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宗教右派が政治に及ぼす影響とは―斉藤正美さんインタビュー

斉藤正美さん『押し付けられる結婚——「官製婚活」とは何か』(2025年11月発行、新日本出版社)(佐藤慧撮影)

10月に発足した高市政権では、旧統一教会との関係が指摘される政治家が複数登用されています。旧統一教会のような「宗教右派」とはどのようなもので、日本の政治にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
旧統一教会と政治、ジェンダーの関わりを調査している斉藤正美さんにお話をうかがいました。

斉藤正美さん(本人提供)

自治体が推進する「官製婚活」

――今年10月、岩手県がホームページで公開していた婚活支援に関する冊子にて、異性に好印象を与えるための服装などが男性編と女性編に分けて記載され、女性編ではスカートやワンピースを着て「可憐な雰囲気」を演出することがよしとされるなど、固定的な性別役割を推奨する内容に批判が集まり、公開取りやめとなりました。これについて斉藤さんはどう思いましたか?

なぜ今これが炎上したのかと、少し驚きました。同じようなものは以前からあり、どの自治体もやっています。

岩手県の場合も含めて自治体の婚活支援の大半は、民間の婚活支援事業者が行っています。私たちの税金が使われているのに、あまり成果は上がっていません。

自治体が業者に丸投げし、情報漏洩が懸念されるケースもあります。支援を受ける際に年齢や収入がシステムに登録されるのですが、お互いの顔が見えるような地域では匿名性を確保できません。そのために登録を嫌がる人もいます。

岩手県の冊子がSNSで問題にされたのは、「女性らしさ」や「男性らしさ」といった性別役割の固定化という点でした。それに共感するコメントも多くありました。 しかし、なぜ性別二元論や性別役割の固定化という観点でこれが取り上げられるのか、不思議な感じがあります。婚活の根源的な、構造的な問題はもっと別のところにあるのではないでしょうか。

――こうした官製婚活の問題は、プレコンセプションケア(公的受胎前ケア)ともつながるテーマですね。

性・生殖・家族を重視する宗教右派

――そもそも「宗教右派」とはどのような集団を指すのでしょうか?

自分たちの保守的な信仰や価値観を持っており、それを政治に反映するために、市民として積極的に活動している人々や団体を宗教右派と呼びます。

宗教右派の人々の考え方には、家庭や家族を重視するという共通点があります。それはジェンダー平等やLGBTQの権利擁護に反するものです。

宗教右派にとっては、男と女が結婚して家族を持ち、そこで子どもを産み育てることがとても重要です。「性・生殖・家族」という3つを重視しています。

彼らが性教育に反対するのは、結婚するまでは性的な関心を持つのはよくないと考えているためです。

――安倍政権下では、性教育や「過激なジェンダーフリー」と彼らが呼んだものが酷くバッシングされました1。それに積極的に加わっていた人たちが、今の自民党で幹部に登用されています。いわゆる保守と呼ばれる政治家や有権者と宗教右派は、どのように異なるのでしょうか?

保守というのは一般に、国家や公の秩序、伝統、歴史、文化などを重視する考えです。それに対して宗教右派は、特に「性・生殖・家族」を重視します。言い換えれば、ジェンダーとセクシュアリティに強い関心を持っている人たちです。

たとえば宗教右派のひとつである旧統一教会は、ジェンダー平等に反対ですし、中絶やリプロダクティブ・ヘルス/ライツ * という考え方にも反対しています。同性愛や同性婚、トランスジェンダーの権利にも反対です。

こうした考えを持つ宗教右派は、フェミニストとは対立する関係です。ただし憎み合っているわけではないので、私も調査で会うときは普通に話をします。考えが全く違うからこそ、お互いに関心がある面もあります。

* セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)とは、自分の体・性や生殖について、誰もが十分な情報を得たり、自分の望むものを選んで決めたり、そのために必要な医療やケアを受けたりすることができる基本的人権である。英語の頭文字を取って「SRHR」とも呼ばれる。(参考:公益財団法人ジョイセフ「SRHRの定義を知ろう」

――旧統一教会と政治の問題については、安倍元首相銃撃事件の公判も注目されています。本件の被告が安倍元首相を銃撃した背景には、旧統一教会との関係があると指摘されていますが、この事件が浮かび上がらせた構造的な問題をどのように受け止めていますか?

銃撃事件の被告の裁判と同じタイミングで、韓国では旧統一教会の総裁・韓鶴子(ハン・ハクチャ)の裁判が行われています。

韓国の状況を見ると、政治家と宗教団体の間に癒着や金品のやり取りがないかなど、検察庁が調査し究明しようとしています。

一方、日本は安倍元首相が銃殺されるほどのことがあったにもかかわらず、自主申告によるアンケート調査しか行われず、構造的な問題が何も明らかになっていません。政治家個人や政党や政党支部として旧統一教会から選挙支援を受けたり日頃から政治的な活動を共にしたり、献金などによるサポートを受けてきたか、それは政策にどのような影響があったかなどその構造的なつながりを明らかにする第三者による調査は全くなされていません。

その一方で高市政権は、旧統一教会と関係のあるNHK党と協力関係を持ったり、旧統一教会との関係が指摘されている政治家を要職に登用したりしています。 政治家と教団との関係は、政治と金の問題にも関わります。それからジェンダーや性教育、LGBTQの権利擁護の問題など、政策がどう歪められてきたのか否かも、明らかにすべきです。しかし何も究明されていないのに関係が元に戻ろうとしていて、私は非常に憂慮しています。

バックラッシュと性教育の歯止め規定

――宗教右派によって展開されたジェンダー平等へのバッシングについて、どんな点に注目してきましたか?

バックラッシュでは、女性のリプロダクティブ・ライツがひとつのターゲットになりました。子どもを産むか産まないか、誰と結婚するか、誰と性的な関係を持つか、あるいは結婚をしない、性的な関係を持たないのかという、そういうことを自分で決められる権利がリプロダクティブ・ライツです。

自民党の山谷えり子議員は2003年に、リプロダクティブ・ヘルス/ライツをわかりやすく説明した、厚生労働省の委託で制作された中学生向け性教育冊子『思春期のためのラブ&ボディ BOOK』を「過激な性教育」冊子だというキャンペーンを展開し、自主回収させるなどして性教育を委縮・後退させました。それ以降、今でも性教育には歯止め規定 * が生きています。

* 性教育の歯止め規定とは、受精や妊娠の経過について小中学校で取り扱わないことを定めた、学習指導要領の規定のこと。

元々性教育が十分でないところに加えて、「若いうちに子どもを産んだほうがいい」「高齢出産だと妊娠しづらい、健康な子どもを産めない」という脅しのようなメッセージを少子化対策の政策として発信しています。

早く母親になること、子どもを持つことを組み込んでライフプランを立てることを、思春期の子どもに対して、政策として教育しているのです。私はこれを、思春期世代を対象にした出産奨励策だと思っています。

こうした大きな流れのきっかけになったのが、2000年前後のバックラッシュだと考えます。

斉藤正美さん『押し付けられる結婚——「官製婚活」とは何か』(2025年11月発行、新日本出版社)(佐藤慧撮影)

――大きな流れのバックラッシュだけではなく、各地方においても宗教右派の活動が浸透してきたことが、斉藤さんの著書からも浮き彫りになっています。拠点にしている富山県では、どのような問題が起きてきたのでしょうか?

私たちの調査と、富山県のテレビ局の調査報道から、いろいろなことが明らかになりました。

富山県では旧統一教会そのものとしてではなく、関連団体として政治的な活動をしているのですが、まずは選挙で応援するということで政治家に近づいていくようです。

それからお花見会、政治家の誕生会、クリスマス会などのイベントを次々と開催したり、また政治家を講師として招いてセミナーを開催したり、イベントでは政治家のための貴賓席を用意したりもしていました。本当にこまめな活動で、政治家との密な関係をつくっていました。

2022年に当時の岸田首相が旧統一教会との断絶を宣言したあと、「失業と失恋を味わったような気持ちだ」と言った人もいました。それほど、政治活動を日々熱心にしていたということです。信仰に基づいて活動しているので見返りを求めず、政策が実現するように熱心に働きかけをしているということだと思います。

――斉藤さんの著書の中で、富山県の男女共同参画推進員制度に、旧統一教会系メディア『世界日報』の編集委員が3年間参加していたことが指摘されていました。このような政治への接近の仕方があるのだと驚いたのですが、これについてもう少し教えていただけますか?

推進員の活動は、教団としてではなくあくまで個人的な関心で行っていたそうです。自分が批判的に見ている男女共同参画制度がどのようなことをやっているのか、実際に現場に入って見てみようと思ったということでした。熱心ですよね。

宗教団体の人なので人間関係をつくる力も大いにあり、周りから信頼されてリーダーになって、自分の思うことがやれたようです。推進員の活動で行った寸劇では、シナリオ作りもしていたそうです。

――「子どもがたくさんいるほうがいい」などの主張を寸劇に盛り込んでいたそうですね。ジェンダー平等とは逆行する主張を推進員の立場ですることができてしまうのは、男女共同参画事業が形骸化して入り込む余地があったのだと言うこともできるでしょうか。

まさにその通りで、男女共同参画というのは、誰が入ってきてどういう方向にでも行けるような、ポリシーがないものになっていることの方こそ大きな問題だろうと思います。だから、寸劇を一緒に作る、演じるといったことを「男女が共に参画する」活動とみなしているところもあるようです。そうしたことを行政の担当者が承知しながら指摘しないことにも問題があります。

政治に関心を持ち、政治活動を日課にする

――宗教右派が特に近年激しく矛先を向けてきたのがトランスジェンダーの人々だと思います。この点についてはいかがでしょうか?

地方ではトランスジェンダーを攻撃する活動は、あまり目立ってはいないように思いますが、ネットなどではひどいことになっています。

宗教右派のキャンペーンでは、同性愛は「治療できる」とするなど考えられないような人権無視の考えを広める活動もありました。また、女子大がトランスジェンダーの入学を認めることが話題になると、「トランス女性がスポーツだけでなく、女子トイレや更衣室などの女性専用施設を利用するようになる」とあえて恐怖を煽るなど、社会全体がトランスジェンダーに関する知識が乏しいことに乗じてトランスジェンダーへ偏見を植え付けようする差別的な動きも少なからずあります。

こうした動きは、私たちがトランスジェンダーの人たちについてよく知らないことを利用するもので、宗教右派らによる世界的な「反ジェンダー運動」の一環として行われています。

――そうした中で発足した高市政権では、宗教右派に非常に近いとされる政治家が登用されています。この人事について、特にどのようなところに注目していますか?

高市さんが自民党総裁に選ばれたのは、(宗教右派団体のひとつである)日本会議の地方議員の党員票を特に多く得たためです。日本会議が総力を挙げて応援したようで、その貢献が大きく影響したようです。

ですから、高市さんは日本会議が求める政策の実現に力を入れるのではないでしょうか。高市さん自身も、1997年の創立時から日本会議のメンバーで、「参加していることを誇りに思う」と発言したことがあります。

今回の人事で、日本会議の要職に就いている人が自民党の幹部にもなりましたし、日本会議のメンバーが多く入閣しています。

高市さんの政策の中でもジェンダー関係で私が危惧しているのは、まず男系の維持を絶対とするよう皇室典範を改正しようとしていることで、日本の象徴である天皇が男でなければならないと考えていることです。そのために養子縁組まで想定されているそうです。

それから、夫婦別姓は絶対に認めず、旧姓を通称使用する法律をつくろうとしていること。同一戸籍の人は同一の氏でなければならない、それが家族の形だと考えているからです。

今の戸籍制度では、婚姻によって新たな戸籍を作ります。夫婦同姓となる「同一戸籍同一氏」の原則によって成り立つのが家族とされ、結婚で名乗る側の姓が家族の姓となるというルールです。今は(婚姻時に)95%の女性が男性の姓を選んでいます。それを改姓しなくとも夫婦となれるようにしようというのが選択的夫婦別姓です。

しかしそれでは家族の名前というものがなくなり、夫婦でもバラバラの個人の集まりになってしまう、一つのまとまった姓のもとにあるのが家族だというのが、夫婦別姓に反対する保守派のロジックです。

絶対に天皇は男性でなければならないというのが、高市さんや日本会議の主張です。その延長として家族のトップも男性でと考えているから選択的夫婦別姓も認めないわけです。

それから、高市さんが総裁になってすぐに日本維新の会との政策合意書が発表されました。その政策合意書でも「皇室・憲法改正・家族制度など」という箇所に、皇室典範の改正と通称使用の法制化が一緒に入っていて、両者はつながっています。

皇室典範を変えてまでとにかく男を上に立てる、そういう価値観を強く感じさせる政策合意書でした。

女性の高市さんが政治のトップになりましたが、男性がトップという構造は変わらない。トップが女性になったから政治が変わるかもしれないと言っている人がとても多い印象で、高市さんの存在が目眩ましになっていることが怖いです。

――選択的夫婦別姓、同性婚、包括的性教育など、進まないどころか逆行していくことが危惧されます。今後予想される傾向には、宗教右派の影響もあると考えられるでしょうか?

高市政権は日本会議の支援を受けて総理になっていますし、日本維新の会や参政党、日本保守党、NHK党も日本会議と連携しています。

宗教右派の人たち、特に本当に宗教を信じている人は真面目に活動をしていて、保守的な考えを政治に反映させようという強い意志と熱意を持っています。それに連携している政治家も、同じように保守的な考えを持っているので、相乗効果で影響が出そうです。

今の政治体制は強力で、物事が速く進むだろうと思います。維新との政策合意書には、今年の臨時国会でやること、来年の通常国会でやることがそれぞれ具体的に書いてあり、読むと危機感が募ります。

――懸念されていることのひとつに、スパイ防止法の制定があります。これは旧統一教会が長年推進してきた政策で、高市政権で制定が進められるだろうと思います。

高市さんは総裁になった前後に、旧統一教会のことは何も知らない、関連団体である勝共連合の名前も知らないと言いながら、総裁である韓鶴子の名前は知っていて、非常に矛盾していました。

スパイ防止法をつくろうと熱心な政治家が、同じくどこよりも熱心にスパイ防止法をつくろうとしている勝共連合を知らないのは政治家失格だというくらい、矛盾しています。調べたら嘘だとすぐわかるようなところで嘘をついて、政治家として信頼できないですよね。

憲法改正を掲げていて、その中で緊急事態条項がつくられてしまえば、政府が全権委任されることになります。権力を握って独裁に向かおうとする政策が、維新との政策合意書には書かれています。

国会議員の定数削減も、独裁につながるものです。比例代表の議席を1割減らされたら、少数政党は当選できませんから。政策合意書に書かれていることは、私たちの声が届かなくなるようなことばかりです。

それらが実現されたら日本の民主主義は壊れてしまう。かなり早い段階でそうなってしまうのではと危惧しています。

高市さんの支持率は、信じられないくらい高いです。特に支持しているのは20代から40代の若い人で、戦争の被害も加害も知らない世代です。

――危惧すべきことが多くありますが、私たち市民は何を知ってどういう風に向き合っていくべきでしょうか。

それは「宗教右派の人がやっていることを見習うこと」ではないでしょうか。

彼らはいろいろなところで政治活動をしています。毎日政治家に会いに行ったり、政治家と一緒に勉強会をしたり、とても地道にやっています。

私たちはその一部でもいいから見習って、政治に関心を持ち、自分たちの望む政治をつくるために活動をすること、一緒にやれることがあれば一緒にやりましょうという連帯の動きをいたるところでつくること、そういうことについては宗教右派からむしろ学びたいことです。

※本記事は2025年10月29日に配信したRadio Dialogue「宗教右派とは何か」を元に編集したものです。

(2025.12.23 / 聞き手 安田菜津紀、 編集 堀川優奈、伏見和子)

  1. 自民党の「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」(安倍晋三座長)は2005年に発足した。 ↩︎

【プロフィール】
斉藤正美さん(さいとう まさみ)

1951年富山県生まれ。富山大学非常勤講師。専門は、社会学、メディア研究、フェミニズム・社会運動研究。共著に『社会運動の戸惑い——フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)、『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)、『国家がなぜ家族に干渉するのか——法案・政策の背後にあるもの』、『まぼろしの「日本的家族」』、『宗教右派とフェミニズム』(いずれも青弓社)などがある。2025年11月、単著『押し付けられる結婚——「官製婚活」とは何か』(新日本出版社)が刊行された。

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