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【エッセイ】「10万年後」に僕たちは何を届けるのだろう―福島県大熊町、帰還困難区域の空を見上げながら

遺構保存の是非が議論されている熊町小学校の校庭から。教室内部は当時のまま残されており、原子力災害の様子を伝え続けている。(佐藤慧撮影)

毎年8月25日前後には、福島県大熊町に向かう。

東日本大震災時の津波により犠牲となった木村汐凪さんの誕生会を、父の紀夫さんたちと一緒に過ごすためだ。紀夫さんは、今も汐凪さんの遺骨捜索を続けている。これまでに、顎や歯、首の骨の一部や右大腿骨が発見されたが、多くはいまだ見つかっていない。

東京電力福島第一原子力発電所の1~4号機が立地している大熊町には、いまだに「帰還困難区域」が残されている。人の自由な立ち入りが制限され、その奥には、「中間貯蔵施設」が広がっている。そこは福島県内の除染で出た土や廃棄物を最終処分するまでの間、安全に管理・保管する施設とされ、2045年3月までに福島県外で最終処分することが法律で決まっているが、具体的な場所は、まだ決まっていない。

周辺には、人々が日常を営むほかの場所とは違う空気が流れている。

骨組みだけ残った建物は、無言で津波の恐ろしさを伝えている。植物に覆われ朽ちゆく家々は、突然人間が消え去ったことを物語っている。入域にあたって貸し出される線量計は、目には見えない放射線の存在をささやいている。遠くの山に連なる鉄塔は、僕自身が搾取構造の一部であることを告発する。あの日めくられたまま閉じられていない本は、その先にあったはずの「続き」を今も待ち続けている。

あまりにも大きな喪失が、この土地にぽっかりと虚無を刻み込んでしまったかのような、そんな空気を、ときどき感じる。

津波により壊滅した「福島県水産種苗研究所」の跡地。福一原発のすぐ近くに立地している。(佐藤慧撮影)

けれどそれとは対照的に、あふれるような命を感じることもある。

毎年舞い戻ってくるミサゴや白鳥、極寒の冬を越えて芽吹く新緑、鮮やかなシンフォニーを響かせる鳥のさえずり。地球の鼓動のように脈動する海──。人間以外のたくさんの命が、そこで同時に「生」を奏でている。

汐凪さんの誕生会は、祈りの時間だと感じている。

紀夫さんの親しい友人たち、仲間たちが集まり、音楽を奏でたり、詩をつむいだり、浜辺に寝転び空を眺めたりする。汐凪さんがいなかったら、きっと出会えていない人たちと、大きな命にかこまれながら、消えゆく命に思いをはせる。

誕生会の催しの一部で仲間たちと音楽を奏でる木村紀夫さん。汐凪さんの好きな曲を中心に選曲している。(安田菜津紀撮影)

この地に限らず、全国の原発で発生し続けている高レベル放射性廃棄物をどのように処理するのか──処分場の選定はこれからの課題だ。

決定には、「文献調査」「概要調査」「精密調査」を経る必要があり、約20年の歳月が必要とされる。これまでは自治体側からの「自発的な応募」に頼っており、北海道寿都町や神恵内村ではすでに文献調査の報告書がまとまり、現在は佐賀県玄海町などで文献調査が進められている。

今年2026年からは、「国主導で自治体に申し入れる」形式も本格的に動き出した。東京都小笠原村の南鳥島では文献調査の受け入れが決まり、今年5月から調査が開始されている。さらに8月には、茨城県常陸大宮市にも申し入れが行われた。

文献調査を受け入れた自治体には、国から最大20億円の交付金が支払われる。さらにその次の概要調査へ進むと、最大70億円が交付される。過疎化や財政難に悩む地方自治体にとっては非常に大きな金額だが、その額は何を表しているのだろうか。

太平洋に面する砂浜。波の音だけが遠くまで響き渡る。(佐藤慧撮影)

高レベル放射性廃棄物は、「最低10万年」は安全に管理する必要があるという。

百年も経てば、地球上に生きる人間の命はほぼすべてひとめぐりしているだろう。

10万年後の世界を僕は想像できないが、今の「日常」は、10万年後の「何か」を消費しながら成り立たせているものだということに、眩暈を覚える。

その未来に、あふれるような命はあるだろうか。

その命を傷つけるものではなく、少しでも輝かせるものを、僕たちは届けていけるだろうか。

汐凪さんにいただいた時間の中で、雲の流れる空を眺め、そんなことを考える。

季節とともに廻りゆく命。(安田菜津紀撮影)

木村さんが主宰する「大熊未来塾」のページはこちら。

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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