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世界難民の日、そして日本の「今」を知るために観たい映画・ドラマ・漫画など

date2021.6.17

writer安田菜津紀

categoryエッセイ

「世界難民の日」と、安全を求める人々

迫害や紛争、命の危険から逃れ、難民となった人々は、どんな道のりをたどってきたのか、そしてどのような支援が必要とされているのか、理解を深めるために制定されたのが6月20日、「世界難民の日」です。一昨年発表された、世界の中で避難生活を続ける人々の人数は7,950万人をこえ、過去最多となっています。

世界難民の日によせて、そして日本の「今」を知るために観たい映画・ドラマ・漫画などをご紹介します。

                  

■ 映画:「娘は戦場で生まれた」

シリアが「戦場」と呼ばれるようになった2011年から10年。激しい衝突が小康状態となっている現在も、内戦前の人口の半数以上が避難生活を余儀なくされています。

これまで数々のシリアの映画を観させてもらい、どれも強く訴えかけるものばかりでした。ただ、最後まで女性たちの声が聴こえてこない、姿さえ見えないものも少なくなかったように思います。この映画は監督であるワアド氏が、一人の女性として、母として自身の生活と、目まぐるしく変わる街の様子を撮り続けたものです。

容赦のない爆弾の雨にさらされ、昨日までの生活の場が一瞬で瓦礫と化す中、それでも彼女はささやかな喜びを積み重ね、記録してきました。プロポーズの言葉、妊娠が分かった日、変化していく体、そして、母になった瞬間…。子守唄を歌いながら、母子は爆撃のとどろく夜を越えていきます。

▶︎ワアド・アルカティーブ監督のインタビューはこちらから
人との確かなつながりで、私はどんな武器よりも強くあれる -映画『娘は戦場で生まれた』ワアド監督インタビュー

■ ショートムービー:「Bawka」(パパ)

15分ほどの短い映像ではあるものの、初めて観たときの衝撃は忘れません。描かれているのはクルド人と思われる親子二人が、安全を求めてヨーロッパへと逃れていく道のりです。「パパ」の最後の決断は、何度繰り返し観ても、心の底から引き裂かれる思いになります。

映画の中ではフランスのサッカー選手、ジダンの写真が象徴的な存在として登場します。ジダン選手はアルジェリアの少数民族出身の両親を持つため、「北アフリカ移民の星」とも称されていました。「お前もきっと、こうなれる」。異国出身であっても、いつかはその国で活躍するまでになれるかもしれない、という父の願いはその後、届いたのでしょうか。

衝撃だったのは、この映画が作られたのは2005年ということです。15年の月日が経ち、世界はそれから、変わったのでしょうか。

■ 児童書:「明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち」

ナチスの手を逃れドイツからキューバへと渡ろうとしたヨーゼフ、自由を求めキューバからアメリカへ海を越えようとしたイザベル、内戦で国を追われシリアからドイツへと旅を続けるマフムード。違う時代に生きる子どもたちの人生が、「明日」をキーワードにして交わっていきます。3人は本来、学校に通い、親しい友人たちとふざけ合い、好きな音楽を楽しんでいた世代でしょう。

主人公たちが歩んだ道のりは、私たちが期待するような“ハッピーエンド”ばかりではありません。美談でもありません。それでも、時には自らを犠牲にして、誰かの明日を守った人々の姿がそこにはありました。

日本に生きる、様々なルーツの人々

昨年アメリカでは、「BlackLivesMatter」という言葉が掲げられ、人種差別に対する抗議活動が全土で行われました。一方、「日本はそこまで酷い差別はないのでは」という声を耳にすることがあります。大切なのは「私の周りで差別を見たことがない」=「他の人のところにも存在しない」ではなく、気が付いていないだけで私の周りにもあるかもしれないし、他の場所でもあるかもしれない、という想像力です。

今年3月に名古屋出入国在留管理局の収容下で亡くなったスリランカ出身の女性、ウィシュマ・サンダマリさんの事件や、入管法改定案に対する市民の声の高まりなどは、日本でもそうした差別が構造的に埋め込まれているということを示しているのではないでしょうか。

そうした差別・排除について考える際に、ヒントをくれる作品を紹介します。

■ ドキュメンタリー:「エリザベス この世界に愛を」

日本では、外国人の方々が無期限に入管施設に収容されてしまう現状があり、こうしたことが拷問にあたるとして、国連などから再三勧告を受けてきました。自身も収容された経験がある、ナイジェリア出身のエリザベス・アルオリオ・オブエザさんは、入管収容施設に17年間通い、収容者と面会して勇気づける活動を続けています。昨年6月、3年7カ月収容されていたナイジェリア人男性が長崎・大村の入管で亡くなりました。彼はなぜ、亡くなったのか…エリザベスさんの視点から見えてくる入管や収容を巡る現実から、日本における差別・排除の実態が浮かび上がってきます。

■ 漫画:「バクちゃん」

主人公は「バクの星」から移り住んできたバクちゃん。読み進めていくと、日本に暮らす移民や難民の方々のことを伝えているのだと分かります。柔らかく、時にはユーモラスにそれぞれのキャラクターを描きながらも、「まず身分を証明するものは?」「住所はどうやって得る?」「携帯電話はどう契約する?」「仕事は見つけられるの?」と「異国」で生きる人々の前にどんな壁が立ちはだかるのかもしっかり描いています。「二世」として日本に育つ若い世代の葛藤や、難民と思われるおばあちゃんの言葉には、思わずぎゅっと胸が締めつけられました。中高生にもおすすめです。

■ 音楽:ジャグラーちゃんへん.さんのラップ

ジャグラーのちゃんへん.さんの半生は、記事でも書かせてもらいました。「朝鮮人」であることで小学校で受けた壮絶ないじめ、「韓国籍を取りたい」というちゃんへん.さんに祖母が涙目で叫んだ言葉、そこから見えてきた戦争の理不尽さ、「結局、何人なの?」というカテゴライズに耐え兼ね飛び出したルーツを探る旅…。印象的だったのは、旭日旗を片手にヘイトデモに参加しようとする青年たちに声をかけたときの話です。「俺、朝鮮人なんやけど」と声をかけ、飲みに行き、「韓国料理、美味しい」という共通点が生まれたそう。その後その青年は、朝鮮半島を旅し、なんと一人は韓国に移住したのだといいます。

YouTubeにアップしているラップの中でも、祖父のことを歌った「Ghost Blues」は印象深い一曲です。10代で戦争に巻き込まれ、日本で生き抜いてきた祖父の言葉、その一つひとつが突き刺さります。

ちゃんへん.さんの著書『僕は挑戦人』(ホーム社)もオススメです。

                  

一部の切取られた言葉と数字だけでは、人の感情の揺れ動きまでは中々伝わりません。そこに想像力を及ばせてくれるのが、カルチャーの力なのだと思います。是非みなさんも上記の作品など、様々なカルチャーから、難民問題、差別や排除の問題について考えてみてください。

      

(2021年6月 / 写真・文 安田菜津紀)
※本記事はCOMEMOの記事を一部加筆修正し、転載したものです。


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