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知りえなかったガイドライン、自分たちにも適用なぜ?―「永住権」への高いハードル、「後だしジャンケン」のルール

在留期間や就労分野に制限のない「永住権」を持つ人々は、2025年末時点で約94万7千人いるとされているが、その在留資格を得るためのハードルは上がり続けている。
今年5月には「永住許可」の手数料上限を1万円から30万円へと大幅に引き上げる法案が成立、10月1日から施行される。政令により、実際の手数料は20万円と定められた。また、「永住許可に関するガイドライン」もさらなる改定が予定されている。
同改定ガイドラインでは「積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要」「公共の負担にならないこと」など「国益」がより強調されているほか、原則として、日本人の世帯平均を上回る年収と、この年収で厚生年金に30年加入していた場合に受け取れる額の年金受給見込みに達していることが求められている。
「さかのぼって」適用されるガイドライン
その上、申請時にはこの改定ガイドラインの内容を知りえなかった人々にまで、一部が適用されるのだという。どういうことか。
東南アジア出身のAさんは2000年代後半、出身国の会社の駐在員として日本に派遣されたことをきっかけに、配偶者と子どもたちと来日した。
「子どもたちは幼い頃から日本で長く生活し、日本の学校で学び続けたいと希望していました。子どもたちの将来を優先し、日本に残ることを決めました」
永住申請をできる在留・就労などの要件を満たす家族状況だったことから、2026年4月に申請をした。ところが──。
出入国在留管理庁は8月4日、「永住許可に関するガイドライン」の改定案を公表した。10月1日から適用されるものだが、先述の高い収入水準や、「国益要件」の「公共の負担にならないこと」は、2026年4月以降に申請し、かつ10月1日時点でまだ結果の出ていないケースにも「さかのぼって」適用するという。
「正直に言って、非常に不公平だと感じ、強い憤りも感じました」とAさんは語る。
「もし『4月1日以降の申請には、その後に公表される新しい収入水準が適用される可能性がある』と事前に知らされていれば、私たちは3月末までに申請することが十分可能でした。しかし、その情報は申請時には公表されておらず、知る方法もありませんでした。それに、申請者には審査期間をコントロールすることができません。とても納得することはできません」
「もし将来の新要件を事前に知っていれば、永住申請をするのか、申請時期をどうするのか、日本に残るのか帰国するのかなど、別の判断をした人もいるかもしれません。申請者の人生設計や経済的な選択にも大きく影響し得る制度変更について、十分な予告期間を設けず、すでに申請している案件にも適用することが公平なのか、強い疑問を感じます」
恣意的な「二重基準」
不可解なのが「二重基準」が適用されていることだ。
先述の通り10月1日以降、永住許可手数料は1万円から20万円へと一気に引き上げられるが、9月30日までに申請した案件については、改定前の旧手数料が適用される。つまり、手数料については「申請した時点のルール」が守られるのだ。
「少なくとも私自身は、20万円を支払うか、不許可となって支払わずに済むかを選べと言われたら、前者を選びます」と、Aさんは続ける。
「永住許可は、住宅、仕事、家族、子どもの教育、老後など、日本での将来設計そのものに関わる大きな問題だからです。手数料よりもはるかに重大な影響を生活や人生に及ぼす審査要件については、なぜ『申請した時点のルール』を適用しないのでしょうか」
「さかのぼって、ではない」と強弁する入管
この点について入管庁に問い合わせたが、「収入や『公共の負担にならないこと』などは、永住の判断に重要な考慮要素。ガイドライン改定後にも一律に従前どおりの審査を続けることは適当ではない」「10月1日以降に下される決定で参照されるのが新ガイドラインなのであって、『さかのぼって』とか『遡及』というとらえ方はしていない」とした。
新要件を知りえなかった人にまで適用することを「さかのぼって、ではない」と強弁するのはさすがに無理があるのではないか。
2026年7月許可分のデータでは、永住申請の処分(告知)までの日数は「310.2日」、つまり10ヵ月以上だ。こうした数値にもとづけば、4月以降の申請者の多くが10月までに結果を得られていない可能性がある。
国士舘大学文学部教授の鈴木江理子さんは、永住資格を得ることでもたらされる安定的な生活基盤の重要性を指摘する。
「今の仕事を失ったり、病気になったり、年をとって働けなくなったり、あるいは経済的に苦しくて仕事をかけ持ちすることになるかもしれないという不安を考えたとき、職種など就労制限のない在留資格を得ることは、将来の安心につながります。『技能』や『技術・人文知識・国際業務』など活動に基づく在留資格をもつ外国人にとって、就労制限のない在留資格を得る一般的な方法は、永住資格の取得です。それを困難にさせる国側の姿勢には、外国人が置かれている状況に対する配慮や想像力がなく、『居させてあげている』という発想が見てとれます」
「外国人にはしていい」という冷徹さ
実は不利益的な扱いを「さかのぼって」適用されたケースは、永住資格だけではない。
2026年4月から、日本国籍取得の要件が「厳格化」され、「引き続き5年以上日本に住所を有すること」という法律の条文は変わらないものの、運用によって「原則10年以上」の在留を求める。それを、この4月よりも前に申請した人々にも適用するとしたのだ。しかも運用「厳格化」の正式な公表日は、直前の3月27日だった。
「まるで後出しジャンケンのように、さかのぼって不利益を被らせるということは、本来あってはならないことです。それを、『外国人にはしていい、外国人に不利益を与えても許される』という冷徹さが見て取れます」と、鈴木さんは国による差別を厳しく批判する。
Aさんは改めて語る。
「日本で長期的に暮らすことを歓迎されていないように感じる時があります。率直に言えば、外国人であることによって差別的に扱われているような気持ちになることもあります。私は外国人に必要なルールや基準を設けること自体には反対していません。しかし、長年日本社会の中で真面目に生活してきた人たちが、将来に希望を持ち、安心して暮らせる制度であってほしいと思っています」

Writerこの記事を書いたのは
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フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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