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値切られた補償、争い続ける国——生活保護引き下げ、2026年最高裁も違法と判断

「厚労大臣の判断の過程および手続きには過誤や欠落があったと指摘された。深く反省しおわびする」
高市早苗首相は2025年11月7日、生活保護の基準額引き下げを違法とした最高裁判決を受け、国会でこう答弁している。この時点で、判決から4ヵ月以上が経っていた。この「おわび」は、果たして中身の伴うものだったのだろうか。首相や大臣らから原告への直接謝罪は、今もない。
政治的意図に沿うように行われた大幅引き下げ
2012年末の衆院選で政権復帰を目論んでいた自民党は、保護費の1割削減を公約に掲げ、実際、その意に沿うような引き下げが行われていった。
安倍政権下の2013~15年にかけて、生活扶助基準が平均6.5%、世帯によっては10%という、過去最大の引き下げが行われた。その違法性を問う「いのちのとりで裁判」は、29都道府県で、千人を超える原告によって提起されていった。
10年を超える裁判の末、2025年6月、最高裁は大阪・愛知訴訟について生活扶助基準改定の違法性を認め、保護費減額処分の取り消しを命じた。
しかしこの判決を経てなお、国側の意向を受けた自治体は各地で続く裁判で、争う姿勢を崩さなかった。
このうち、高裁で原告が敗訴となった4訴訟(秋田・兵庫・佐賀・熊本)の最高裁判決が10月23日に言い渡された。
2025年最高裁判決と国による補償「値切り」
今回の最高裁の判断に触れる前に、昨年2025年判決を振り返っておきたい。国が生活保護基準引き下げの根拠だと主張してきたのは、①「デフレ調整」と②「ゆがみ調整」だった。それぞれの詳細については、昨年の最高裁判決についての記事で詳しく伝えている。
「物価偽装」と指摘されるほどの恣意性があった①「デフレ調整」については、厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったとして、違法とされた。
一方、②「ゆがみ調整」については、《所得下位10%層の消費実態と生活扶助基準を比較し、その間にある「ゆがみ」を「是正」した》というのが国の言い分だが、最高裁は「裁量権の逸脱・濫用とまでは言えない」とした。
こうして個別の論点での判断は分かれたものの、判決は減額処分「全体」の取り消しを命じていた。
それにもかかわらず判決後、国側は、「ゆがみ調整」が違法と判断されなかったことなどを口実に、全額の補償に応じず、「新たな減額」改定によって「追加給付」額を値切るなど、最高裁の判断の意味を毀損する極めて不誠実な対応を続けてきた。詳細はこの記事で伝えた通りだ。
ちなみに宇賀克也裁判長(当時)は、「ゆがみ調整」の違法性、国家賠償、ともに認めるべきだという少数意見を付記していた。
10月8日、仙台で開催された日本弁護士連合会第68回人権擁護大会で講演した宇賀氏は「いのちのとりで裁判」の判決にも触れ、「なぜ専門機関にもはからず、ゆがみ調整がなされたのかという(国側の)説明が変遷していた。判断過程統制(※)の手法を貫けば、違法だという意見を私は書いた」と振り返った。
(※)判断過程統制(判断過程審査)
行政庁が裁量権を行使し決定した「結論」が妥当かどうかではなく、「結論に至るまでのプロセス(判断過程)に裁量権の逸脱・濫用などがないか」を裁判所などが審査する手法。

10月8日の人権擁護大会で講演する宇賀克也元最高裁判事。(安田菜津紀撮影)
2026年最高裁判決、「ゆがみ調整」に言及せず
今回2026年10月23日判決では、「デフレ調整」の違法性については昨年判決を踏襲したものの、「ゆがみ調整」については言及せず、関連する判決部分を全面削除した。原告団・弁護団らの共同声明では、「(2025年の)判決後の国の対応を追認しない姿勢を明確に示した」と評価した。
佐賀原告の代理人である甲木美知子弁護士はこの「ゆがみ調整」について、「国が理由を変遷させてきたものを後付けで認めてしまえば、判断過程に問題があっても結果がよければ妥当だと最高裁が言ってしまうことになり、デフレ調整への判断と矛盾してしまう。今回の最高裁は何も言及していません。ゆがみ調整の正当性をあえて認めなかったと言うことができる。一歩進めてくれた判決ではないか」と指摘する。

左から、秋田原告の櫻田雄美さん、兵庫原告の北風正二さん、西村英二さん、甲木美知子弁護士。(安田菜津紀撮影)
実は4訴訟のうち、熊本訴訟に関しては、一審で原告が勝訴しており、「デフレ調整」「ゆがみ調整」ともに違法性が認められていた。
今回の最高裁判決では、熊本訴訟に関して、「原判決のうち、上告人らに関する部分を破棄し、同部分につき、被上告人らの控訴を棄却する」とされている。つまり、一審の判決が確定する内容となっている。
秋田原告の櫻田雄美さんは、「この結果が、追加給付にどう関係してくるのか、厚生労働省の判断がどう変わってくるのか期待したい」と語った。
いのちのとりで裁判全国アクション共同代表の尾藤廣喜弁護士は、国が補償額を「値切って」きた経緯について、「厚生労働省が言い訳にしているのが“ゆがみ調整は違法ではない”でしたが、今回、最高裁はその道を封じました」と強調した。

勝訴後の集会で発言する原告の櫻田さん。(安田菜津紀撮影)
「やり玉」にあげられる生活保護
しかし国会では今も、生活保護が「やり玉」にあげられることがある。
2026年10月19日、「与党」でもある日本維新の会、猪瀬直樹議員は参議院予算委員会で、飲食料品の消費税減税に伴う予算確保と「税金の無駄の削減」について質問した。この中で、2026年度の生活保護費負担金全体の約3.7兆円のうち、医療扶助が半分以上の1.9兆円を占めていることに言及。これが全て税金で賄われていることや、不要・不適切な形で医療サービスが利用されるなどの「モラルハザード」のリスクについて問うた。高市首相は「不正事例の対応を含めて医療扶助の適正化は必要」と応じた。その「事例」が何件報告されているのか、という数値についての言及はなかった。
ちなみに厚労省の試算などによると、生活保護費総額に占める「不正受給」は額でいえば全体の0.5%(2024年度)ほどだ。「不正」とされる事案の中には、ケースワーカーの説明不足に起因するアルバイト代未申告や運用不備などの事例も含まれていると指摘されてきた。
また本来、生活保護を受けられる世帯のうち、実際に利用できているケースは2割程度に留まるとの見方もある。「不正」は肯定すべきではないが、そもそも生活保護につながることもできない多数の人々を置き去りにし、「悪質」なケースが「横行」しているかのように強調する言動は、実態を反映していない。
なおかつ、違法な生活保護引き下げの被害は、繰り返しになるが、適切に補償がなされていない。現在、各地で再減額の取り消しを求める審査請求が行われており、認められなければ、違法性を争う訴訟が行われる見通しだ。
しかし「いのちのとりで裁判」の原告は、最大時1022名だったが、4分の1を超える279名がすでに亡くなっている。全面解決を拒み、さらなる引き延ばしを図ることがあってはならないだろう。国はその不作為によって生存権を奪った責任と、正面から向き合う必要があるのではないか。
生活保護「追加給付」電話相談会
2026年12月1日(火)午前10時~午後6時
フリーダイヤル 0120-157-930
Writerこの記事を書いたのは
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フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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