安田菜津紀および在日コリアンに対する差別投稿裁判の進捗について―次世代に問題を繰り越さないために
2020年、Dialogue for Peopleの公式サイトに、安田の執筆した記事『もうひとつの「遺書」、外国人登録原票』を掲載したところ、それに関連してTwitter上で差別コメントが投稿されました。
そうした書き込みのうち、発信者情報開示請求の裁判により2件の発信者を特定できたため、2021年12月8日に、この2件(【案件①】【案件②】)について東京地方裁判所に訴状を提出しました。提訴会見の様子は下記記事を参照ください。
どちらのケースも慰謝料195万円を請求すると共に、本件投稿が単なる侮辱ではなく、人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法に該当する差別による人格権侵害であることの認定を求める訴訟として進めてきました。
そのうち【案件①】は2022年5月に条件付き和解が成立、そして本日(2023年6月19日)、【案件②】の判決が出ました。今回はその2件の訴訟につきまして、簡単にではありますが報告いたします。
※以下、訴訟内容の説明のために差別文言を記載しておりますのでご注意ください。
Contents 目次
【案件①】の報告
被告:西日本在住の男性(30代)
書き込み内容:
《密入国では?犯罪ですよね?逃げずに返信しなさい。》
当初情報開示請求したところ、西日本在住の女性の契約しているインターネット接続端末であることが判明しましたが、書き込みを行ったのはその女性の配偶者の男性でした。提訴後、被告代理人弁護士より「投稿した事実は認める」「被告は深く反省しているため和解を提案する」と連絡がありました。 こちらとしては、差別が法的に許されないということを提言するための訴訟と捉えており、和解ではなく判決まで進みたいと考えておりました。
ところが裁判所から強く和解を勧められたこともあり、せめて和解という形の中でも何か意味のあることをできないかと考え、被告にカウンセリング機関が提供する「加害者プログラム」の受講を義務付ける和解案を提出しました。
こちらの「加害者プログラムの受講」という条項に対し、不履行の場合は違約金を課すという条項も記載しています。被告が口先だけで「受講する」と言い、実際には不履行となる恐れを回避するための条項でしたが、被告は和解成立後、事前の通達もなく「違約金」を振り込んできたため、 結局受講には至りませんでした。
加害者が自身の加害と向き合うことの難しさを感じるとともに、本来であれば包括的な差別禁止法や独立した人権機関の創設などにより、被害者本人が民事で申し立てずとも、救済措置がとられることが求められているでしょう。
【案件②】の報告
被告:西日本在住の男性(年齢不詳)
書き込み内容:
《在日特権とかチョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか?嫌韓流、今こそ韓国に謝ろう、反日韓国人撃退マニュアルとか読んでみろ チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ》
会見当日(2023年6月19日)に判決が出たものです。結果としては、裁判所は上記の書き込み内容を「差別的な表現」だと認めたうえで、慰謝料の算定に関しても、《差別的な表現を用いた上で在日コリアン二世である原告の父親のみならず、その子である原告をも韓国にルーツを有することを理由に「お前」などと指称して侮辱するものであり、本件投稿によって原告が受けた精神的苦痛を軽視することはできない》とし、被告に33万円の支払いを命じました。
本判決では、下記のように「差別」そのものの暴力性にも触れています。下記に判決文の一部を引用します。
差別的言動解消法の前文において「不当な差別的言動は許されない」とされ、また、人種差別撤廃条約4条において「締約国は〔中略〕差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する」と定められていることなどに照らせば、上記のような差別的な表現を用いて原告を侮辱する本件投稿は、社会通念上ゆるされる限度を超える侮辱行為であると認められる。
次世代に問題を繰り越さないために
今回の訴訟を通し、たくさんの方に心を寄せて頂きました。改めまして、D4P一同感謝申し上げます。ヘイトスピーチ(ヘイトクライム)は決して許されるものではないということを強く訴え、これからの共生社会に向けて、包括的な差別禁止法の成立や、救済機関設立の一助となればと願っています。
(2023.6.19 / 文・佐藤慧、 写真・田中えり)
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