。心より感謝致します。私自身も個人に背負わせ過ぎてきた問題の一つ一つに向き合い、被害者救済を
最優先に問題提起をしていきたいと思っています。
そしてこの変化が止まることなく、身体的な尊厳が補償されて性犯罪が起こらない社会に変わっていくことを切に願います。

 
おわりに

「#8103」(ハート3)

性暴力・性加害被害者等の相談に応じる警察の窓口

「# 8891」(早くワンストップ)

最寄りの性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターにつながる全国共通短縮番号

なかったことにしなくていい社会へ〜性暴力被害の取材報告〜

場所や年代に関係なく性暴力にさらされた女性たちの声を聞き、加害側の男性の問題提起をすることでこれ以上性暴力が起きない社会を日本全体で作っていくことを目的とします。今回の取材により、多くの女性が受けてきた性被害の実態が周知され、男性が持つ有利性や問題点が認識されることを願っています。
 

    ▶︎表現形式:文章、音声(未達成)
    ▶︎想定される受け手:男性、日本を男女平等だと思っている人
    ▶︎制作:HM


    こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2023の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。
     

 
 

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