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入管が握る広範な裁量、強まる管理監視―永住資格に関わるガイドライン改定案の中身とは

2024年5月、国会前シットインで掲げられたプラカード。(安田菜津紀撮影)

在留期間や就労分野に制限のない「永住権」を持つ人々は、昨年末時点で約94万7千人いるとされている。ところが、税や社会保険料などを納めない場合などに、永住許可を取り消せるようにする法改定が2024年に成立、2027年4月に施行されることになっている。税や社会保険料の滞納が恣意的に「故意」とみなされ、永住権を奪われてしまうのではと、懸念の声があがってきていた。

また今年5月には「永住許可」の手数料上限を1万円から30万円へと大幅に引き上げる法案が成立し、10月に施行されるほか、「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」が作られ、「永住許可に関するガイドライン」もさらなる改定が予定されている。その問題点について、国士舘大学文学部教授の鈴木江理子さんに聞いた。



「一部の悪質な存在」を前提とする総論の歪み

──「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」案についてどのように受け止めていますか。

総論として大きな問題だと感じるのは、「一部の悪質な永住者」の存在を最初から前提としている点です。だから取り締まらなければいけない、と取り消しが正当化されています。わざわざそのように記述すること自体が、偏見や差別を助長しかねません。

──「取消事由に該当すると想定される主な事例」として、「在留カードを携帯しなかった場合」も挙げられています。「その一度の義務の不履行だけをもって在留資格を取り消すことは想定していません」とも記されていますが、「では二度目以降は該当するの?」と当事者から不安の声があがっています。

「うっかり」の二度目で直ちに取り消すとは思いませんが、どこまでが「うっかり」の範囲なのかは曖昧です。結局のところ、入管側が広範な「裁量」を保持していることを印象づける内容になっています。

仮に何度かうっかり忘れてしまった人がいた場合、入管が見るのはその不履行だけではないはずです。取り消しの「端緒」として使いつつ、過去の在留状況などそれ以外の部分を「総合的に判断」していくのだと思いますが、その判断がブラックボックス化してしまっています。

──「我が国の法やルールを逸脱する行為に対しては、公正かつ厳正に対処する」とされていますが、何をもって「ルール」なのかがあやふやです。

これまでであれば「重大な法令違反」などが線引きでしたが、曖昧な領域まで考慮されることになりました。近隣との些細なトラブルまで「ルールの逸脱」に含まれかねません。何がどう評価されるのか本人には分からない仕組みだからこそ、「常に規律正しく従順でいなければならない」「良き外国人でなければならない」と、抑圧にさらされ続けることになってしまいます。

──「永住権」を得ることは、当事者にはどのような安心につながっていたのでしょうか。

活動や在留期間など、制限のある在留資格で暮らしてきた当事者から、永住資格を得たことで、「ようやく一息つける」という声を聞いてきました。「少し収入が減ってもいいから身体を休めよう」「自分の好きなことを楽しみたい」「今後の生き方を考えよう」と。しかし今回の措置は、永住資格を得るハードルそのものを上げ、それを越えてゴールにたどり着いた後であっても安心させない、「気を抜かせない」ものになっています。



自治体職員を「管理・監視の網」に巻き込む構造

──永住許可後から改正法施行前の事案であっても、さかのぼっての取消事由に該当することも記されています。

法制度のあり方として極めて問題です。本来、不利益な規定を「遡及適用(過去に遡って適用)」することはあり得ないというのが原則です。それを外国人に対しては平然と行っています。

──ガイドライン案では、公務員や自治体職員による入管への「通報」についても触れられています。

退去強制事由については公務員の「通報義務」がありますが、24年の入管法改定で、在留資格取消事由に関して、義務とは書かれていませんが「通報できる」と新たに規定されました。

しかしガイドライン案を読むと、「通報することが望ましい」と書かれています。自治体職員と国とのパワーバランスから考えれば、この表現は事実上の「通報義務」あるいは「通報奨励」と受け取られるのではないでしょうか。

住民の個人情報や生活実態により近くで接しているのは自治体職員です。新しい在留管理制度が創設された2012年以降、市民や民間組織を動員した管理監視網が広げられてきましたが、さらに自治体職員を「活用」しようという意図が感じられます。



「国益レジーム」への大幅なシフト

──「永住許可に関するガイドライン」改定案では、「積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要」「公共の負担にならないこと」など「国益」がより強調されています。

国境管理には、人間としての権利を重んじる「トランスナショナルな人権レジーム」と、国家の都合を優先する「ナショナルな国益レジーム」の2つが存在します。本来、国家は両者のバランスの中で外国人政策を行うことになります。

従来、日本人などの配偶者や子どもの永住資格取得に関して特例があるなど、人権レジームに基づいた一定の措置が存在していました。しかし今回の改定では、居住年数要件の引き上げや「公共の負担」の考慮など、人権の観点からすれば大きく後退しています。(※)

(※)現在の要件では、原則として引き続き10年以上日本に在留し、この期間のうち、就労資格(「技能実習」「特定技能1号」を除く)または居住資格をもって引き続き5年以上在留していることが求められている。ただし日本人・永住者・特別永住者の配偶者と子については特例として、「婚姻3年」と「在留1年」で認めていた。改定ガイドラインでは、これがそれぞれ「5年」と「3年」になる。加えて、独立生計要件に関しても、日本人などの配偶者や子どもについては免除されていたが、改定ガイドラインでは、「公共の負担」を消極評価する可能性があることが示されている。

──「国益レジーム」にも関わると思いますが、ガイドライン改定案では原則として、日本人の世帯平均を上回る年収と、この年収で厚生年金に30年加入していた場合に受け取れる額の年金受給見込みに達していることを求めています。

現在だけでなく将来にわたって「国の負担にならないこと」の確約を迫るものです。

これは社会保障における「公助」の精神を否定するものです。「この国のメンバーであっても外国人である以上、公助は使わせない、一生自助で生きろ」というメッセージに他なりません。一部の高収入の層を除き、「永住を諦めろ」と言っているに等しい内容です。

たとえば国は、政策的に留学生の就職を促進していますが、永住を取得するのが難しくなってしまえば、就職も進まないですよね。



共に生きる社会のための「安心・安全」

──本来推進されるべき施策とは何でしょうか。

政府はよく「国民の安心・安全のため」と言いますが、同様に「外国人の安心・安全」も守られなければなりません。そのために不可欠な要素は、次の3点に集約されます。

(1)法的地位の安定化
非正規から正規へ、活動制限のある資格から制限のない資格(身分や地位に基づく在留資格)へ、在留期間の制限のある資格から制限のない資格(永住者)へ、法的地位を安定させていくこと。

(2)権利の拡大
法的地位の安定に伴い、社会保障や参政権などの権利を拡大していくこと(現実はむしろ後退が検討されています)。

(3)実質的な安心・安全
差別的取扱い、デマやヘイトスピーチに晒されない。そのための法整備をすること。

「外国人が優遇され日本人がないがしろにされている」という対立構造を作り出し、「外国人に厳格に対応すれば、日本人の不安や不満が解消され幸せになれる」という認識は誤りです。社会の中で安心・安全に暮らせない人がいることは、社会全体を結果として不安定にすることだと思います。

【プロフィール】
鈴木江理子(すずき えりこ)
国士舘大学文学部教授。NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク共同代表理事、認定NPO法人多文化共生センター東京理事、一般社団法人かながわ国際交流財団理事等を兼任。移民政策や人口政策、労働政策を研究するかたわら、外国人支援の現場でも活動。

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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