【イベントレポート】「占領の歴史と世界のいま D4P Report vol.6 年末活動報告会2024」(2024.12.8)
12月8日(日)、「占領の歴史と世界のいま ~D4P Report vol.6 年末活動報告会」をYouTubeLiveにて配信しました。2024年も「人権」や「加害の歴史」をテーマに、世界各地の問題の取材・発信を行いました。また、2024年にD4Pは設立5周年を迎え、イベント等新たな取り組みにも力を入れてまいりました。本配信では、国内外の取材発信を中心に、Dialogue for Peopleの2024年の活動をお伝えし、最後には、今後の展望として2025年の活動についてもお話しさせていただきました。
さまざまな媒体を通した発信事業
2024年、D4Pでは、53本のWEB記事投稿、58本のYouTube取材動画投稿を行いました(2024年11月末時点)。また2024年はD4Pのサイトのリニューアルも行い、おかげさまでご好評いただいております。
他にも、Youtube動画の中でも柱となっている毎週水曜配信『Radio Dialogue』では、2024年も様々なゲストをお迎えすることができました。
1月17日の配信回では災害社会学、減災コミュニティ論、災害復興論などが専門の田中純一さんをお招きし、元日に発生した能登地震に関して、現地の様子や足りていないものなどを発信していただきました。直後に佐藤と安田が現地入りした際にも、田中さんには輪島や七尾を同行いただいています。「自然災害の取材をずっとし続けているが、ニュースから消えたら震災は終わったのかというと、そうではない。むしろそこから先社会が立て直されていく時に、どういう支援が必要なのだろうかということをこれからも丁寧に見ていきたい」と佐藤は語りました。
アメリカ大統領選前の9月18日の配信回は、国際政治学者の三牧聖子さんと一緒に、トランプ氏とハリス氏、どちらを選んでもパレスチナの人々にとっては厳しい状態となってしまう情勢について考えていく時間となりました。安田は、トランプ氏が大統領に決まり、パレスチナの人々の意思がなかったことにされる政策が進められていくのではないかという危惧を示しました。
そして、WEB発信以外にも、他団体との連携やテレビ出演、PodCastなどを活用し、さまざまな媒体を通じた発信活動を行ってまいりました。
新たな挑戦としては、ドキュメンタリー映画『Not Just Your Picture』の上映会を行いました。こちらは2014年のガザ空爆で父や家族を殺されてしまった兄妹の映画で、D4Pが日本語字幕の制作を行い、7月に広島で上映いたしました。
また鎌倉の古民家ゆりいかにて、高橋美香さんとの写真展「パレスチナの猫」を開催しております。こちらは、猫を介して、日常をじわじわとすりつぶしていくイスラエルによる占領の実態を伝えようと企画しました。2025年以降も各地で巡回する予定です。
他にも、パレスチナでの取材の様子をフリーマガジン『Voice of Life』8号として刊行いたしました。
さらに、児童書『それはわたしが外国人だから?日本の入管で起こっていること』が書籍となりました。第4刷が決まり、たくさんの方に手にとっていただけていることに感謝申し上げます。
若手発信者発掘育成事業に関わるイベントの開催
次世代の発信者を育成するために行ってきた D4Pの【若手発信者育成事業】として、10月にオンラインイベント『メディア発信者集中講座』を開催いたしました。
今年の『D4Pメディア発信者集中講座』 は、6つの講義と参加者同士のシェアリングを合わせた2日間のプログラムとなり、国外からもご参加いただきました。本イベント終了後には、参加された皆さんからたくさんのご感想をいただきました。イベントレポートもございますので、よろしければそちらもご覧ください。
国内における取材事業
2024年も、D4Pとして継続的に取り組んできたテーマや地域で取材を続けることができました。
今年は水俣病に関して、患者・被害者団体と大臣との懇談会の最中にマイクが切られてしまった事件や、社会福祉法人グロー、そして同法人の元理事長によるセクハラ・パワハラの民事裁判、群馬県桐生市の生活保護をめぐる信じがたい運用の発覚、差別発言を浴びた母子に対する警察の不当聴取に関する裁判などの、公権力の不作為ととれる出来事を取材・発信しました。また「被爆者」と認められずに救済を分られてしまった「被曝体験者」の訴訟が続く長崎や、戦争で激戦が繰り広げられた南部の土砂が、辺野古の新基地建設に投入されようとしている沖縄においても、司法の問題、行政の問題などが多重に問われる場面で闘う人びとの声を届けてきました。
報告の中で安田は「なぜ未だに苦しんでいる当事者の人たちが声をあげ続けなければならない状況があるのかというところが政府の視点から抜け落ちてしまっている」と語りました。また佐藤も、セクハラ・パワハラの民事裁判の取材の報告の際に「人権感覚をアップデートできていない人々が権力を持った場についていることによって、周囲がそれを黙認してしまう。それによって被害が明るみにならなかったり、その被害がずっと継続してしまったり、あるいは被害を受けている本人が自分が悪いのではないかと思わされてしまう」という問題を提起しました。
他にも、「うさぎの島」として観光地となりながらも、毒ガス製造の歴史を伝える広島県大久野島へ取材に赴きました。この島は敗戦直前に日本軍によって毒ガス兵器が作られていた拠点であり、何が作られるのか十分な説明されないまま動員されていった人たちがいました。運搬や製造に携わった人たちは今でも後遺症に苦しんでおり、また戦時中だけでなく戦後においても毒ガスに触れ障害を負ったり命を奪われたりした人びとが後を立たないという現状がある中、日本政府の加害の責任に十分向き合ってきたとは言えません。
だからこそ、単に観光として消費するのではなく、「加害の歴史ってなんだろう」「私たちが未来に手渡さなければいけない過去の歴史ってなんだろう」と受け止める場としても、多くの方に訪れてもらいたい場所であると安田は投げかけました。同時に佐藤も「なんとなく表面だけ固めて“なかったこと”にされているものがたくさんある。この大久野島のような場所はまだまだたくさんある。そして、そこから学んで社会のアップデートに活かさなければならないものが多くあるんだと気付くような取材だった」と振り返りました。
また、これまでも取材してきた福島県大熊町では、東日本大震災で亡くなった次女の汐凪さんの遺骨を捜索してきた木村紀夫さんが、ガザへの連帯の印として町の帰宅困難区域で凧揚げをするという場に立ち会いました。実はガザでは毎年3月に東日本大震災の復興を記念して凧揚げが続けられていたのですが、今度は日本から、ガザでの戦闘の停戦・終結および日本政府の行動を求める意志を示して、全国で「凧揚げアクション」が呼びかけられました。木村さんも地元の方に凧揚げの呼びかけを行い、地元の人々が帰宅困難区域に戻ってくる契機にもなりました。「誰かの犠牲を前提にするような社会ではない未来を築いていこう」、という木村さんが代表理事を務める大熊未来塾の思いも、この凧揚げというガザへの連帯に込められました。
国外における取材事業
そして、国外での取材事業としては、パレスチナ、ドイツ、東ティモールでの取材について報告いたしました。
まず安田から2023年12月から2024年1月にかけて取材したパレスチナについてお話ししました。ガザ地区以外のヨルダン川西岸地区でも繰り返されている、イスラエル軍からの攻撃について取材を行いました。ガザでの熾烈な虐殺は1日でも早く止めなければなりませんが、残念ながら自治とは名ばかりの占領下で虐げられているのはガザに限りません。西岸各地では軍だけではなく「入植者」たちによる襲撃も相次いでいます。土地との結びつきがとても深いパレスチナの人々。ある男性は「土地を奪われてしまうということは、自分から魂を抜かれるようなもの」と語りました。国際社会からどんな連帯の声を届けることができるのかが、一つの大きな鍵となります。
そんなパレスチナを考える上で動きが気がかりなのが、4月に取材を行なったドイツです。ガザに対する軍事侵攻が起きた後も「イスラエルを守るのがドイツの国是である」と、アメリカに次ぐ軍事支援を送ってきました。現地では、祖母がホロコーストのサバイバーだというユダヤ人の方への取材の中で、パレスチナへの連帯を示した人に対して「反ユダヤ主義」だとレッテルを貼るドイツ社会のねじれを感じました。公正な社会が問われるドイツ社会は大きく揺れ動いています。このパレスチナとドイツの問題は、非常に複雑な国際政治の話に思えるかもしれません。しかし、人がそこで殺されていることに対してどうするのかという問題を、私たちは突きつけられているのです。
また、佐藤から東ティモール取材に関して報告いたしました。長らく戦乱の歴史にあった国であり、古くは16世紀から香辛料を求めて列強に植民地にされていました。第二次大戦中には日本軍が占領しており、山には構築壕、海岸にはトーチカなど、日本軍が現地の人々を強制労働させて造らせたものが、今なおそのままの形を保ちながら残っています。オブロという村では、日本軍の慰安婦であったという証言を語る女性に取材を行いました。日本は戦争によって先進国の仲間入りを果たそうとしていましたが、その実態は土地を戦場にし、そこに暮らしていた人をまるで軍事物資かのように都合良く使うというものでした。
こうした太平洋戦争の証言を肉声で伝えていくというのは、今後5年10年で難しくなっていくことから、今年D4Pは「加害の歴史を伝える」ためのプロジェクトを始めました。他の地域などでもこうした記憶・経験を語り継いでいくことで、二度と未来への道を踏み外すことがないように学びを伝えていきます。
質疑応答
またたくさんのご質問を参加申込時のフォームやYouTubeのチャット欄を通してお寄せいただき、その中のいくつかにお答えしました。こちらではさらに4つに絞ってご紹介いたします。
まず、何人かの方から「私たち一人ひとりが国際社会に対してできること」そして周囲へのニュースの関心の広げ方についてご質問をいただきました。「会話のきっかけを作るというところから始めるのが良いのでは」と、安田は報告会で身につけていたシリアで作られた寄木細工のピアスを見せながら、日常使いできるものを身につけ紹介することで、ハードルが高いと思う人に対してのとっかかりになり、心の距離を縮めるきっかけになるのではないかと答えました。
また、ドイツの旧植民地への歴史の向き合い方についてのご質問をいただきました。これに関して安田は、ドイツが加害の歴史に向き合うための模索を続けてきたことは事実としながらも、例えばシンティ・ロマへの補償は遅れたと言われているように、ホロコーストの歴史を伝えるという中にも眼差しの格差があることを指摘しました。また、ドイツ帝国時代にナミビアを植民地支配した際に少数民族を虐殺していますが、それを認めて謝罪したのは2015年になってからである点を示しながら、本当に正面から加害の歴史と向き合っているのか疑問符がついてしまうと語りました。しかし同時に、日本の加害への向き合い方に関しても疑問を投げかけ、佐藤もその日本の姿勢に対する危機感を伝えました。
これまでの取材先での食に関するご質問もいただきました。佐藤は韓国でよく食べるごま油と塩の味付けがされたおにぎりについて話し、「食から広がる多文化への興味関心というのはとても大切なものだと思っている」と語りました。また、D4PではFrom KITCHEN to the WORLDというシリーズの動画の中でパレスチナのクナーファというお菓子を紹介しておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
そして難民となっている方へのメンタルケアについてのご質問をいただいた際には、佐藤から「グリーフケア」の紹介をいたしました。イラクの北部でグリーフケアを続けている方のお話を挙げながら、「戦争はどこかで終わって、それで負の影響がなくなるわけではない。そこで失われてしまったもの、心の中に残っている傷、具体的に何かが欠損してしまったという経験であったり、そこに残っているグリーフ(悲嘆)には何十年かけて向き合っていかなければならない。現地でケアを続けている方は、ケアの輪をどう広げていくかという視点で活動されている」と語りました。そして安田も「これは決して海の向こうで起こっている話ではなく、もしかしたら私たちのすぐ隣にいる人たちが、すぐ隣で抱えている問題かもしれないという視点で発信を続けていきたい」と話しました。
2025年の活動について
報告会の最後には、2025年の活動についてもお話しいたしました。報告の中でも紹介した『メディア発信者集中講座』については、2025年第5回を開催する予定です。また海外取材につきましては、これまでも軸足を置いてきた中東、ヨーロッパ、東アジアで行う予定です。現在進行形でシリアや韓国をはじめ世界の情勢が動き続けており、今後の予想が難しい状態ですが、これからも人権を土台としながら取材を続けていきたいと考えております。さらに、リスナーの皆さんとともに歩んできた、毎週水曜配信『Radio Dialogue』が2025年に200回目の放送を迎える予定です。今後も人権を基軸ににさまざまなゲストをお呼びしてリスナーの皆さんと考えてまいります。
また、福島県大熊町の木村紀夫さんと、沖縄で戦没者の遺骨収集を続けてこられた具志堅高松さんの交流をまとめた書籍も刊行予定です。またお二人がガザに心を痛めさまざまな関わりを持とうとしてこられたことから、この本ではパレスチナで向き合った声も一緒にお届けしたいと思っております。詳細が決まりましたら、またご報告させていただきます。
「みなさまからのご寄付をいただいて活動していると、多くの人たちと一緒に、支えられながらチームとしてやっているということを実感として感じます」(佐藤)「ここであれば安心して持ち寄れるかなという、そういう拠点としても機能していけたら」(安田)
2024年も様々な問題に焦点を当て、人々の声に耳を傾けながら、取材・発信を続けることができました。改めて、いつも関心と温かいご支援をいただき、本当にありがとうございます。これからも、皆様と前に進んでいけましたら幸いです。
現在も世界各地では目まぐるしく様々な問題が起き、悲しいニュースや声も届きますが、Dialogue for Peopleでは一人ひとりの人権を大切に、取材・発信を続けてまいります。今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。ご視聴頂いたみなさま、誠にありがとうございました。
(2025.1.14/文 Dialogue for People インターン 松本和)
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