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居場所づくり-地域とつながり地域で生きるために / D4Pメディア発信者集中講座2023課題作品 山本梨央

現代の私たちには「居場所」といえる場所はいくつあるだろうか。家庭と学校、もしくは家庭と職場を往復する日々を過ごしている多くの人々にとって、安心できる自分の拠り所となるような居場所は、意外と少ないのではないだろうか。

次のようなデータがある。小中学生の不登校は2021年度には24万人と過去最多にのぼった。孤独であると感じている人は10代から50代に限ると4割に達しており(内閣官房, 2023年)、誰にも看取られることなく死亡した後に発見される死である孤独死を身近な問題と感じる人の割合は一人暮らしの場合4割を超えている(内閣府, 2019年)。

こうした状況下で人々が真に求めているものは、「人とのつながり」であるといえるだろう。適切な人とのつながりを得る場所として、家庭・学校・職場以外の第三の「居場所」が大切な役割を果たす。さまざまな理由で学校に行かない・行けない子どもたちや、孤立感を抱える大人たちをはじめ、人々がより多くの居場所を持つようになれば、日本社会を覆う孤独感や生きづらさも解消されることが期待できるだろう。

私は2022年11月から若者団体に所属し、子ども食堂のお手伝いや小中学生対象の学習支援に携わるようになった。こうした活動現場の様子を伝えることで居場所について考えていこうと思う。

東京都葛飾区にある子ども食堂。小学校のPTAで出会ったお母さんたちによって創られたNPO法人が運営し、団地の中にある集会所を借りて開催している。子ども食堂に来るのは、フードバンクに登録している経済的に困窮している家庭の子どもたちや保護者、ボランティアの高校生や大学生、若手社会人から近所に住む50・60代の人々など幅広い世代で、この場だからこそ生まれる交流がある。玄関に誰かが来たら「こんにちは」と挨拶をして迎え入れ、子どもたちには「今日は何をして遊ぼうか」と話しかけて一緒に遊び、保護者には最近の様子を訊き相談ごとに乗り、子どもたちが楽しく遊んで帰る頃にはお弁当を渡して「またね」「さようなら」と声をかけて送り出す。子どもたちと遊ぶボランティアがいて、相談ごとを始めさまざまな話を聞いてくれるNPOのスタッフがいて、お弁当を作ってくれるボランティアがいて、食材を提供してくれる企業がいる。心地よい居場所を創ろうと取り組む人々の力によってこの場が成り立っていることに気付く。さまざまな声掛けとこの場に集まる人々の思いやりが生み出す温かな空間に、日常生活では感じにくい人とのつながりを感じることができる。

子どもたちとレゴブロックで遊んでいる様子

子ども食堂でいただく手作りのお弁当

その子ども食堂に、ある時聴覚に障がいを持つろう者の高校生が来ていた。最初はどうコミュニケーションを取ったらよいか分からず苦戦していたが、文を紙に書いたり携帯のメモに打ったりすることで次第に会話ができるようになり、一緒に折り紙をしたりハンカチ落としをして遊んだ。またある時は、ボッチャ協会の人たちが来て子どもたちもボランティアも一緒になってボッチャで遊んだりもした。ボッチャには「合理的配慮」がされていて、障害の有無にかかわらず楽しめるスポーツであるという。子どもたちがそれぞれ思い思いに遊ぶ中、子どもを預けた保護者たちは大人同士集まって話したりカルタをしたりしている。子ども食堂は子どもたちだけでなく障がいを持つ人々も包摂する場であり、子どもを持つ親にとっての居場所にもなっている。

ボッチャで楽しく遊んでいる様子

東京都世田谷区にある子ども食堂は、パワフルで明るいご夫婦が個人宅で開催している。大学生や社 会人のボランティアが集い、午前中は約100人分のイートインやお弁当の食事を協力して作っている。午後になると近所に住む小学生が遊びに来てボードゲームをしたりかき氷を作ったり、大人たちがお弁当を取りに来たりお話をしに来たりする。運営しているご夫婦は訪れる近所の人々の名前を覚えていて、一人 一人手渡しでお弁当を渡していく。アットホームな雰囲気で地域の憩いの場のような機能を持っている。子どもが子どもだけで気軽に行くことができる場所、保護者が「親」という肩書を外して一人の人として認識される場所。そうした場所が社会に必要であることに気付かせてくれるところである。

大きな鍋で約100人分のご飯を作る

東京都豊島区にある学習支援の場。NPO法人が運営していて、周辺の小中学校に通う子どもたちが放課後にやってくる。ここでは学校の宿題をしたり受験に向けて作文を書いたりして過ごしている。現在は共働きの世帯が多くなり親が子どもたちの宿題を見るという時間的・精神的余裕が失われている。忙しい親に代わり大学生や社会人が1対1で寄り添って学習を支援する。誰かが見てくれる、話を聞いてくれるという安心感や信頼感を提供しているように見える。
外国にルーツのある子どもたちも数多く来ていて、英語や数学といった教科の学習に加えて、ひらがな や漢字など日本語の学習もしている。ボランティアとして関わる大学生や社会人は、どのように話したら伝わるか試行錯誤しながら、伴奏する形でともに学習を進めている。

学習支援先でやさしい日本語についてのパンフレットをいただいた

子ども食堂支援センター・むすびえ理事長の湯浅誠さんは、人々は「SNS以上しがらみ未満」のつながりを求めていると言い、人々が必要としている居場所とは「誰かにちゃんと見ていてもらえている、受け止められている、尊重されている、つながっていると感じられるような関係性のある場のこと」であると定めている(湯浅誠, 2023年)。子ども食堂や学習支援の現場はまさにそうした関係性のある場として、さまざまな人に居場所を提供している。
子どもや大人、健常者や障がい者、多様なルーツや性別など、人にはさまざまな属性がある。居場所はそうした属性にかかわらずさまざまな人たちを受け入れ包摂できる場所である。居るだけでいいと思える居心地の良い居場所で、そこで各々に役割もあって、自分らしくいられて、また来たいと思えるような場所。そのような居場所がそれぞれが暮らす身近な地域にたくさんあるような社会であると良いし、これからもそうした社会を創っていく一員でありたいと思う。

参考文献

内閣官房, 2023,「人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/r4_zenkoku_tyosa/tyosakekka_gaiyo.pdf, 2023年8月30日取得)
内閣府, 2019,「平成30年版高齢社会白書(全体版)第1章 高齢化の状況(第2節4)」(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_4.html, 2023年8月30日取得)
湯浅, 2023, 「居場所の時代」,『別冊 婦人之友』1442号:64-67

 

居場所づくり-地域とつながり地域で生きるために

子ども食堂や学習支援といった活動が子どもたちだけでなく関わるさまざまな人の居場所になっていることを伝えたいと思い、本文を書きました。居場所について文章で説明するとともに、写真を載せることで想像しやすくしました。

    • ▶︎表現形式:文章と写真
    • ▶︎想定される受け手:居場所づくりに興味関心のある若者
    ▶︎制作:山本梨央

 


    • こちらは、D4Pメディア発信者集中講座2023の参加者課題作品です。全国各地から参加した若者世代(18~25歳)に講座の締めくくりとして、自身の気になるテーマについて、それを他者に伝える作品を提出していただきました。
       

     
     

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